五十話
アリシアに言われるがまま、黙々と魔力を溜めるべく魔石を握り続ける時間が続く。
静寂な部屋にカタンカタンと退屈そうに椅子を前後に揺らす音が鳴り響く。
急かされているような空気の中、ようやく魔石が紅く輝く。輝きは強く握っても指の隙間からも光が溢れるほどの輝きを放っている。
「身体の調子はどう? 正常に働く?」
手を握り直してみたり、足を伸ばしてみたりするが特に身体に何ら不具合はなさそうだ。
「大丈夫みたいだね。じゃあドンドン行こうか」
アリシアに次の魔石を渡される。
……ただ魔石を握っているだけで頑張る要素がないのは退屈で仕方がない。
アリシアは椅子を前後に揺らしながら髪を編んでは解いてを繰り返してる。
暇で暇で仕方がなく、アリシアの髪の毛を編んでは解く作業を見てながらボーッと待ち七度目の編み込みが終わりと同時に手から光が溢れる。
「六回と半分かー。少し効率が悪いね」
自分の編み込みで時間測ってたの? 編み込みも一回毎に時間も変わるはず……
いや機械と同等と言っても過言ではない正確さだったし一種の目安になるのか……?
「まだ身体全体から漏れ出てるし……こう魔石だけに魔力を集中出来ない?」
そう言いながら次の魔石を手のひらに置く。
「そう言われても……こうか?」
魔石を握り潰す勢いで力を込めてみる。
「全然出来てない……感覚で出来ない?」
経験者、熟練者の感覚でやればできる!ほど理解のできないものはない。
初見で出来たら苦労はしない……けど自分も慣れたら感覚でやれば出来る!って言うと思う。
「うーん……そうだ」
アリシアは編まれた髪を揺らしながら奥の部屋へと向かった。
あの部屋には色々なものが記憶の片隅に追いやられるほど多くのガラクタがあるんだろうな……
しばらくしてアリシアが針を数本持ち出してきたかと思うと、勢いよく手のひらに針を突き刺す。
勢いよく刺された針は手のひらを貫通している。
「どう? 痛くない?」
「痛みはないけど何で刺した?」
「ちょっとした実験だよ。そのままにしててね」
そう言いながら次々と針を突き貫いていく。
手が針山と同等の扱いを受け、針の数が二桁を超え始めたところで針が一本一本抜かれていく。
「やっぱり無意識下でなら魔力を一点に集中出来るんだね」
貫通していた穴が順番に塞がっていく光景を見ながらアリシアはそう言う。
精神的負荷を与える新手の拷問かと思ったがそうではなかったみたいだ。
「無意識下で集中出来るなら一点に集中に
出来るはずなんだけど……一回練習してみようか」
「練習?」
「うん。練習で出来なかったら私が延々と杭を刺しては抜いてを繰り返す装置を作るだけだから」
針から杭に格上げされてるし、意地でもその装置のお世話になりたくない。
「まず、目を閉じて身体全体の流れを感じる」
「いきなり難易度高いんだけど」
「初歩中の初歩だよ。次に腕だけに意識を持っていく」
目を閉じ、体の流れを感じる……
「腕からどんどん指先だけに意識を集中していければ、魔石の作業も最高効率で終わると思うんだけど……」
腕に意識を……手先に意識を……意識をもっと先端へ……
意識を集中していると急に右手の感覚がなくなり、ボトッと足元に何かが落ちる音がする。
嫌な感じがしながらも床をそろっと見ると右手が落ちていた。
「右手落ちたんだけど」
「あー人造人間だから一点に高負荷が掛かればそうなっちゃうか。でも拾ってまたくっ付ければ──」
アリシアは右手を拾おうとしゃがみ、右手を拾うと、アリシアの視界の端に右手が生えている状況が映る。
アリシアは驚き、右手を放り投げてしまう。
「あれ? 生えてきてる……?」
うわ、本当だ。いつの間にか生えてきてる。トカゲの尻尾かよ。
「……あれ? あなた人間!?」
人間の判断基準がおかしい気がする。
「えっでも今の人間ってみんな自分の力で手くらいなら生やせるの……?」
アリシアは軽い混乱状態に陥り、訳のわからない事を発している。
このまま首を捻っているアリシアを見ているのも心が和むものもあるが、今が誤解をいい解く機会だろう。
「あなたも天恵持っていたのね。それなら早く言ってくれれば良かったのに……」
言おうとしたけどあんな自信たっぷりに言われたら否定し辛いと思う。
さて、人間ってバレたことだし一つ聞きたいことがあった。
「そういや人造人間用のお茶飲んだのは平気なのか?」
そう質問を投げると、アリシアの体は硬直する。
「……さ、はやく魔石の効率も良くなったしすぐ終わるはずだよ!」
アリシアは露骨に話題を変え、追加で魔石を四つ渡してくる。
「そんな強引に──」
「ほらほら! 指一本に一つ! はやくやらないと陽が出てきちゃうよ!」
アリシアの閑話休題のゴリ押しに折れ、渋々魔石に魔力をこめる作業に戻った。
想定していたルートと全く違うルートを進んでいる感じですが、いつも想定外の物語進行をしているので想定内です。




