野次馬はどの世界にもいる
パッと目が醒める。体を起き上がらせると眠気はなく、疲労感もない。二度寝しようと再び寝転び目を瞑るが眠れない。二度寝は出来ないらしい。二度寝は幸福をもたらすというのに。
寝る前に捉えた女の存在を思い出し、女のいる方向へ視線をやる。寝ている間に縄を解くべく努力したのだろうか。ソファから転げ落ちて床に寝そべっている女を見つける。
手足が縛られている状態の女を見て何とかして記録に残したいと考えるが、写真を撮るものが存在しないので目に焼き付けておく。
縄外しに奮闘する女。
それをニヤけ顏で眺める男。
どうみても完全に拉致監禁のそれです。ありがとうございました。誰かに見つかったら危ないよな……目隠しさせれば良かった。などと考えている内に起きた事に気付いた女は目で縄を外せと言わんばかりに睨みつけてくる。その睨みをヘラッとした態度で躱す。
「……爆発魔法で縄だけ爆発させりゃいいじゃん」
そう小声で言うとハッと気付いた様に女は縄だけ爆発させた。爆発魔法の発動者は影響を受けないのか。それに気付くと女はすぐさま立ち上がり、構える。
「大人しく両手を挙げなさい!あなたがどうやって私を連れ出したかは分からないけど、タダじゃ済まないから!」
これは完全に俺が拉致監禁したかと思われている様だ。あの暴れていたのはイベントの所為か……それよりもこの状況下では圧倒的に自分の方が不利というのは一目瞭然だ。
こちらはベットに腰掛けている状態で魔法が使えず、相手は戦闘態勢で魔法が使える。イベントの時より厄介な状況だわ……隙を突こうにも魔法の範囲広いし、諦めて言うことを聞いて両手を挙げる。
両手が縛られ、有無を言わせず立たされる。今蹴り打ち込めばいけるかもしれないが蹴りいれた瞬間家を爆発させそうで怖い。爆発の影響受けないのズルいと思います!
弁解する暇もなく拘束し連行され着いた場所はガイアの家だった。ガイアは街の長やってるんだっけか?これはまだチャンスはあるかも知れない。一筋の希望の光が差し込んで来た。女がノックを三度する。返事はない。再び先程よりも強くノックを三度。返事はない。
「いつもはこの時間はいる筈なのに……仕方ない、私の家でこの後の処遇は私の独断で決めるから」
その言葉を聞き一筋の希望の光は方向を変えブラックホールに吸い込まれていった。
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エリアに着くと復興作業に追われていた。新築同然の家の周りには焼け落ちた家が数軒並んでいる。てっきり壊された物は魔法で直すものだと思っていたが、数十人の男達が手作業で直していた。木材などを片手で軽々と持ち上げている。
少しばかり気になり心眼を使うと全員に身体強化が掛かっていた。作業している人からの視線が冷たいが縄で捕まってればそういう反応になるのも仕方がない。ちょっと悲しい。
焼け落ちた家の中には腕にように見えるもの、足の様に見えるものがあったが現実から目を逸らしマネキンと思い込む様にした。女の方を見ると驚きはしているだろうが歩みを止めていない。
エリアの悲惨な有様を見つつ現実からは目を逸らし女の家に着いた。着いたが女の家は壊れていた。エリアの三割ほどが壊れている中で女の家は壊れていた。恐らくイベントで直接破壊された物質は戻るが、間接的に破壊されたものは直らないのだろう。女は呆然としていた。そりゃ自分の寝床がなくなったのをすぐ受け入れられる訳ないよな。
そこにやや早歩きで誰かがやってくる。以前女と話していた美少女Bだ。女は美少女Bを見ると少し安堵の表情を見せるが、美少女Bは女に向かって冷たい、憤怒の様にも感じられる視線を刺す。
「よくこの場所に堂々と戻って来れたわね?貴女が人の家を壊してまわってさ。一体何百って人が死んだと思ってんの」
短く心に刺さる発言でも無いが困惑するには十分な情報だ。女が美少女Bに向かって何か言おうとすると言葉を発する前に美少女Bが声を荒げる。
「この悪魔!出てけ!」
野次馬が女に向かって罵声を吐いた実際家を失った者なのかは定かでは無い、がこの状況では火種となる。
「そうだ!お前のせいで家が潰れたんだ!」
「貴女のせいで私の家が!」
「この悪魔!クズ!!」
最初罵声を聞き周りに野次馬がそれに同調する。大きくなった罵声を聞き野次馬が増える。野次馬が増え罵詈雑言が女に向かって飛び交う。流石に直接攻撃してくる者は居なかったが女は泣きそうになっていた。
「泣けばいいと思っているの?酷い事をしておいて被害者面出来るわね!」
美少女Bから放たれた冷たい一言で女は膝から崩れ落ちる。この空間で全員が敵と感じられる程の絶望しか無い。一先ず女を連れ出して逃げ出したいが縄を解いてもらう必要があるな。女には申し訳ないがハッタリが必要だな。
「こいつ力を溜めてまた爆発魔法使う気だ!!みんな逃げろ!!!」
昨日の爆発がトラウマになった者も多かったのか、野次馬は分散し全員逃げていった。我ながら酷い方法である。縄は崩壊した家の尖りに引っ掛け切った。そして放心状態の女を背負い再び自宅へ向かった。




