四十九話
「いやーまさか自分から言いだすなんてね? あ、私としては嬉しい限りなんだけど」
別に自分から手伝うって言っちゃったから手伝うのはいいんだけど、幻覚云々がアイラと関係ないなら積極的に手伝う必要がないんだよな。
「手伝ってもらううえで、まずは……そうね。私の眼の色が左右違うのは気がついているでしょう?」
アリシアはそう言うと、自身の左右の目を順番に指差す。左目は紅く染まり、右目は蒼く染まっている。
「紅い左目の目は私の目だけど、蒼い右目の目は妹の目なの」
唐突なアリシアの衝撃的な発言に、開いたが口が塞がらなくなる。
「それが何か関係あると思うでしょ? 私がこの地下にこもっている本当の理由──」
理解が追いつくことはないが、なんとか口を閉じ、固唾を呑んでアリシアの次の言葉を待つ。
「──妹を生き返らせること」
その言葉は、あまりにも非現実的な、誰もが馬鹿馬鹿しく思う言葉だった。
だが、アリシアの言葉は、己の揺るぎない信念のもとに出された、嘘偽りのない真剣な言葉だと。なぜかそう確信めいてしまうのだ。
「貴族に連れていかれてから妹の人生は狂った……違うね、妹たちの人生が狂った。私は妹と子孫には幸せに暮らしてほしかった……妹には幸せな人生を歩んでもらいたかった」
アリシアの言葉に何も言えないでいた。
「私の身勝手な願望だって分かってる。だけど、これはあなたにも関係のある話なのよ? あなたはアイラを救いたいと思っているのでしょう?」
アリシアの問いに静かに頷く。
アイラの世界を壊してという願い。
言葉の通りに受け取り、世界を壊すのならばフィアの方が適任だろう。
そんなフィアがこちらに放り投げたということは、言葉の意味の本質は違う。
この館から私を救って欲しい、と勝手に自己解釈として受け取った。
「なら話は簡単よ。この世の理を以って彼女の天恵を失くせばいい」
「……どうやって?」
「……とある研究者の資料に、妹が与えた天恵と同じ天恵を持つ者は天恵を失う。このことから世の理に同一の天恵は一つしか存在できないのではないか、という仮説があった」
アリシアは数枚の紙を机の上に置く。紙には一つの天恵について手書きで事細かく研究結果が記されている。
「この理を利用して私の妹……アリスを生き返らせて天恵を起源へと戻すだけよ」
「だけってそんな簡単に……妹を生き返らせるなんて大言したんだ。その方法はあるんだろうな?」
「そうね……簡単に説明しましょう」
アリシアは奥の部屋から液体の入った瓶を持ち出し、シャボン玉を作り始める。
「空の果てはシャボン玉ようなもので出来ている。そして私達はそのシャボン玉の中の小さな星に住んでいるの」
アリシアはシャボン玉を割れないように軽く突く。
「そして死後はシャボン玉から追い出される。私はそのシャボン玉から追い出された魂を拾いあげて、そこから魂の記憶から肉体を複製するの」
アリシアはシャボン玉を手のひらの上に乗せる。
「でも、その為には高密度の魔力を一箇所に集中させて、この世界と、この世界の外側の次元を壊す必要があるの」
手のひらのシャボン玉を強く突き割ってしまう。
「でもこの世界の壁を壊すだけなら出来るけど、この世界と他の世界を繋げるのは不可能」
シャボン玉を二つ繋ぎ合わせようとし、片方のシャボン玉が割れてしまう。
「世界の外側と別世界は全くの別物だしね」
シャボン玉は全て地に落ち、存在し続ける。
「私は神様じゃないからシャボン玉の中から直接は取り出せない。だけど、シャボン玉の外にある魂なら私でも連れてくることが出来る」
「……そこから妹の魂を喚び出すわけか」
「そういうことよ」
「でも大丈夫なのか? 神への叛逆とか理への冒涜とか、この世界自体に殺されかねない」
「大丈夫よ。妹を救うだけなのだから。家族愛姉妹愛の何が悪いのかしら? それが許されない世界なら世界の敵にでも何でもなってやるわ」
「それ俺も敵になるやつだよね?」
「えぇ、二人もいれば世界どころか神すらも敵に回せるわね」
アリシアは真剣な表情と真面目なトーンで喋っている……
「えっ本気で言ってる?」
「重い冗談よ」
冗談ならもうちょっと朗らかな表情とトーンで喋ってほしい。
「さて、手伝ってくれるのよね?」
「……まぁ言ったからには責任を取らなきゃな」
「それじゃ、はい」
アリシアに袋を手渡され、袋の中を見ると数十以上の魔石が入っていた。
「……これは?」
「文字通り死ぬ気で頑張ってね」
アリシアは笑顔でそう言った。
森の館編の風呂敷は広げきった(はず)!
あとはこれを畳むだけ(だといいな)!!




