表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

後編

押したら死亡するボタンを手にした松村健太は……

ここでのインターンは4回目。

一応よくしてくれてる人もいて、その人のことを紹介しておく必要があるかな。

平野さんと言うんだけど、何かにつけて「大丈夫?なんでも聞いてね?」っていくってくれる優しい人です。ここまで言う人は結構他にもいると思うんだよ。でも平野さんは実際、俺が荷物を運んでて落としちゃったとき「オッケーオッケー落としちゃったやつは後で確認しておくから気にしなくてもいいよ!持ち方はここをこうした方が良くなるかもしんない」って滅茶苦茶優しいわけよ。

ここで働きたいかも、この人に着いていきたいかもって思ったね。

だって働いてみないと自分に向いてるかなんて分からないし、今の知識や技術なんて役に立たないでゼロから仕事覚えさせられるかもしれないわけじゃん?入るまではブラックかホワイトかもわからないわけじゃん?

着いていける人がいるってのは働きたい理由になるも思うんだよ。


「平野さん、今日予定空いてたら一緒に飲みませんか?」

「いいよ、19:00には終わるからそっちが早かったらロッカーで待ってて」


よし、俺の不安や悩みを聞いてもらおう!今からやっておいた方がいいことは何か聞こう。なんか俺、やれる気がしてきた!




そして店につくわけですよ。

「インターン生は言ってしまえばお客さんだからね。実際ゴミばっかりだよ」

ひでぇ……。

「今年入ってきた新人で使えるやつは2人ぐらいだねー。でもデキるやつは辞めるから。うちブラックだし」

ひでえ……。

「つーかお前もさ、ほんと使えねぇよな!なんでやる前に俺に聞かないわけ?他の会社でもそれくらいはやれねぇとやってけないよ?」

うるせぇ……うるせえうるせえうるせえうるせえ。

なにがゴミばっかりだよゴミゴミゴミゴミゴミゴミがクソやろう。

もう決めたよ、誰にも心許さねぇ。社会人はみんなクソ野郎だ。

悩み聞いてもらおうとか思ってた自分を殴りてぇよクソが。


いまならボタンを押せるだろうか。

社会人としてやっていけないのが本当なんだったら、生きていけないんだから、この場で死んでも同じことだろ?

死んだら迷惑かかるかな……、でも生きていたら葬式費用の何倍もかかるわけだ。

この世界で生きていけるのは自分で生きていけるものだけ。

そうじゃないやつは死んで当然なのかもな。年間3万人が自殺してるっていうし。しかも、じいさん婆さんや小学生とかは自殺しないだろう。

今まで、ふるいにかけられて溢れた人はどうなるのだろうと不安に思っていたわけだけど、ただ死ぬだけなんだ。なんてことはない。

ポケットからボタンを取り出してみる。

せーの。


まだダメみたいだな。でもあと少しでやりそうな気がする。




今日は従兄弟の結婚式。

この暑いなかスーツをビシッと決めて最低でも3時間は耐えなきゃなー。結婚式に従兄弟まで呼ぶっておかしいだろ。じいちゃんまでにしとけよって。なんて言っても仕方ないんだけどな。

就活に比べりゃ楽なイベントだよ、と思っていた。


「健太!お前は結婚まだか?」

叔父である。

「まだまだ考えられないですね……まずは自分の身を固めることが先なんで……」

「就活終わってないのか?」

「はい、恥ずかしながら」

「8月ってもう就活ほとんどやってないぞ。大丈夫かお前?」

「ちょっと遅れぎみですね」

叔父は大手企業に30年勤めてる。

「遅れてるって、就職できなかったらどうすんだらどうすんだお前?」

「今は目の前のことを頑張るしかないですね」

「先のこと考えなきゃダメダメ!目先のことばかり考えるからお前の親父さんはやっすい給料でへこへこ頭下げてんだろ?ちがうか?」

「ぇはははは……。」

親父のことまでバカにしてんだな。俺も親父は嫌いだが。

「んで?就職できたら結婚する彼女はいるのか?」

「結婚って、最近はしない人多いじゃないですか、ははは」

「でもいつかは結婚すんだろ?」

なんだこいつ。こんな固定概念しかもてねぇのか。

「はい、いつかは。ちょっとトイレいってきます」

うぜえうぜえうぜえうぜえうぜえ。

トイレ行って顔洗って考える。

どう立ち回ればいいか?立食パーティじゃないから逃げ場がない。

いやまて。トイレがある!個室で留まってれば誰かはわからないし、戻ったときは腹が痛くて、で通せる。幸い個室は3つもあるから1つ埋めても問題ないだろう。


30分くらいは何も思わなかったが、今ごろ「あいつどこいった?」とか「こちらの席のかたはお戻りになられますか?料理はどうなさいましょうか」みたいなことになってるかも知れねぇと。自分だけアウトローなことをしてる罪悪感。30分も稼いだらもう十分だろ。そろそろ戻るか。


「新郎新婦、二人の歴史を見ていきましょう!」

戻ってきたらどうでもいいのやってんな。

「あんた、大丈夫?」

「あぁ、腹痛くてな」


「新郎は大阪国際工学大学附属高校に入学し、常にトップの成績を納め、大学では機械科を先行し、自分の今までやって来たことで勝負をしたいと思い、株式会社ポナソニックに入社しました。以降も新人とは思えぬ働きっプリで職場のみんなからも信頼されております。そして、高校の時から付き合っていた新婦とハワイに行ったときに指輪とともにプロポーズしたそうです。プロポーズの言葉は、お前は何も心配しなくても俺が幸せにしてやる、だそうです。」

これが上流階級ってやつか。高校の時に全てを手にいれてるじゃねえか。ここまでやらねえと結婚なんて無理だわな。結婚できるかどうかは高校で決まると分かったよ。

泥水を舐めるような経験はしたことないんだろうな。

いや、してるのかもしれない。でもそれを糧にして生きていけるんだろう。俺は嫌なことがあったらただただ落ち込むだけ。

違うんだ。生きてる世界が違う。


「健太くんは結婚の御相手はいるの?」

叔母だ。

「いますよ」

「そう、健太くん何歳だっけ?」

「21歳です」

「あ、じゃあお仕事も?」

「はい、決まってます。私のやりたいことが出来るそれなりに大きな会社に内定をいただきました」

「何て会社?」

「あ、えぇ株式会社……セニーです」

「家からどのくらいかかるの?」

「えぇと一時間くらいですかね」


親父とのさっきの叔父の会話が聞こえてくる。

「お前んとこの健太とさっき喋ってたんだけどよ。まだ仕事決まってないんだって?大丈夫かよ?」

「あいつはやる気ないみたいだからな。考えが甘い」

「昔はもっと出来るやつだと思ってたがなー。しばらく見ないうちにひでえ育ちかたしやがってよ」

「来年は家出てもらうからそこで少しは親のありがたみと一人で生きてく根性がつくんじゃねえの?知らねぇけど」



「健太くん健太くん、ナイフとフォークは端のから使うのよ?」

「あぁすいません。そうなんですねははは」

「おっきい会社だとマナーについて言われるわよ。会社入る前に全部覚えなきゃね」

「はい、もちろんです。ちょっとトイレいってきます」

あーきつい。あーーーーーーーー。

あんな嘘すぐバレるわな。でももういい。死ねば全て関係ないことなんだ。

俺は結婚式場を後にした。帰りの電車を調べようと携帯を見たら隼人からメールが来てた。


「今日飯食わない?」

向こうから誘ってくるのは珍しいなーと思いながら人生最後の仕事にすることに決めた。

ボタンをもらってから8日たった。あのヤバイおばさんの思い通り死ぬことになっちまうわけだが今は感謝してる。

でもなー。人生の一時でいいから彼女がいるって経験をしたかったよ。ほんの一瞬でも誰かに好かれたかった。欲を言えばセックスしたかったよ。結婚したいなんて言わないからさ。でもこの人生から解放されるなら天秤はそちらに傾く。

死ぬ前の後悔なんてこれから無になるのだからあまり関係ないはずだしね。



「悪いね、急に」

イタリアンレストランのチェーン店に来た。

「全然いいよ」

「飯食うってなっても、こんな安い店しか来れねぇなんて情けないよな」

「別に高けりゃ旨いってわけでもないし、人それぞれだろ」


「お伺いします」

「あ、ミラノ風ドリアと赤ワインで」

「俺はペペロンチーノにドリンクバーつけて下さい」

「かしこまりました」


「健太飲まないの?」

「ああ、このあとチャリで遠くに行くからね」

「大学生はいいよな、俺は明日も仕事だから体力残さねぇと」

「ほんとに大変だよな、隼人は」

「毎日毎日さー、工場長にもっとオペレーターの指導をしろって怒られてよー!改善を毎日5個やれって言うんだよ?そんなにあるわけねぇだろ!マジよー」

「大変だな」

「毎日毎日同じことで怒るわけよ、いい加減俺のこと見限ってほしいわマジで、つーかあのクソジジイなんの仕事してるかさっぱりわかんねぇしよー」

「最悪だな」

「そんでこの前、客に誤品ごひん送っちゃって怒鳴られるわけよ。絶対オペレーターが悪いのによ!お前が責任者だろ?って!責任者はお前だろクソジジイが!!」

「最低だな」


「失礼します。ミラノ風ドリアとペペロンチーノと赤ワインでーす。あ、ちょっと携帯どけてもらっていいすかー?」

チャラい兄ちゃんが接客にくる。


「なんだよあのクソ定員!お客をなんだと思ってんだよ!!こっち金払ってんだぞクソが!」

「酷いよな」

「そんでさ!俺もさ!そのオペレーターを怒鳴るわけよ。そんでさ!次の日から来ねえの!!マジで意味わかんねぇ!!」

「まじか」

「んでまた怒られんの!!はぁ!?知らねぇけど俺!?」

「酷いな」

「んで穴埋めをさ!俺がさ!12時までやらなきゃいけねえの!日付変わってんの!工場長が先帰ってんの!!てめえがやれよクソジジイ!!」

「大変だな」

「そんでさ!俺の直属の上司は2時まで仕事してんの。俺の1年後はあれかよって思ったら死にたくなってさ」

「酷いな」

「健太もさ、いずれこうなるから覚悟しとけよ」

「そうだな」

「お前夢とかあんの?」

「ないけど……。」

「自分のやりたいことじゃないと人間頑張れねえから、お前は自分の夢を持たなきゃダメ!俺はなんとかやれてるけど、お前じゃぜってー耐えられないから!」

「強いていうなら、漫画家になりたい……かな……。」

「あぁ、うちの工場にも居るわそういうやつ。クソみたいな根性のくせに、漫画家なんて工場勤務よりきついに決まってんだから無理に決まってんだろ」

「そうだよな」

「いや……健太は……知らねぇけど。お前は頑張ってんだろ?就活しながら毎日必死こいて漫画描いてんだろ?」

「そんなんやってないよ」

「まぁ趣味でやればいいんじゃね?」

「そうだね」

「でも、楽な仕事はねぇから。上司になに言われても負けねぇって気持ちがないとやってけねぇよ?」

「そうだね」

「俺らはさ、唯一理解しあえる親友なわけじゃん?お前が社会に出て困らないために敢えて厳しいこと言ってるわけよ」

「わかるよ」







2021年8月17日午前11時31分松村健太は遺体となって発見された。

場所は自宅から100㎞以上離れた大山の麓。死因は不明。友人とファミリーレストランで食事をした後、自転車で大山まで行き死亡したと思われる。

テーマは『現代人はメンタル弱いよ』です。

がしかし、いろんな読み方が出来ると思います。

中学時代の友人が自殺したことを思い出しながら書きました。中学卒業してから全然会ってなかったんですけど、私の知る限り一番頭のいいやつだった。しかも柔道部の大将で体も強かった。

だから謎なんですよね、頭よくて強い人間がなんで自ら死んだんだと。

その知らせを聞いた初めのうちは、なにか劇的に酷いことがあったに違いない!って私も思ってましたが、時がたって、以外となんでもないことで人は死ぬのかなと思うようになりました。

このはなしは不幸が重なって主人公が死を選ぶわけですが、どれも普通に起こることですよね。

なんでもないことでも死にたいって思いますよ、普通。

むしろ頭のよかった私の友人は、もっと先の不安が見えてたのかもしれないなーとか思ったりもします。


こんなこと書いてる私も、いつかどこかで自殺するかもしれないわけですが、そのときに、劇的に酷いことがあったに違いない!とか思わないでほしいんですよ。悲惨だと思わないでほしいんですよ。

例えば、追わなければいけない責任ややらなければいけない手続きや払わなければいけない税金や苦しまなければいけない仕事が生きていれば誰しもあるわけですが、死ぬことがその答えってだけな気がします。

私は別に自殺志願者ってわけではないので、こんな小説書いてるってあまり知られてくないのです。

しかしながら誰かに言えることでもないし、聞いてくれる人もいないのでここに残します。

日本では遺書を公開することはタブーとなってますが、小説ならば問題なかろうと。

作者は語るな作品で表現しろ。が私の思うところではありますが、この小説に関しては語らずにはいられませんでした。最後まで読んでいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ