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前編

俺の唯一の友人であり同級生であり人生の先輩でもあり相談相手の隼人っていうやつがいて。

隼人は高校を卒業してすぐに就職したから、もう3年以上社会人をやってるのか。

まぁそれとして、俺がインターンで社会の厳しさを味わった帰り道、隼人に電話して酒飲もうって誘ったんだけど、まあね。ほんと、誘わなきゃ良かったよまじで。

「だっておかしくない?インターンだから金もらってないんですけど?なんでそんなことしなきゃいけないの?」

って俺が言ったら

「それは上司の言ってることが正しいよ。健太みたいなやつが後輩にいたら使いにくいわ」

というのが現実でした。唯一の相談相手にそれを言われたらさーあぁもう!ただ慰めてくれればいいじゃんか。社会人ならそういう気の使いかたしてくれてもいいだろ。世間じゃそれが当たり前でも、我慢して恥かいて挫折して気力を失って涙ひとつ流せない人間になることが正しいのか?正しいとしてもそれは何のために?なにとも知らない架空の何かのためにこの生き方を選ばなきゃいけないのか。


悟り世代なんて言われるけど、悟り世代は俺から言わせてもらえば『洗脳が解けた人間』今までの人が洗脳されてただけ、何て言うと偉い人に起こられそうだけれどもね。


よし、次隼人に会ったらこの生き方を正しいと思ってるのはお前が洗脳されてるからだと言って、生きてくことだけが目的になってないかと。よしこれで論破だな。使えるわ。

的なことを考えても明日には忘れるんだろうよ。お休みなさい。



何日か後、インターンにいってた会社から不合格通知がきた。『松村健太様、誠に残念ながら……』


と、ここまでが前提です。だから覚えておいてほしいのは就活うまくいってない勢の社会に不満を持ってる勢ってこと。

こう思う時期は誰にでもあったと思うんだけど社会がなんなのか知らないけどとにかく嫌いで、でも働かなきゃいけないから取り合えず就活して、それすらもうまくいかない……ってこれが本当に今の世の中当たり前なんだよなーくそが。




たしかあのときも、今日の面接ダメだったわーつうか圧迫面接やめちくりーとか思いながら帰ってる途中、宗教っぽい女が声かけてきて。

なんか白いのに暑苦しい服装だから宗教っぽいと思ったんだけど、ちょうど電車が近くで通ったからなにいってるかよくわからなくて「何ですか?」って聞き返しちゃったのよ。やっぱりね、一度受け答えしちゃうとダメだわ。ほんでそのまま

「私は安楽死反対委員会の者です。署名をお願いします」

「あ、はい。名前だけでいいっすか?」

「はい。それで結構です」

「はいはいはいそれじゃ」

「あとこっちのほうもお願いします」

「金とるんすか!?」

「我々はこのお金で成り立ってるので、お願いします」

「じゃあ千円で」

えげつなッ!とりあえずもう帰ろうと思ってたのにまだ食い下がって

「最後にこれもお願いします」

「何ですか?このボタン」

「詳しく説明するのでよく聞いてくださいね。このボタンは押すと安楽死できるボタンです」


その女が言ってたのは、このボタンを押すと死ぬってことと10日以内に押さなければ回収されて登録も抹消されるってことだけだったと思う。よく聞けって言われてもあんまりはっきりとは覚えてないもんだな。

最大の疑問は

「なんで?」ってこと

「安楽死制度が危険だという実際のデータがほしいのです。それがないと2026年には安楽死制度が」

「そこじゃなくて、なんで簡単に死ぬボタンを渡しちゃうの?」

「簡単に死ねたら人は10日以内に自ら死ぬという結論を出すためです」

最後に念を押すように

「嘘ではありませんよ。押すときは現世との離別をしっかりとしてください。死の概念を理解してください。一番大事なことは自分の意思で押してください。もちろん、押さないことが何より素晴らしいのですが」


でも押さなきゃいんだろ?むしろそのあと宗教がらみで付きまとわれるんじゃないかと思うとそっちの方が怖いわ。

つーか千円損したわー。死にてぇ。



ボタンの形状はナースコールのものに近いかな……。ロックとかされてるわけではないので誤って押さないことが大事だと思われる。

とりあえずディ○ニーのお土産でもらったビスケットが入ってた缶の中に保管。

つーか聞かなかったけど間違えて押す以外に押したやついるのかね。


そういえば明日の説明会のエントリーするの忘れてたわと思って、スマホでエントリーしようと思ったが自己PRを書くの必須だったのでパソコンで打ち込むことに。あー自己PRとかなんも思い付かねーってお決まりの台詞をはいてから『私は』とだけで打つ。2分くらい固まって、マジで思い付かんと言う。Twitterで「自己PR思い付かねー」と呟くもやっぱり思い付かない。そもそも真剣に考えたわけでもないんだがね。

「私は遠出した後のお土産選びが好きです。相手のことを思い、甘いものが好きか、ごはんに合うものが好きかなどのニーズをしっかり把握することで最大限のパフォーマンスを発揮できるところに魅力を感じます。つい先日、東京ディ○ニーランドに行った帰りに買った缶入りのビスケットを友達に渡したら、味も美味しいし缶のデザインも好みだと言ってもらえたことが私にとって嬉しいことでした。」

という舐めた自己PRをでっち上げた。もらったの俺だし。

んで、時計を見たらもう1:30だから、明日起きれるかなーとお決まりの台詞をはいた。



やべえ寝坊した。もう今から行っても遅刻したもののレッテルを貼られる、すなわち合格はあり得ない。じゃあ行く意味ないわな。という単純思考をして連絡するかどうか一瞬悩んだけど二度と関わらん会社に何を話すことがあろうかと思ってやーめた。だったら昨日悩んだ時間も意味ないじゃんという虚しさと、本当だったらこの時間はスーツ着て説明会に行ってるんだよなーという罪悪感。楽しい一日なるはずもないのにゲームをイライラしながら進める。あー!もう何でうまくいかなかったんだよ!全部自分が悪いんだけどさーごめんなさい許してくれー!


ブー!ブー!


俺のスマホが鳴っている。03から始まる見知らぬ数字は今日行くはずだった会社からだとすぐに分かってしまったわけよ。というか今どき説明会に来ないくらいで連絡するかよ普通?

そこで俺がとる行動は無視!はっきり言って心臓バクバクですよ。本当にもう許してくれー!助けてくれー!って頭で何度も唱えたらブザーがおさまった。ふぅ。ただ、次の瞬間家の電話が鳴った。

いままでに体験したことのないフルスピードで脳が働いて、この電話を家族の誰かがとったらヤバイという結論を出した。


「はい、松村です。」

「松村健太さんのご自宅でお間違えないでしょうか?」

ここで選択肢が二つある。ひとつは自分こそは松村健太だと名乗り今日は体調が悪くて行かなかったと嘘をつくパターン。

もうひとつは自分は弟ですと名乗り詳しいことは分からないと嘘をつくパターン。

どちらも嘘をついているじゃないかと突っ込みたいところだが、嘘の大きさがちがう。

電話の相手が優しい感じのお姉さんだから、今日は体調悪くてパターンを選択するぜ!

「自分が松村健太です。」

「今日、弊社の説明会にご参加予定ですがどうされました?」

「あのー実は体調悪くて……」

「そうですかー。ご連絡のほうはされましたか?」

「いえ、まだですけど……」

「社会人であれば開始時刻前に連絡するのが当たり前ですよ。」

「はい、すいません。」

「先ほど携帯のほうにお電話をしたのですが、出られませんでしたね?」

「とろうと思ったんですけど間に合わなくて……」

「その場合は自分からかけ直すのがマナーです。電話番号は09000000000で合ってますか?」

「はい合ってます」

「次の説明会は7/29ですが来れますか?」

「え、いやーその日はちょっと……」

「では8/2はいかがですか?」

「先のことはちょっとわからないんで」

「就活生はスケジュール管理ができて当たり前です。スケジュールを合わせて今日以降の説明会に参加してください。」

「あ、はい失礼します」

ガチャ。

行くわけねぇだろうがクソが!!!

弟を名乗るパターンが正解かよクソやろう。やっぱ他人に隙を見せちゃ行けねえってこった。やっぱクソ会社だけあって受付のごみもクソ野郎だな。


その夜の親父がまたイライラしながら帰ってきやがってさー。

勢いよく閉めるドア、聞こえるようにでかく舌打ちと、基礎コンボを決めて「健太、就活は進んでんのか?」という必殺技でしめる。

「一応ね」

こっちはガード固めるしかない。少なくとも今日の失敗談を面白おかしく話そうなんてしちゃいけないし、悩み相談ってのも正解のような気がして実は不正解。というのも、最初は親身に聞いてくれるが、俺のときはーという自慢話やら、もっと勉強しておけという説教&そんなんじゃ受かるとこないぞという説教。流石に5回くらいはそのパターンに入ってるから覚えた。

親父との会話は必要最低限に抑える。

でなきゃ10割コンボを食らわされる。

「俺が就活せいだったときは毎日説明会か、面接よ。50社受けるのが当たり前」

まじかよこいつ。俺がガードしてるのにコンボ始めやがった!と思って「へぇ」と言いながらすれ違う。部屋に入ればもはや攻撃は届かないだろう。と思っていたのに、お袋と親父の会話が聞こえて来てダメージを受けることになりました、はい。

「あいつ何であんなやる気ねぇの?」

「知らないわよ、今日も体調悪くてーとか言って説明会サボってたし」

「は?なにそれ?あいつなんかが会社を選べるほど世の中は甘くねぇんだっつうの!」

「困った子よねー」

「お前が甘やかしてんだろうが!」

「あんたが干渉しないからでしょ!」

「あいつが就活浪人になったら家追い出すかんな」

「大学はいいとこなんだしそのうち受かるんじゃないの?」

「お前は就活したことないだろうからわかんねぇだろうけどな!一社一社魂込めて受験しないと受からねぇんだよ」

この辺りから悪魔の囁きというか、あのボタンがチラチラ頭をよぎってしまうんだよなー。いけないとは思いつつ、あのヤバイやつの思うつぼだと思いつつ、なーんか、何でこんな思いしなきゃいけないんだろうなーって。

明日はインターンだ。



例のボタンをスーツの胸ポケットに入れた。なにか死ぬほど嫌なことがあったとき、すぐにボタンを押さなければどんどん決心が揺らぐから。というか時間がたつにつれ感情は薄れていくから、当然それが人間の死なない理由なんだろうけど今俺はいつでも死ねてしまうのだ。結局何が言いたいのかわからん。

なんであのボタンを持っていってしまったのだろう。

インターンに向かうところ、開幕改札に引っ掛かる。

「チャージをしてください」

この程度のことでは流石に死にたいとは思わないよ。でもなんか冷静になって自分がバカバカしく思える。例えば、インターンに行くのにもお金がかかる、でもそこで内定をもらえるとは限らない、つまりこれは多大な時間とお金と精神を使ったギャンブルなんだ、みたいな。

ギャンブルに勝ったものだけだ社会人になれる。じゃあ社会人になれないものはどうなるか、それはギャンブルを続けてどこかで勝てば借金返済できる。ずっと勝てなければ……このボタンを押すのだろうか?でもそれは何年後かに分かることであって、俺にはあと8日しかない。押すとしても今ではない。


会社に着き。

「今日のお仕事は何をすればいいでしょうか?」

「ちょっと今手が離せないから、席で待っててくれる?」

インターン生にとって待ってるってのは厳しいものなんだよ。なんか暇すぎて引き出しとか開けると、クリアファイルとかボールペンとか入ってるなーってことがわかるけど5分も潰せない。会社の資料に目を通すフリをして時間が過ぎるのを刻一刻と待つのみ。ここでボタン押したらどうなるのかなーとか考える。いきなりインターン生が倒れて死んだらめっちゃビビるだろうな。そんなことはしないんだけど。

結局ろくな仕事はせずに一日を終えた。帰りの電車を待つ。

この憂鬱さは死にたいって感じとは違うな。ボタンを押すことがあるとすればもっと大きな出来事があったときだと思う。瞬間で死にたいって思うような。大体今死にたいって思うなら電車に飛び込んでるだろうし。ボタン押すのも飛び降りるのも一緒だと考えれば今まで飛び降りたことのない俺は大丈夫だ。



でもいいこともなかったよな。

この一ヶ月くらい、やなことはたくさんあったけどいいことはひとつもなかった。人生においていいことなんて5%くらいだし、頭のいい人は早いうちに死んでるのかもしれないな。的なことを考えてた。いやー考えちゃいかん。そういうスパイラルから自殺者が産まれるんだ!とか思いながらも胸ポケットからボタンを出した。電車を止めるよりは迷惑ではないだろう。せーの。


ってやっても押せないないよね。やっぱり。かるーい気持ちで押すぞーって思っても親指が止まる。押した瞬間に命が無くなるってワケわからねぇ。押したらどうなっちゃうの?死ぬってなんなの?客観的に見たら死体がそこに居るだけだけどさー、俺はどこに行くんだ?暗闇に行くのか?でも暗闇が見えてたらそれは生きてるんじゃないのか?死ぬってなったら考えたりできないわけだから、何もない「無」なんだから……。

本当になんも無くなるのか。こえぇわ。

でもいつかは死ぬんだから今覚悟を決めたって同じじゃないのか?不慮の事故で死ぬ人もいるんだから同じじゃないのか?当然、自分から死ぬやつと同じにされたくないだろうけど、覚悟を決めるってのはそもそも必要ないんじゃないのか。

でも押せるか?っていったらやっぱり無理なわけで。押そうと思う度に生きててよかったとか感じちゃう。俺って弱いなーって分かった。



いつでも死ねるからこそ生きてる実感があるんだ!

今は目の前の景色がすべて美しく見える。なにも怖くない。何事にも挑戦して失敗したらボタンを押せばいい。失敗して失敗して、でもいつでも押せるのだから次失敗したとき押せばいい。そうやって人生を前に進んでいく力を手に入れたんじゃないのか俺は!

もう、周りの意見なんか気にせず好きに生きよう!真の自由を手に入れたんだから!


こんな小説書いてるって知り合いにはバレたくないシリーズの一つです。

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