表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偏食な子犬拾いました  作者: 伊吹咲夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/20

手作りですから

 ポチが我が家に来てから数週間も過ぎた。

 消化もよろしく、もう病人食から普通食にしてもいいだろうと、件の女医さんが再診して言った。


「だ、そうだ。ポチ、何が食いたい」

「……何でも」

「そうか、何でも・・・・いいんだな。じゃあ俺の……」

「いえ! あの、香西さんに任せます」


 マネージャーに何を言われるのか悟ったポチは、言葉を遮ってメニューを俺に託した。


 ちゃんと食事をするようになったからか、ポチはまだガリガリだが顔色も良くなったし、前より少し喋るようにもなった。

 喋るようになったのはマネージャーがセクハラ的な発言をするから、それを否定する必要があったせいもあるし、喋らなければ何かされると思っている部分もあるかもしれない。

 まだ実際に何かしたといっても、せいぜいディープなキスくらいだ。


 ポチに本日の夕飯メニューを託された俺は、内心ラッキーと思ってしまっていた。

 実は今日の講習で、前の席を陣取っていた奥様方が映画の話をしていたのだ。

 古いアメリカ映画の話だったみたいで、最初はあの俳優がどーのこーの、あの場面が云々とやっていたのだが、


『何であの食卓とかに出てくるハンバーガーって美味しそうに見えるのかしら』


 という言葉で、俺までその場面を想像してしまった。

 フカフカとは言い難いバンズに、ワイルドなパテ。横に添えられた溢れんばかりのフレンチフライ。

 豪快にケチャップとマスタードでかぶりつく姿が、また何とも食欲をそそる。

 料理の説明をしようとしているのに、映画の話で飯テロされてしまった。


 こうなるともう口はハンバーガーを求めてしまう訳で。

 サバの味噌煮の説明をしてるのに、頭はハンバーガー。


 家に帰ってきてマネージャーに、『今日は講習でサバの味噌煮作ったんだろう? 俺も食いたい』と言われたらどうしようかとずっと思っていた。

 でもポチに聞いてきたから、そういう気分でなかったのが助かりだ。


「じゃあハンバーガーにしちゃうよ」

「珍しいな。まぁお前の作るものに異存はない」


 マネージャーは俺の作る料理で嫌いなものってあるのか? な返事。今のところ嫌いと言われた記憶がない。

 そしてチラリとポチを見ると……。

 あー、やっぱりな顔。『食べたくないです』の時の眉間に皺。


「ポチ、お前またかよ……。最近大人しく食ってたのに」

「……ハンバーガーって、食べた後に何か口の中気持ち悪いし、ずっとその臭いが残って嫌い」


 マネージャーに鍛えられたお陰で、この頃はちゃんと食べたくない理由を先に言う。

 言ってくれるのはいいが、たまに理解不能な時もある。

 今日のはちょっと考えてすぐに理解出来た。


「ああ、ポチの知ってるファーストフード店のハンバーガーとは少し違うから安心して。臭いとか後味とか、そんなに気にならないと思う」


 ポンポンと頭を撫でてキッチンへと向かう。

 ポチは撫でられた頭を不満そうに押え、マネージャーの顔を見る。


「何だかんだ言って、あいつの料理食ってるだろう? 今回も楽しみに待ってな」

「随分信用してるんですね」

「そりゃ、恋人だから?」

「裏切られたらどうするんですか」

「あいつが裏切れる訳ないし。仮にあったとしたら……、殺す、かな」


 ドアを締める背後で物騒とも言える会話が聞こえたが、聞こえなかったことにしておこう。

 それにしてもマネージャー、いつの間にポチとあんなに会話出来るくらいにまで仲良くなったんだ!?

 そんな嫉妬(?)はさておき、料理に取り掛かることにした。


 バンズは焼きたいところだが種を発酵すらしていない。

 なので知り合いのパン屋に電話をして取っておいて貰った、胚芽入りのバンズを使用する。

 もし今夜マネージャーが『サバ味噌の気分だ』と拒否られていても、明日の朝にはポチの昼食用と併せて作っていたので無駄にはならなかったけど。


 まずは一番時間が掛かるパテ。

 ひき肉はもちろん牛肉オンリー。

 ハンバーグだと合い挽きが美味いけど、今回作りたいのはアメリカンなハンバーガー。

 ただしあの映画とかに出てくるやつをそのまんま作ってしまうと、多分日本人好みとはちょっと違うものが出来上がる予想。

 観ていてあのハンバーガーは赤身肉が多いだろうとか、そんな感じもするし何よりおおざっぱな味がしそう。

 まぁ、イメージがあれというだけで、完全再現をしようなんて俺は思ってないけど、大きい口を開けて豪快にかぶりつくアレがやってみたい。


 俺風のアメリカンな感じのハンバーガーということで、赤身牛ひき肉に少々のオリーブオイル、粗挽きの黒コショウにナツメグ、そして塩。甘味出しに玉ねぎのすり下ろしたものを少々加えた。

 そしてとにかく捏ねる。

 つなぎを入れてない分念入りに捏ねて、捏ねてこねまくる。


「何か手伝うか?」


 パテの種を捏ね終わり寝かせていると、マネージャーが入ってきた。

 後ろにはポチが隠れるように付いてきて、キッチンの様子を覗いている。


「ああ、助かる。じゃあトマトを輪切りにして。ポチはレタス洗って水切ってて」

「え!? 僕も!?」

「ポチ、手伝いくらい出来るだろう。進捗状態だけ見に来たのか?」

「てっきりそうだと……」

「はいはーい、お二人さん。お腹が空いてるならさっさと手伝う!」


 フレンチフライを揚げにかかった俺は、とりあえず『食いたきゃ働け』とシンクに置いた野菜を指さした。

 作るのは範疇外のマネージャーだが、切るくらいは出来るのは知っている。

 長く細い指でトマトを押さえ、形を崩さないように慎重に切り始めている。


 一方のポチは何か凄い事になっている。

 レタスを適当な大きさにちぎることなく、丸々水道でジャーっと水を掛ける。

 そして水を切れという指示通り、レタスを両手で持って、上下にブンブンと振り出した。


「ぉわ! ポチ! 何してんだよ! そのまんま洗って振り回すヤツがいるか!?」

「だって洗って水切れって……」

「レタスくらい洗ったことあるだろう!?」


 慌ててマネージャーがポチの手を取って止めさせる。

 水が油に入ったりしたら大惨事だ。


「いいか、こうやってなケツの部分から指入れて……」


 何か説明だけ聞いてると卑猥に聞こえるのは俺が欲求不満だからだろうか……。

 油の火を落とし隣の様子を見ると、マネージャーとポチはまるで兄弟のようだ。

 かなり歳は離れている感じだが、何だかんだ言って世話を焼かずにはいられない兄と、悪態をつきながらも兄を頼ってしまう弟に見える。


 そういえばポチっていくつなんだ?

 中学生くらいにも見えたが、もう少し大人な感じもする。

 ガリガリに痩せてたから小さくも見えたけど、顔だちは幼さが残ってるけどそんなに子供でもない。

 着替えを買いにいくついでに髪をカットしてもらってきたが、ボサボサだった髪を短くしたらそれがはっきりした。

 少し茶色がかった髪も、故意に染めたものでもなく天然だった。


「おい香西、肉焼いてくれ、肉」


 ポチのレタスの処理が終わったマネージャーが、ボケっと二人を見ていた俺に声をかけた。


「ああ、いい頃合いだから焼くか」


 寝かせた種をたっぷりと取り、平べったい円柱にしていく。

 あまり厚いと中まで火が通らないかもなんてお構いない。

 ファストフード店のハンバーガーのような厚みでは、手作りの意味がなくなってしまう。

 フライパンでは載せきれず、オーブン皿に載せそのままオーブンへ。

 ちょっと時間がかかるかもしれないが、中まで火は通るし、焦げる心配もない。


「それでは暫しお待ちあれ。特製のレモネードでも飲みながら少し休憩しよう」


 三人分のレモネードを持ってリビングに向かう。

 まだそんなに暑い季節ではないが、何となく氷の浮かんだ冷たいレモネードが飲みたい気分だった。

 二人のオーダーを聞かずに冷たいのを入れてきてしまったが、まあいいかとテーブルに並べた。


「さっき、じっと俺とポチを見てたけど、何かしたか?」


 グラスを傾け、一気に三分の一くらいまで飲むとマネージャーは思い出したように聞いてきた。


「ポチとマネージャーが兄弟みたいだなって。でも兄弟にしては歳が離れすぎているような、とか。そんな事考えてた。実際ポチの年齢なんて知らないし」

「そうだな。落ち着いてから尋問しようと思ってて、すっかり忘れていた」


 わざとらしく手を打つと、ポチをじっと見る。


「よし、ここであれを使おう」


 あれ、とはポチが病人食であるお粥を嫌がって食べなかった時のゲームの副産物。

 何でも言う事を聞くという迷惑な代物であるが、平等にポチにもこちらへの質問券が進呈されている。

 迷惑加減でいったらほぼ同等である、とは思っている。


「はいポチ君。名前を聞いても答えないだろうから、生年月日。あとこれは何かあった時に困るから権利とは別に聞くけど、血液型と身長・体重」


 まあ確かに怪我とかされて手術になったら、血液型を知っていて困らない。

 身長はさておき、体重も薬とか……、いや小学生とかじゃないからそこまで要らないな。

 権利と言われてはポチも大人しく従うしかない。

 逆らえばマネージャーから何されるか分かっている。


「生年月日は、200×年12月25日……。血液型はAB型。身長163、体重は分かんない」

「へえ。ポチはクリスマスの生まれなんだ。イエス・キリスト様だな。今は……十六歳か? 思ったより上だったな」


 マネージャーも同じ事を思っていた。

 ポチが十六だとは思わなかった。もしや上? くらいの感じだったので十六と言われると、少し発育が遅いのかと心配にはなってくる。

 聞かれたら聞き返すのが礼儀と言わんばかりに、ポチもこちらに質問を投げかけた。

 ポチの何でも言う事を聞く権利はこちらより多いので、くだらない事を聞いても惜しくはないだろう。

 権利を使わなくても、聞きたい事があれば教えるんだけどね。


「いつも香西さんはマネージャーさんの事『マネージャー』って呼んでますが、名前何なんですか。恋人だって言ってるくせに、二人とも『香西』と『マネージャー』だなんて不自然だ」

「おや、いい事に気が付いたなポチ。プライベートでは名前で呼んでるが、ポチの前でいちゃいちゃは教育上悪いかなと遠慮していたんだ」

「別に名前で呼んでもいちゃいちゃしなきゃいいだけの話じゃないですか。僕にキスしといて教育上とかって」

「キスは挨拶だよ、ポチ君。それ以上してもいいなら話は別だけど?」

「……話すり替わってませんか?」


 確かに名前でなんてここでは呼び合っていない。

 名前で呼んでいると、マネージャーの方が切り替わって完全にプライベートモードになってしまうから俺も避けていた。


「いちゃいちゃしていいって事かな?」

「香西さんとなら」

「後悔するなよ」


 レモネードのグラスを持ち上げると、グイっと傾けて飲み、そのまま俺に口移し。

 あ、ポチにじゃないんだ。

 ゆっくりと移されるレモネードの冷たさと、久し振りに感じるマネージャーの唇の感触。

 思わずこちらがスイッチが入りそうになる。


「これ、毎日見せつけていい? それでいいなら教えるよ?」


 零れたレモネードで濡れた唇を舐め付け、ポチにニヤリと笑って見せる。

 急に見せつけられた他人のキスシーンに焦ったのか、ブンブンと思いっ切り縦に首を振る。


「そうかそうか。じゃあ遠慮なくこれ以上の事もさせてもらうよ。俺の名前は大樹ひろき。マネージャーさんでも、大樹さんでも、好きに呼んでいいぞ」


 そう言いながら俺の首筋にキス。

 ちょっと調子乗ってないか!? おい!?

 文句を言ってやろうとしたところで、オーブンが出来上がりを知らせる。

 キッチンに入ると、もうパテの焼けたいい匂いで充満していた。

 いざ、オープン!


 天板の上でジュウジュウといい音と、肉汁を沸き立てさせる。

 焦げ目も程よく、こんがりとした表面が早く食ってくれと訴えているようにしか見えない。


 切り終えて冷やしておいたトマトとレタス。バンズの上に多めに載せてやり、そこに熱々のパテ。

 普通にケチャップをかけると見せかけて、天板の上の肉汁と合わせてひと工夫。

 隠し味にちょっとだけオイスターソースを加えてやった。


「さあお待たせ。空腹だろうから、余計に美味しく感じるぞ」


 ドーンと皿に盛られたフレンチフライの中央に鎮座するハンバーガー。

 分厚いパテが二枚挟まれ、レタスが負けじと顔を覗かせる。


「いい匂い。いただきます」


 ちゃんと挨拶してからハンバーガーを手に取る。

 思った以上の大きさと重さにちょっと驚いたようだが、躊躇わずに大きくひと口かぶりついた。


「ん!? んん!!」


 口いっぱいに頬張ったせいで、何を言ってるのか分からないが、大体予想はつく。


「ポチの食べてきたハンバーガーとは違うだろう? ファーストフード店のハンバーガーとフレンチフライは殆どが化調を使ってるから、美味しいと思っても後味とか、食後の臭いとかで気になる人が結構いるんだ」

「化調って?」


 口の中のものを飲み込んだポチが聞いた。


「化学調味料だよ。あまり気にしない人の方が多いけど、後味とか食べた時の感じとかで気になる人もいる。ポチも化調の後味でファーストフード店のハンバーガーをあまり好きでないと感じていたっぽいね。手作りだからこんな風に別な感じに出来上がる」


 説明する目の前で、フンフンと聞いているようだが手と口は止まっていないポチ。

 余程お腹が空いていたのか、思った以上に美味しくて止まらないのか。

 どっちにしろ良いことだと、ポチのいい食いっぷりを眺めつつ自分もハンバーガーに噛みつく。

 あ、ピクルス入れてなかった。


 * * * * * * * * * *


 ハンバーガーもフレンチフライも全部平らげ、すっかり満腹になったポチはダイニングの椅子でうつらうつらと居眠りを始めた。

 食べてすぐ寝ちゃうなんて子供みたいだな、ってまだ子供だけど。


「すっかり回復したみたいだね、ポチ」


 椅子から転げ落ちられても、とポチを抱き抱え寝室に移動しながらマネージャーに言った。

 体重は不明と言ってたけど、持った感じでは拾った当初よりも増えてはいる感じ。

 でもまだ40キロ前半なんじゃ? って軽さ。


「そういえば何でポチの身長と体重聞いたの? 別に幼い子供じゃないんだから、投薬の時に必要になる分けてじゃないだろう?」

「まあな。それは後日のお楽しみということで。それより、今は別のお楽しみがあるだろう?」


 ポチを寝かせたベッドの横で、マネージャーが後ろから俺の耳をそっと撫でる。

 やっぱりキスの時にバレたらしい。

 欲求不満だった事も、キスくらいでスイッチが入ってしまった事も。


「ちゃんと名前で呼んで、欲しいっておねだりしてごらん」


 こんな甘い声で囁かれてはもうお手上げだ。

 やっぱりこいつには敵わない。


「お願いだよ、ひろき。続きをして……」

読んでいただきありがとうございます。


この話書いてて、某ハンバーガー店のアボカドバーガーが食べたくなってたのを思い出しました。

読み返してて、また食べたいって気分になってる。

自分で飯テロしてるってどうよ(笑)


それでは次話をお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ