始業式 ―初日から一人増えた―
月一位と思った物の書いてみました。
すみません、本当にペースはランダムです。遅くとも月一前後を目安に。
東条高校の校舎は二つの建物が渡り廊下で繋がれたロの字型になっていて、片方が全学年、全クラスの教室があるA棟が南側に、職員室や保健室、図書室等があるB棟が北側に分けられている。移動教室用の教室はそれぞれの棟にポツポツとある。
校舎の左隣、つまり西側には校舎から上履きのまま屋根のある通路に出て体育館に行けるようになっている。入学式があるのも体育館だ。
定期的に朝礼があるらしいが、それは各教室に置かれたテレビを通して放送される。体育館に集まっての行事は数少ないが、入学式はその一つだ。
あとは校舎の右隣に食堂と、体育館の北側にプールがある。夏はそこで水泳の授業があり、プールの東側、B棟の北側には大きなグラウンドがあり、体育の授業や屋外での部活動はそこで行われる。
…と、これが学校見学の際に一通り見聞きして分かったことだ。俺達は今南にある校門から教室のあるA棟に入っている。
学年と階数が比例している為、俺達は二階にある「1-B」の教室に入る。
席は特に決められている訳でも無いようで、既に席が半分近く埋まっていた。人気でもある窓際の一番後ろは言うまでもない。耳に入る会話から、ここで初めて会った女子同士でもう仲良くグループを作っていた所もある。女子ってすごいな。
適当な横並びの席に慎太郎と座って一段落しようと思った矢先に、女子グループの一つから一人の女子がこちらに気付き、声を上げて近寄ってきた。
「シンちゃーん! おはよーう! シンちゃんといっしょになれて、美也、すっごいうれしぃよぉ!」
人懐っこい顔と甘ったるい声をしたこの女子の名前は前園美也。幼稚園で怪我をしていたのをきっかけに慎太郎と仲良くなった女子だ。
そして「シンちゃんと一緒にいるから」という理由で、女子でも無い俺に嫉妬というか敵対心を持っている。別に本気で嫌がらせをしてきている訳でも無いし、今までも適当に流していた。
それを知らせるように、一瞬美也がキッと普段の顔から想像も出来ないような睨みを俺に利かせる。当然スルーするが、正直一年一緒のクラスというのに気が滅入る。
それに俺は俺で、こいつに少しイラッとすることがある。
「何だ、美也も一緒か…ってちょっとうるさいから静かにしとけって」
そう言って慎太郎が美也を軽く小突くと「うにゃっ!」という声をあげる。
「うにゅうぅぅ…シンちゃんがいじめるぅぅ…」
と少し泣きそうな声で言う。
イラつく理由が分かった奴、その通りだ。俺と同じイラッとした奴…今度飲み物でも奢ろう。
この言動で俺はもう無理。いくら周りが良いといっても俺は無理。
小、中と学校では一部の女子から「カワイこぶってる」とか「キモい」と言われていたが、それ以上に多くの同学年や上下級生から可愛がられ、慕われていた。見た目に加えて同じような人懐っこい性格もあってのものだろう。
何より高校の制服でもあるブレザーの上からでも分かる大きな膨らみは男子の目を奪い、俺含めた一部を除いて男に好かれる要素が数え役満していた。
生憎その人懐っこい性格は、俺は見たことが無い。
窓の外を見ると、雲が薄い青色の空を右から左へゆっくりと流れていた。窓から少しだけ見える建物の屋根に、俺達が乗ってきた路線の電車が走っている。
この景色が、一年間この教室で、三年間この学校で見る景色なんだな…。
そう思っていると、入学式を始める旨の校内放送が流れた。それを合図に、気付いたら教室に揃っていた生徒がゾロゾロと廊下に出て行く。美也も既に元いた女子グループの所に戻り、一緒に体育館へと向かっていた。
「よし、行くか」
慎太郎が立ち上がって促すので、俺もゆっくりと腰を上げた。
□□□
入学式には一年生と教師陣が続々と入ってきており、二、三年世は時間差で移動するようになっているらしい。まだ一年が入りきっていないから、もう暫く先だろう。
段上の前にいる教師数名が案内をし、各クラスどの位置で並ぶかを指示される。並び順は特に決まっていなかったので一番前には誰がいくかで揉めていたが、物静かに見える女子生徒が自分から一番前に並んだのを見て、その後ろに並ぶ。
大人しそうに見えて行動力がある女子だな、と思いながら、慎太郎を前にして一緒に出来上がっていく列に並ぶ。
小、中学校だともう少しキチッとしていた気がするが、まあこれはこれだな。
5分か10分か…適当に話している間に二、三年生も並び終わり、入学式が始まる。
校長の言葉に生徒会長の言葉とお決まりの流れで進んでいく。その後に教師陣の紹介になるのだが、最後に新任の教師の紹介に入る。
「教育実習を終え、今年から正式な職員となりました、如月セーラです。色々拙い所もあると思いますけど、皆さん宜しくお願いしますね?」
日本とロシアのハーフだという女教師の登場に、男子生徒が場を弁えた小さな盛り上がりを見せる。
金髪のロングに僅かに青く見える目。春物のセーターが描く強烈なボディライン。横にいる男性教師もチラチラと見ている。そりゃあ人気だ。
…それと同時に、俺は察した。
ああ、一人増えるな、と…。
「如月先生には、1-Bのクラスを受け持って頂きます」
校長の言葉に、俺達のクラスの男子が「ヨッシャ!」と言う声と共にガッツポーズを取っていた。慎太郎は慎太郎で「あんな綺麗な先生が担任か、楽しみだな雅也」とガッツポーズをしないながらも喜びを露わにしていた。
「……よかったな…」
溜息を吐きたい気持ちを抑え、慎太郎に返す。
俺の思った通り、慎太郎のハーレムに一人増えることが確定した。女教師、しかもハーフ。強烈過ぎる新キャラクターに、俺は辟易した。やることが増える。間違いなく増える。
それと、別に確定したことがある。
もしクラス委員という役割がこの学校に存在しているのなら、それは間違いなく俺の前にいて喜びを露わにしている親友になるだろう。
何故分かるかって? 経験則だ。
ああ、同時にはづきちもクラス委員決定だな。いや、はづきちは委員長か。
ふと横に目をやると、隣のクラスの女子がこちらを見ていた。俺と目が合うとすぐに正面を向いてしまったが、俺は面識が無い。
…止めてくれよ、ここで新キャラが二人も来るのは止めてくれ。切に願った。
美也の言動は敢えてあからさまな物にしました。
まだセーラさんは慎太郎と接触していないのでサブタイトルに違和感があるかもしれませんが、次に繋げます。