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2・魔王

 魔王城──────


 それは元々この世界に有ったものではない。それは突如現れた『魔王リーディア』の手によって造り出されたものだからだ。加えてこの世界に魔王なる者も存在しなかった。

 魔王が魔を統一するまでは8魔将と言われる8匹の魔物が世界の覇権を競い争っていたからである。天を裂き地を砕くそれは人の身どころか他の魔物からしても災厄で、その8匹は畏怖と崇拝の対象とされいつしか8魔将と呼ばれる様になっていた。


 魔王城の最上階の大広間。今ここに魔王始めその8魔将全てが集結していた。


「それで やつらの国で何か動きがあったそうだな」


 彼らの前から聞こえてきたのは低く威厳と力のある声ではなく、高くそれでいて可愛げのある子供の声が、背伸びしたかの様な尊大な言葉で耳に届いてきた。それもそのはず8魔将の前の巨大な椅子に座しているのは10歳くらいの人間の女の子なのだから。


「はい どうやらかの者らの国で新たに勇者が召喚された模様です」

「ハッハッハ! やつららしいな で? どんなやつなんだ? その勇者とやらは」

「はい 斥候の報告では小柄の男だとか・・」

「アッハッハッハッハッハッハ!! ザマァ無いな! とうとうなりふり構わなくなったか? 自分達の命運が尽き掛けて(ようや)く重い腰を上げたか」

「偉大なる魔王様 一つ御伺いしたき儀が御座います」

「ん? 何?」

「あなた様は我々を力で束ねる程の御方 よもやこの世にあなた様を超える者などおりますまい 然るに何故かの者らに執着なされるのでしょうか・・・」

「ふん・・・聞きたいのか?」


 それは8魔将全人の疑問だった。彼らにとって人間は蟻と同じ、街や城など巣穴と同じ、気にする程のものでもない。

 彼らは互いに何百年も争いあってきた。皆自分こそがこの世の頂点と疑いもしなかったが、ある時ぽっと出の人間の、しかも小さな女の子に完膚なきまでに叩きのめされたのだ。勿論出し惜しみなどしない。取って置きの切り札を出した上での完敗だ。その様な者が8魔将と呼ばれる者達を纏めあげ何をするのか─────

 それこそが疑問であり肝要だった。


「あいつらはなぁ・・・・私が入浴中なのを見計らってこっちの世界に召喚しやがったんだ!!」


 魔王は自分の座る椅子を「ダン!」と叩く。8魔将は何も言わない。


「裸でホッポリだされた私に近づいて あの糞ジジイども 「どれどれ濡れてるねぇワシらが拭いてあげようね」 とかぬかして体を触ろうとしてくるし 挙げ句の果てには《透視する魔法の壁/マジックウォール》で私のトイレを雁首揃えて覗いていやがったんだ!!」


 《透視する魔法の壁/マジックウォール》分かりやすく言うならマジックミラーの壁版だ。正面からはごく普通の壁にしか見えないが、裏からはガラスの様に透けて見る事ができる。そのさして広くもない個室に、国王含め諸侯達はぎゅうぎゅう詰めになりながら魔王の憚り事を真正面から凝視していたのだ。


「それだけじゃない!! 私がベットで眠ろうと横になったら そのベットの中にあの糞ジジイが潜んでやがったんだ!!」


 それは勇者の修行で疲れていたおり、ベットに横になり睡眠をとろうと思った夜半の頃だった。

 ふかふかのベットに身を任せようとダイブしたら、何故かあり得ない固さの衝撃が体に伝わってきたのだ。それと同時にベットの中から「ぐふぅ」と言うくぐもった嗚咽が流れてきたので、魔王は「はっ!」としてベットのシーツを破り捨てると、そこにはご丁寧に人形にくりぬかれたマットの中に国王が仰向けで詰め込まれていたのだ。


「あのジジイそれを問い詰めると 「ここはどこじゃ飯はまだかのう」 とかボケたふりしやがって!! その調子で体を触ってくるし 風呂も覗いてくるし ベットに潜り込んでくるし!

 もう限界だ!! あんな所にいたら私の貞操の危機だ!」

「あの・・・魔王様・・まさかそれが理由で出奔なされたと?」

「あぁその通りだ あいつらはお前達を何とかするために私を呼んだのだからな だから私はお前達を使ってあいつらをビビらせて泣かしてやるのさ クーックックックックック!」


 8魔将はプルプルと震えていた。自分達は皆、世界の頂点である自負があった。何百年も生き自らを研鑽し高め究極を手にしてきたが、いきなり現れた人間の、しかも小さな女の子にボコられてやる事と言ったらくだらない復習だと言う。

 彼女が勇者として自分達を討ち滅ぼすなら彼女は誰よりも強かったとまだ得心はいくが、しかし人間どもは自ら呼び出した勇者に、己が欲望を押し付けた挙げ句魔王へと変貌させ、自分達を人間どもの下世話な都合に巻き込んだのだ。到底許せる事ではない。


 だが全員でかかれば或いはと言う思いも無くはないものの、長年歪み合ってきた事で奥の手は見せたくない思いと、人間の子供相手に一斉に襲い掛かるという事をプライドが邪魔をして誰も言い出せないでいた。


 魔王はピョンと椅子から飛び降りると正面のテラスに躍り出て、眼下に広がるファートランド王国と憎っくき糞ジジイのいる居城を見下ろした。


「ふん! 見ていろ糞ども! お前らのせいで漫画もアニメも見れなくなったんだ! 腹いせにせいぜい嫌がらせをしてやる

 私の本名は泉野女(いずのめ)理呼(りこ) (ことわり)を呼ぶと書く お前らのしてきた事で今があると言う事を たっぷりと思い知らせてやる アーッハッハッハッハー!!!」


 ここは王城の東に位置する山脈の峰、魔王の城は以外と近くにあったのだ。




 8魔将それを正確に述べるなら、齢を重ね他者を食い進化を遂げた魔物である。普通の魔物は肉体があり内に流れる魔力によって様々な現象・効力を体現するが、8魔将はその現象そのもので、つまりは奇跡そのものである。この世界にあるあらゆる奇跡を具現化した姿は時折「神」とも「悪魔」とも称され、その力の前にひれ伏した魔物達は自然の摂理同様、彼らに頭を垂れるのだ。

 互いに長い年月闘争し続けてきた彼らだが、今一人の主の元統一された事により、表向き束の間の平穏を手にできているのも事実である。


「それで・・・我々はこのままでよいのか?」


 《降誕の愉悦・森のビオラント》

 大きな魔法使いの帽子を被っているがその中身は蔦が絡まった様な植物。服の間からは植物の根がはみ出している。


「よいも何も 我々は全力で戦って負けたのだ この先の選択肢などあるまい」


 《死歿への誘い・腐界のナデュラ》

 頭にターバンを巻き付け手は異様に長く袖からは骨の指が覗く。背中からは蜘蛛の足が突き出している。


「しかしあんなガキにやられたとあっては俺達の沽券に関わるぜ!」


 《業火の樽俎・灼熱のマエストロート》

 体は筋肉質で赤黒く、頭からは炎の様な角が出ている。腰から生えているドラゴンの尻尾の先には炎が灯っていた。


「お前とて堂々とやり合って負けた口だろう? ナデュラの言うとおり我々に選択する権利はないのでは?」


 《水禍の呼水・溟海のリヴァーチェ》

 体は水かそれともスライムか。女性の姿を模しているが時折その形が歪む。しかしながらその体は透明で美しく、とても頂点に上り詰めた者には見えない。


「俺はマエストロートに賛成だ 長年生きている内に俺に付き従うものも多くいるのだ それがあんな小娘にやられとあっては面目が立たん! やはり看過できる事ではないな」


 《狂飆の嵐・颶風のスヴァンテ》

 銀の鎧に身を包み、頭には鳥の形の兜を被っている。至るところから羽が生え背中からは何対かの大きな羽がついていた。


「しかし無策で挑んだところで返り討ちに遭うのが関の山だ 何ぞに良い策は無いものかの」


 《壌土の恩寵・石巌のコルタナ》

 砂の体に色とりどりの土・鉱石で出来たドレスを着ているが、それは色を変え形を変え様々な模様を描き出す。


「今日はそれを話し合うための集まりでもあるんだろう?」


 《燦爛たる綺羅星・煌めきのイゾフィリス》

 兎に角眩しい。


「皆のもの 少し落ち着け取り敢えずは従順なふりをして機会を窺うという方針で良いのだな?」


 《常闇の最奥・深淵のレゾフォルテ》

 フードのついたローブの中には、光すら飲み込み逃がさない程の闇がある。どこが顔でどこが体の四肢かはわからないが、確かにローブは人が着ている様な動きをする。


「その方針で間違いはないが作戦はたてるべきだ こんな事はあまり言いたくはなかったが ここは一つ共闘といこうではないか」

「本気か? ビオラント 我々の力は強大で干渉しあうと互いに魔力が分散されよう」

「ならば特訓すれば良いだけの話だ」

「成る程 特訓か それならいけるかもしれないな」

「特訓だぁ!? ふざける!・・・・・・いやぁ? 特訓か・・・そうだな それがいい」

「では各々方 賛成ということで宜しいかな?」

「あぁ 異議は無い」


「「「「フフフフフフフフフフ」」」」


 彼らは密かに魔王討伐のための特訓に託つけて、それぞれが他者の弱点を探るという打算のもと特訓を慣行する事に決めた。

 彼らは数百年生き全ての魔物の頂点に立った8匹──────

 ここは魔王城の物置小屋。彼らはぎゅうぎゅう詰めになりながら魔王リーディアにバレない様細心の注意を払い、秘密の会合を開いていた。


 もう一度言おう。彼らは数百年生き全ての魔物の頂点に立った──────



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