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1-7 景色と祝福

 -あれ、いつの間にか眠って-


 陽光の明かりに呼びもどされた意識。眠りに落ちる前に何かをしていた気がする。


 -そうだ! 魔法が行けるんじゃないかと思ったところだったんだ!-


 -確か魔力を動かせたと思ったらそこで落ちたんだ-


 一度意識すれば記憶を手繰るのは簡単にできた。そして自分が魔法に漸く手をかけることができたのだと頬が熱くなる。


 -だけど少しばかり動かしただけで眠っちゃうのはまずいな-


 -幸いにして練習して眠っちゃっても赤ん坊ならしょっちゅう寝てても不自然ではないか-


 赤ん坊でいる期間はパスカルにとって苦難の時でもあったがそれを上回るメリットがこの時にははっきりと感じられた。


 早速とばかりに体に意識を集中するパスカルだったが、直後にアデリナとデニスが部屋に入ってきた。


 パスカルはすっかり忘れていたが朝食の時間であった。

 



 朝食後にはすぐに魔法に取り掛かるつもりだったパスカルだったが今日は勝手の違っていた。


「パスカル、今日はちょっとお出かけするわよ」


 相変わらず半分以上は何を言われているかはわからないが何となく外に出るような気配は感じられた。


 これまで見てきた何となくゆったりとした布地の服装から、あそびの少なめな服へと変わっていたからである。


 最初こそ何事かと思えたもののその事実に気づいてからはパスカルは興奮を覚えていた。


 もし自分の想像通りなら初の外出であり、自分が願ってやまなかった機会がついにやってきたのだから。


 そうこう考えているうちにアデリナとデニスがパスカルの用意を整えていく。


 -どうやら間違いなく外に出れるようだ-


 二人の用意はすでに済んでおり、パスカルの分の用意はあっという間に終わり出発と相成った。


「じゃ、行こうか」


 デニスが玄関の扉に手をかける。ゆっくりと開いていく扉に緊張と期待がないまぜになってパスカルに押寄せる。


 柔らかな光が差し込む。穏やかなはずの光はまだパスカルにとっては強すぎる刺激で、思わず目をつむる。


 少だけ目を休ませた後で飛び込んで来る景色。生まれてから願い続けてきたものがそこにあった。


 アスファルトとは違う何かを敷いた道に淡い色をした家の数々。それも3階程度でかつての高層建築などは一切見当たらず、空がずっと高く感じられた。


 -魔法の時点で異世界だとは思っていても、街もこう違うとやはり異世界だと感じるな-


 慣れ親しんだ前世の光景とは何一つとして一致する点が存在しない。道こそ敷設してあるがアスファルトには見えない。


 おそらくは魔法か全く別の物質だろうか。


「泉だけだしゆっくり行きましょう」


 思考に没頭するパスカルの耳朶をアデリナの声が打つ。


 -どこかに行くのは分かったけど、どこなんだろう-


 -生まれてから行くとなると宗教関係だろうか-


 -そうすると洗礼とかやるのかな-

 前世の知識に照らし合わせたときに一番可能性がありそうなのが教会か近しい施設だろうと推測された。


 -前は無宗教だったし、ここでは宗教に触れるのも何か面白そうだな-


 未知への好奇心か異世界の宗教への期待からか際限なく気持ちが高まっていく。


 気が付かないうちにパスカルの顔は緩み切っていた。


 これに気づかないアデリナではなく、パスカルの変化はすぐにとらえられてた。


「あら、本当にうれしそうな顔してるわ」


「この分だとやっぱり家の中じゃ退屈だったみたいだね。 魔法でまぎれてはいても暇を感じてたのかもしれない」


「将来はやんちゃになるわよ?」


「お手柔らかにとは思うけど、そうもいかなそうだな…」


 ぼやくように語るデニス。しかし言葉とは裏腹にその顔は隠すことのできない笑みを浮かべていた。

 

 


 歩くこと暫く、パスカルの感覚では20分程度に感じられる距離を移動していた。


 それまでに見たものは自分の居場所が地球であるという疑念を跡形もなく吹き飛ばしていた。


 街歩く人々の髪は色とりどりでアデリナのように青の髪や金に銀、果ては緑髪までとパレットの中に紛れ込んだような感覚すら去来していた。


 -疑っちゃいなかったけどここまで見ちゃうと地球ってのはありえないよな-


 -仮にあの髪色が染料だったとしたらそれこそおかしい。衣服や住居と比べてレベルが違いすぎる-


 -技術はどこかが突出してもほかの分野も追随して少しずつ全体が同じレベルに近づくはずだ-


 -多分魔法は有っても工業にまでは至ってないって感じなのかな-


 正しいかはわかならない。それでもぼんやりとした世界への色が見えてきた気がした。


 そう考えているうちに風景は家々の並びから少しずつ自然の緑へと変わってきた。


 鬱蒼とした森とまではいかない、それでも数多の木が並んでいる。


 パスカルを抱くアデリナとデニスの足取りは変わらないことから全く手つかずの森ではないらしい。


 体をひねって地面を見てみれば土が露出しており踏み固められていることがわかる。


 そこそこの人の往来はあるらしい。


 -でも何でこんなところへ?


 -まさか森の中に何か施設でもあるのか? にしては随分と不便そうだが-


 そうして森へ入ってから数分程度でそれまでとは違った開けた場所が存在していた。


 木々が多きく間を開けてその中央に水を湛えている。


 澄んだ水に陽が反射してキラキラと輝きを放つ。


「さあ、パスカル、ここがエーディトの泉よ」


 そうしてアデリナは腕に抱くパスカルの向きを変える。


 頭が上を向く形だったのが、正面を向いた形となり泉の全景をとらえる。


 パスカルの考えていたように教会に行くわけではなかったが、透明度の高い泉が映す青色と水面の輝きは神秘を宿していた。


 -どこに行くかと思ったけど、これは良い場所だな-


 森の中へ入って行くときに感じた疑念は吹き飛び、ただ喜びへと変わり感情を支配する。


 -そこまで大きな泉ってわけでじゃない、でもこの水の綺麗さはとびぬけている。それに場所自体が何か厳かな感じだ-


 -なのに圧迫感とかそういうのは感じない、不思議な場所だな-


 パスカルが感じたようにこのエーディトの泉はそう大きな場所ではない。


 大人であれば10分もあれば一周できてしまう。しかしそれだけではない特別たらしめる雰囲気が場には満ちていた。


「アデリナ。このあたりで良いと思う」


 デニスの声にアデリナが歩みを止める。


 泉から2mほど離れた場所でちょうど新たに水の湧きだすところだった。


「パスカル、ここは精霊の宿る泉。貴方の未来が幸福に満ちていることを。」


 言葉を言い終えるとともにデニスにパスカルを預ける。


 両腕を自由にしたアデリナは水面に近づき、指先を水へ付ける。


 そしてその水をパスカルの額へと落とす。


 ひんやりとした感触が額から伝わり少しずつ流れていく。


「…精霊の祝福があらんことを」


 デニスとアデリナの声。パスカルへの洗礼と祝福が行われた瞬間だった。

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