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1・召喚

 国王テオナルド・ローズタリア・ファートランドは、とある難題に頭を抱えていた。


 ここファートランド王国はその昔、周辺諸国を纏め上げた英雄が興した国。その歴史は古くテオナルドの代で300年は続く、この世界で最も長く存続している国なのである。それが今危機に直面していたのだ。


 王座の間、そこにこの国の首脳陣と有識者が集められ、いつ終わるとも知れない長丁場の会議が続けられていた。


「まさかあの様な事になろうとは・・・・」

「王よ 過ぎた事を嘆いていても始まりませぬ ここは早急に新たな手だてを講じねば 300年続いたファートランド王国は滅亡してしまいますぞ!」

「しかし よもやあの者が魔王となり世界に仇なし互いに争いあっていた8匹の魔物 8魔将を束ねてしまうとは・・・・」

「そもそもあの様な小娘を召還したことが事の間違い やはり勇者としての器ではなかったと言う事です」

「だが8魔将に対抗するには強大な力が必要だった事もまた事実 それはここにいる全員で決めた事ではないですかな?」

「私はただあの娘が間違いだと言っているだけだ」


「よい 皆のもの・・・伝説でもこうある《この国に危機が訪れる時 異世界から奇跡がもたらされ 国の平和は保たれるであろう》と・・であるなら────


 次こそ勇者を召還すればいいじゃない!!」


「「「「おぉ~~~・・・」」」」

「し・・・しかしまた前の様な事態に陥る可能性もあるのでは?」

「この国は危機に瀕しておるのだ 伝説の通りであるのなら 次に呼ばれる者はきっと勇者に違いない」

「そ・・・そうなのでしょうか・・事は慎重を要さねば同じ事の繰り返しですぞ?」

「うむ そろそろ色好い返事が聞けると良いのだが・・・・神託の巫女! 神託の巫女はいるか!」


「国王陛下 ここに控えて御座います」


 歳にしてまだ12かそこら、この荘厳な王座の間には似つかわしくない声が部屋全体に響き渡る。諸侯達の背に隠れて見えなかったのか、その少女は国王の前まで来ると臣下の礼をとり跪いた。

 巫女の着ている服はこれが正装なのか或いは趣味なのか、まるで水着の上に布を巻き付けたかの様な格好で、サイズもきつめなのか体に程よく食い込み、跪いた際も食い込んだ水着のお尻の部分の布をそれとなく直したが、それは後から丸見えな為、首脳陣・有識者共にそこに目がいく。


「おぉ~~ わしの可愛いメルディアよ そんなところにおらんと ジイジに甘えにおいで」

「国王陛下 ここは歴史ある王座の間 それに周辺諸侯の皆様もおいでになられているのですよ? 公私混同は時と場所を弁えて下さいませ」

「良いではないか 良いではないかぁ~~」

「それよりも陛下 次こそ勇者に相応しいと思われる人物を探し出すことに成功いたしました!」

「おぉ~! して その者は!?」

「はい!《春季》と言う名の男の方です!」

「・・・・・・・・そうか・・男か・・」


 首脳陣・有識者からは感嘆とも落胆ともとれるどよめきが起こった。


「やむを得ん この窮地に選り好みなど出来ぬでな・・・

 神託の巫女メルディアよ! 早急に儀式に取り掛かるのだ!」

「はい 御下命賜りました」


 そう言うとメルディアは「必ず成功させて見せる」と言う意気込みと共に王座の間を後にした。残された者はメルディアが部屋を出ていくまでの間、フリフリと振られる育ち盛りの臀部へと視線が釘付けとなるのだった。



 ★



 都内某所─────

 雲一つ無い青空の下、青年達の声がグラウンドに木霊する。彼らは一つのボールを追いかけ右往左往するのだが、その青年《春季》がボールを支配するとたちまち黄色い声援が飛び交う。

 整った顔立ち、すらりと高い背丈、風になびく髪、その姿はまさしく名前の示す通り春の季節の如く爽やかに駆け抜けていった。


「キャー! 春季くーん!」

「春季! いっけーー!!」


 しかしそこは相手方も承知しているところで、彼にボールが渡ると数人がかりで奪いにかかる。流石に部が悪いのかそれともそれがサッカー部員達であったためか接戦の末、ボールは一人の生徒の前に転がっていった。


「春季! ホラ! ドリブルドリブル!」

「春季く~ん 頑張って~~~あはははは」


 ボールは誰の抵抗も受けることなくゴール前まで運ばれるとキーパーは「やれやれ」と言う顔で守りにつき、彼が足をあげ今まさにボールが蹴られようとしている時─────




 それは起こった・・・・・




 僅かな微振動、次いで周囲から音がなくなる。その空間はグラウンド全体を包み、まるで空に大きな雲でも湧いたかの様に暗くなると、下に落ちている小石が宙に浮き出した。その変化に周囲は困惑する。「なんだなんだ」と辺りを見回す者や、日が遮られた事により気温が下がったため腕や足を擦る者、上を見る者と様々であったが、彼に写っているのはボールでありならばゴールを決めなければならない。

 彼が全力で足を振り抜きボールを思い切りゴールへと蹴りだした時、土の感覚とは違う感覚で軸足がズルリと滑ると後ろに転倒し激しく頭を打った。

 それと同時にボールはゴールではなく人の顔に直撃したらしく「おぶっ!」と言う声と共に後ろに「バシャーン」と倒れこみ、この時周りから聞こえる「キャーーーーーーーーー!!」と言う悲鳴が、どういうわけかお風呂場で聞く様な反響した音となって彼の耳に届いた。


 ペタペタペタと走っていく音「姫様ー!」と叫ぶ声。彼が状況を飲み込めず困惑していると、この部屋の入り口から入ってきたであろう鎧を着た女性達に力ずくで連れ出されてしまった。



 縄で縛られ引っ張られて来た先は、まるで何処ぞの宮殿のようで、天井は高く全体的に白を基調としたデザインで統一され、装飾・彫刻・窓の様相と以前テレビで見た事のある外国のお城のようだと思った。その大きな部屋の中央で膝まずかされると、目の前には何段かの横に長い階段状の段差があり、その先にまるで王様のような出で立ちの初老の男性が、訝しげに彼を悠然と見下ろしていた。


「この者は?」

「は! ミゼルヴァ様の湯浴みの最中に襲い掛かった賊に御座います!」

「よし首をはねよ」


 鞘から抜かれた刀身が「シャンー」という甲高い声をあげる。何がなんだか解らずあれよあれよと事が進んでいくことに今更ながらあたふたするが、無理やり座らされ後ろ手に縄を縛られた状態はどうする事も出来ない。


「え? あの・・・ちょ・・!」


 初めての声を発したものの剣は高らかに振り上げられ下賎な輩を斬って捨てる喜びに、誇らしく輝く様に光を反射させていた。


「お待ちください!!」


「ダン!!」と大きく扉の開ける音が鳴り響き軽い足音が聞こえてくると、初老の男性と彼の前に立ち塞がり許しを乞うた。


「お待ちください! 国王陛下!!

 この方が《春季》様です! 召還の儀式のおりちょっとした不足の事態に陥りましたが儀式事態は成功した手応えはありました!

 召喚陣には現れなかったものの ここにこうして現れた事が何よりの証拠で御座います!」


 目の前には桃があった。あとほんの少し顔を前につき出せば見事に挟まれるくらいの近さにに二つの桃が生っている。少女が力一杯喋る度に桃は僅かに揺れ、その果実特有の甘い香りが彼の鼻先を掠めると、こんな状況だというのに鼻孔いっぱいに空気を吸い込み香りを楽しみ、揺れる果肉に目を喜ばせた。


「ねっ! 《春季》様!」


 くるりと振り向きこちらに見せた顔は美少女だった。服装は何故か水着の上に布を巻き付けたかの様な格好で、サイズもきつめなのか体に程よく食い込んだ感じがマニア心をくすぐり、思わずだらしのない顔に破顔してしまうが、これは健全な男子なら仕方の無い事だろう。


 2人はしばし無言で見つめあった─────










「あなた・・・・誰ですか?」



「え? あの・・・・僕《春季》です?」

「嘘です!! 私の知る春季様はもっと背が高くて格好良くてサラサラの髪で! あなたの様にちっちゃくて短足で髪もごわごわで変な顔でお腹も出ていません!!

 召喚儀式の時にあの方の存在を近くで感じました!! 私の春季様は何処ですか!!」

「あぁ それ・・・たぶんもう一人の春季君と間違えたのでは?

 僕の名前は《天照『洲』(あまてらす)春季》で彼の名前は《天照『州』》春季

 名字の『す』にさんずいがついて無いんですよぉ」

「何ですかそれ!! そんなの知りません! 断固やり直しを要求します!!」


 美少女はユッサユッサと春季の肩を掴み前後に揺するが、春季の目は美少女の発展途上の二つの丘にフォーカスされている。大きくはないものの彼女が春季を揺する度に僅かながらもそれなりに揺れる感じが春季のハートを鷲掴みにし目を離さない。

 彼らがもみ合っているとまた一人の女の子がこの部屋に入って来た。が、春季を揺する美少女と部屋に入ってきた美少女の顔は殆ど見分けがつかない程にそっくりだった。


「メルディアお止めなさい この方はあなたの不手際の犠牲になったのですよ? 正式に謝罪をしなければならないところを 自分の失敗すら人のせいにするとは何事ですか!」

「だ・・・だって・・」

「だってではありません 春季様申し訳ございません 今回は我々の都合で召喚の儀式を執り行う事になったのですが 事故により間違えてあなた様をこの世界に呼んでしまいました

 誠に申し上げにくいのですが 今の我々ではあちらから呼べても元の場所にお返しする手段がございません・・・」

「は・・・はぁ~」


 その美少女は僕の目の前まで来ると深々と頭を下げた。よく見るとおでこの辺りが若干赤くなっている。もしかしたら自分がボールを当ててしまった人なのではないかと思ったが、長くてちょっとウェーブがかった髪がサラリと前に垂れると、シャンプーなのかリンスなのかはたまたこの美少女の香りなのか、春季の肺を満たし脳内に「ありがとう御座います!」の黄色いお花畑が咲き乱れた。思わずニヤけただらしのない顔となるが「いぇ此方こそお構い無くぅ」と頭を下げて何とか誤魔化した。


「ふむ・・・話を纏めるとその者は間違えて呼ばれた者の様だな 加えて此方の不手際のとは言え そちを襲った不届き者 やはり生かしておく理由はない よし首を斬れ」

「お待ちください国王陛下 いえお祖父様

 過ちは葬り去るのではなく それを認め悔悛し次に活かすべきものです このお方は我々のせいで大切な方々から此方の世界へと引き離してしまいました もしお祖父様の元から私達が何者かの手で もう二度と会えない世界へとつれ拐われてしまったらどう思われますか?

 私達のした事はそう言うことです」

「ではどうせよと・・・その者はそちを襲ったと言うぞ」

「あれは不幸な事故です この方に私を襲う意思はございません そうですわね?」

「は・・・はいぃ ごもっともですぅ」

「お祖父様 もし誰も春季様を擁護しないと仰るなら 私が面倒を見ます」


 目の前の美少女は毅然とした態度で春季の前で立ち塞がった。それは春季にとって初めての経験だった。例え物事の正否が春季を正しいとしても誰も彼に賛同しない。周りの人間にとって春季とはそう言う人種だったのだ。

 見てくれ、要領の悪さ、加えて方々に噂を流され彼はいながらにして嫌われ者だった。嫌われているから嫌いと言う負の連鎖が彼をこの歳まで一人足らしめたのだ。


 自分に味方をしてくれる人はいない────


 教師ですら「お前がもっとちゃんとしないからだ」と突き放す。だから彼はいつの間にか他人を諦めていた。

 それがここに来て、決して認められた訳ではないものの、自分を肯定してくれる人間と出会え、自然と頭が上がりその人をただただ見つめていた。

 自分より年下の女の子ではあるが、その小さな背中がとても温かくまた大きく写ったのは、少女のその言葉に救われたからに違いなく、春季の目からは不思議と涙が溢れ視界がぼやけて仕方がなかった。


 春季には目の前に立つこのミゼルヴァと言う少女がまるで天使の様な美しさに映っていた。それが彼女の人間性なのか涙のせいなのか判断しかねるが、視界はぼやけ次第に彼女の姿が白くそれでいて肌色に透けてくる。


 そう・・・・彼女は天使だった。


 春季の前のミゼルヴァは産まれたままの姿で立ち、その汚れの無い無垢な姿を晒す装いは絵画の聖母様の様でもあり美の女神の様でもある。


「綺麗だ・・・・」


 その言葉に春季を捕らえていた女兵士は反応し、彼の顔を除き込む。


「《看破の目/ディテクトアイ》!? 貴様~! よりにもよってミゼルヴァ様の衣服を透視しその柔肌を目で蹂躙するとは!!」

「ぶへぁ~~!!」


 女兵士に胸ぐらを掴まれ勢いそのままにぶん殴られたが、その衝撃は今まで彼に絡んできた不良達のそれとはモノが違い、拳であるもののまるで金属バットか何かで殴られた様な重みがあり、春季の顔はその一発で顎が砕け口が閉まらなくなった。


「おのれ~!! ワシの可愛いミゼルヴァの裸体を見るとは何事か~~!!! で!! どうだった!!!」


 どうだった? どうだったとはどういう意味だろうと疑問に思ったが、取り敢えず今あったことを素直に述べようと思った。


「ミ・・・ミゼルヴァしゃまにょ うちゅくちぃチュルチュルにょ谷はとても神々ちく まるでぇ桃源郷がそこにぃありゅ様なしゃっかくで眼福でごじゃいましゅたぁ~」

「そうかそうかチュルチュルか」


 初老の男性は満足そうに頷いていた。これで打ち首は免れるかと思ったが、春季の襟を掴んでいる女兵士の顔が鬼だ。彼女は無言で春季を殴り続けた。


「おぼぉ!! ぐへぁ!!」


 腹を殴られ血を吐き出し顔を殴られ歯が吹っ飛び、何度も何度も殴られ続け春季の全身の骨はバラバラに砕けていた。脳みそもぶちまけられていたと思う。


「はぁはぁはぁ 私だってまじまじと見たことが無かったと言うのに・・・・!」

「キャーーーーーーーーーーーーー!!!

 ミファエラ!! 何故この様な事を!!」

「お美しいミゼルヴァ様の裸体が この様な虫けらの目に映るだけでも重罪です」

「その様な理由で人を殺めるなど───・・」

「ほぅ 勇者としての能力は有しておるではないか」


 グチャグチャの肉塊と化していた春季の体は元の無傷の状態に一瞬で戻っていた。それを見たメルディアは「そんなぁ~・・」と膝を落とす。春季にしてみれば女兵士に殴打され意識がとんだのが、まるで時間でも巻き戻る様な感覚で自己を認識出来き痛みもない。


「よかろう 理由はどうであれ勇者としての力があるのなら認めざるおえん

 勇者春季よ ファートランド王国国王テオナルド・ローズタリア・ファートランドが命ずる この国の為に貢献し魔王及び8魔将を倒すのだ!!」


 訳もわからないままこの様な場所に連れてこられ、死ぬ様な大怪我も一瞬で治っていた。その上勇者と呼ばれ魔王を討伐しろと言う。春季はここまで来てようやくある疑問を投げ掛ける事にした。






「あの~・・これって何かの撮影ですか?」




感想 評価 ブクマ よろしくです(*´ω`*)


「スキルさんが意思を持った世界で」と言う作品も書いてます。

宜しければそちらもどうぞ。

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