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嬉しい嘘を

作者: 風白狼

「いつもの場所で待ってる。」

そう言われて、私は公園の噴水の前へ出かけていった。そこは彼との待ち合わせ場所。いつもなら彼は、私よりも早く来て、噴水の前で待っている。けれど、今日は違った。そこにあったのは、水瓶を持った女神の像だけ。時計を見ると、待ち合わせの時間よりちょっと早かった。彼だって、少しくらい遅く来る事だってあるだろう。私は彼がいつもそうするように、噴水の縁に座り込んだ。



 けれど、いつまで経っても彼は現れない。さすがにじれったくなって、私は彼に電話を掛けた。コール音が苛ただしげな音を打つ。プツリ、とそれが切れると、彼が応えた。

『もしもし?』

「もしもし、私よ。あなた一体どこにいるの?」

少しだけ、音が聞こえにくい。電波の通じにくい場所にでもいるのだろうか。

『わりぃ、伝えてなかったな。噴水の女神像が向く方に歩いて、柵を越えてくれ。』

言われた通り、女神像の向く方角を確かめて歩く。柵を越えて、足場の悪い茂みの中に立ち入る。その先を見回してもいないから、次はどこだと問いかける。ただ、まっすぐ進んで欲しいと返るだけ。そこで電話はプツリと切れてしまった。仕方なしに、茂みの中をかき分けて進む。元々レジャー用の格好をしていないから歩きづらい。服が枝に引っかかったり、虫がいるかもしれない茂みにこわごわと手を掛けたり。そうこうするうちに、少し開けた場所に出た。そこにも、彼の姿は無かったが。休みたいとその場所へ足を踏み入れた途端、

「きゃっ!?」

足下が急に崩れ、私は穴の中に落ちてしまった。いわゆる、落とし穴という物だ。



 私はため息をついた。衝撃でしびれる足をさすって、悲しげに落ちた穴を見上げる。そういえば、今日は4月1日だった。嘘をつく日、エイプリルフール。騙されたんだ。私は彼に…。這い上る気もわき起こらず、私はただ呆然と、穴を見上げた。





 ふと、背後から押し殺したような笑い声が聞こえる。私は思わず振り向いた。暗がりだったが、そこにいるのが彼だと分かった。

「マヌケな顔してんなあ、お前。」

「どうして…?」

何を聞きたかったのか、自分でも分からない。ただ、どうしての言葉だけが出た。彼は快活にニッと笑って、私の手を引く。

「ほら、そんな顔してないでこっちに来いよ。」

引っ張られた勢いで私は立ち上がり、されるがままについていった。ただの落とし穴だとばかり思っていたが、それは洞窟につながる入り口だったらしい。岩肌の露出した道を、彼に先導されてついていった。



 外の光が、にわかに差し込む。洞窟内に広がった水面が、太陽の光を反射していた。もうすっかり日は暮れて、太陽は海面すれすれまで落ちてきていた。私は彼の横に座る。

 海に沈みゆく太陽は、茜色の光を放つ。それが洞窟内の水面にまで広がって、波の動きがそれを幻想的なものに変えていた。私はしばらくものも言えなかった。それほどまでに、美しい光景だったのだ。そこではたと思いつく。

「ひょっとして、このために嘘ついたの?」

待っているなどとうそぶいて、私をここに連れてきたかったんじゃないか。そう思ったのだ。彼はすまして答える。

「さ~て、どうだかね…」

「…何それ。」

曖昧な答えだった。嘘をつける日だからこその回答。私は苦笑いしてから、声に苛立ちを混ぜて言う。

「もう…あのままだったら私、あなたのこと嫌いになってたからね?」

「ええ~、それは困る…。」

さすがに彼もこちらを向いて、眉をひそめて情けない声を上げる。私はくすくすと笑った。

「ふふ…嘘よ嘘。」

私に笑われて、彼は頬を赤らめた。私はもう一度、美しい夕焼けを見つめる。

「でも、これを見ていたら…もっと好きになっちゃった。」

「ほ、本当か?」

彼の声が、喜びに満ちている。そんな彼が、何だか可笑しく思えた。

「さ~て、どうでしょうね…」

「何だよ、それ…」

「これでおあいこね。」

彼と同様、曖昧に答えてやった。彼は自分の台詞を返されて、困惑気味だった。それで、おあいこなのだ。私だって、困惑していたんだから…。私はただ、半分以上沈んだ夕日を眺めた。

「綺麗ね…。」

「ああ、俺も気に入っている。でも」

意味ありげに止めた彼の言葉に気付き、私は続きを待った。けれど彼は、恥ずかしそうに頭をかいて何も言わなかった。赤みを失い始めた海が星を乗せ、二人を包み込んでいた。

要するにエイプリルフールネタです

 どこかで「エイプリルフールには、その人が喜ぶ嘘しかついちゃいけないんだよ」というのを聞いて、

何だろうと考えた挙げ句がこれ。

ただの甘い恋愛物じゃねーかw


 最後、彼が何と言おうとしたかは想像にお任せします

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