四十八話
「いや違──」
「いやぁ、地上の人達もここまで精巧な生命体を造れるようになったなんてねぇ……」
違うという言葉を言い終える前にアリシアは席を立ち、身体中をペタペタと触りはじめる。
勿論の事だが、人造人間ではない。
いや、一度死んだ身として復活する工程を挟んだ人間は、本当に人間と言えるのだろうか?
神に復活させられたんだし、神造人間か……なんかカッコいい。
なんて無益なことを考えていると、胸部を弄っていたアリシアの指が止まる。
「……あなた魔力核はどうなってるの?」
「魔力核?」
「えぇ、人造人間の構造で最も重要な部分で本体にも情報共有させるはずだけど……本物の人間に寄せて造られたからその情報がないのかしら」
魔力核に人造人間……生命の創生はこの世界の人道的に大丈夫なのだろうか。
神もポンポン転生者輩出してるけど。
「まぁいいわ。本当に微量だけど魔力が体外に漏れ出てるの。この調子でいくと、常に活性状態で三日持たずに死んじゃうわ」
この世界に来てから少なくとも十日以上は経ってるはずだが、死にそうな気配はないが……活性状態というなら気付かずに死ぬのか。
「このままではあなたは可哀想に憐れに惨めに散りゆく生命体……そんなあなたに宝石をあげましょう」
アリシアは奥の部屋から黒い箱を持ち出し、机の上に置く。
黒い箱を開けると中には黒く濁った紅い宝石が一つ入っていた。
「これは……?」
「魔力を常時吸収する特別な宝石。持ってるだけで魔力が過剰に吸い取られるから失敗作扱いだったけど……無尽蔵に創られてるなら話は別」
アリシアに宝石を持つように言われ、宝石を手に取ると、宝石は少し光を持ちはじめる。
「それを一日中持ってると、魔力がなくなって死んじゃうから適度に間隔をあけて持ってね」
宝石を持っていても魔力が吸い取られてる感覚がないから簡単に死にそうだ。
「それとその宝石が紅く強く輝いたら私にくれる? それ以上は魔力を吸い取れないって事だからね」
この宝石、紅く輝くのか……そういえば前にドラゴンが同じ色をした宝石を落としていたな。
あの宝石をどこに置いといたかは忘れたが、アレも魔力の塊のようなものだったのだろう。
「それと他にも……」
そう言うアリシアはパタパタと忙しそうに奥の部屋へと行ったり来たりを繰り返している。
机の上には一見して有用なものとは思えないガラクタが並べられていく。
「あ! お客さんにはお茶出さなきゃ!」
お茶を出していないことに気づいたアリシアはカップを持ち出し奥の部屋へ向かう。
少し経ち、目の前にお茶のようなものが出される。
出されたお茶は黒く濁り、暗く深い闇を想起させるような深淵がこちらを覗いていた。
「お茶も出さないなんて失礼だったよね」
「この黒いのは?」
「私特製の人造人間用に調合したお茶だよ?」
アリシアの何の疑問のない目から悪意はないものだとはわかる。わかるのだが……飲み物……?
お茶とアリシアに交互に目線をやっていると、アリシアは何か察したようにカップに手を伸ばす。
だが、本当にいいのだろうか。
わざわざ容姿してくれたものを自分が飲みたくないからと言って飲まないというのは──
いいや、よくない。男は度胸! なるようになる!
その言葉を強く心に刻み、グイッとお茶を飲む。
舌に残る苦味、流れが遅い液体、逆流してきそうな異物感……総評としてはすごく不味い。
「そんな無理して飲まなくても……」
心配そうに見つめるアリシアを横目に、お茶を一気に飲みきり、口の周りを腕で拭う。
「いいや、喉が渇いてたから飲んだだけだ」
アリシアは何か言いたげだったが、言葉を飲み込み何も言わずにお茶を口にする。
未だに口内は言葉に表し難い苦味で支配され続け、他の物事に集中しなければ表情が歪む。
そんな窮地に立たされた……いや、勝手に窮地に立っている時に、ふと素朴な、本当ならば最初に聞くべきだろう疑問が思い浮かぶ。
「聞きたいことがいくつかあるんだが、聞いてもいいか?」
「えぇ、私が答えられる事なら何でも答えるわ」
アリシアはカップを手に笑顔で応える。
「アリシアは普段ここで何をしているんだ?」
「うーん。そうね……あなたに渡した宝石と似たようなものを造ったり、他にも色々造ったりしてるだけね。あ、この振ると爆発する剣とかいる?」
「剣は要らない。他には何かやってないのか?」
「うん。地下に籠っているとこれくらいしかやる事がなくてね」
「そうか。外に出たりしないのか?」
「外にはあまり出ないかなぁ。外に出るとしても今みたいに陽が沈んでる真夜中くらい?」
「昼間は眩しいもんな……モグラみたいな生活してたらそうなるか」
「眩しいのは平気なんだけど、陽の光があるとちょっと大変なんだよね。日焼けとか」
まだ若いのに美意識が高いな。いや、数百年生きてるし、お婆ちゃんの遅すぎる老化防止みたいなものなのか?
「そういや何でこの場所を見つからないように隠しているんだ?」
「何でってここを見られたら大変じゃない」
「大変?」
「えぇ、上の人達より先にこの館に住み着いてるけど、上の人達は私の存在を知らないから侵入者扱いされてしまうわ」
「それで見つけられないようにしているのか」
「えぇ」
「でも館全体に影響する幻覚を掛ける必要あるか? この場所がバレないようにするだけなら館全体に幻覚を掛ける必要はないだろう?」
アリシアは深く一息つき、静かにカップを机に置く。
「それは──」
「幻覚を掛け続ける理由があるんだな? 例えば……アイラに関係することとかな」
「……あなたには関係ないでしょう?」
「そうだ。だが、もし俺にできることがあれば協力させてほしい」
「なんで? 協力した所であなたには何の利益もないのよ?」
「……暇だから?」
あっダメだ。シリアスな空気の導入に失敗した感が否めない。
「そう……」
アリシアは俯き、小声で答える。
まぁ部外者がいきなり口出すってのもおかしいし、シリアス失敗したし、このことはなかったことにして──
「まぁここに来たからには無理にでも手伝ってもらう予定だったし、わざわざ雰囲気を重苦しくしなくて良かったんだけどね」
アリシアはあっけらかんとした様子で話を続ける。
「まぁ無理矢理に協力させるのと、自発的に協力するのじゃ、やる気が全然違うもんね?」
思考が理解に追いつかない。情報がフライングスタートしてる。
「あと幻覚が云々って話はただ私の技量の問題だから、館全体に影響しちゃうのはどうにかしなきゃって数十年前から思ってたんだよねぇ……」
割と頑張ってシリアスやったと思うんですけど。
途中とか口の中の苦味の苦痛を耐えながら頑張ってたんですけど!?
あと勘違いしてたのめっちゃ恥ずかしい!
「あっ……いや、さっきの話はなかったことに──」
そうだ。この話をなかったことにすれば──
「あ、カップが空だね。もう一杯お茶入れてあげようか?」
「だいじょうぶですいっしょうけんめいがんばります」
ちくしょうもうやだおうちかえりたい。
遅くなった原因は古戦場でもMHWでもなく、最初の数話の誤字訂正と他に書いていたから。
一話を訂正して二話に行く人が増えるかのテスト。




