四十五話
テインの来室から時間が経ち、各々本を読み進めている。
アイラは本をパタリと音を出す様に閉じ、ふと思い出したかの様に喋り出す。
「そういえば入信希望者だよね?」
「まぁ……そうなるな」
アイラは椅子に掛けていた青い外套を身に纏い、一つ咳払いをする。
「ではこの私、教祖直々に適性を見てあげます。崇め、感謝してください」
アイラは教祖として振る舞い始める。教祖という役割にしては迫力がないが言うべきではないだろう。
そしてアイラは机の下から一冊本を取り出し、机の中央へ置く。
「まず、この本は何色に見えますか?」
机の上に置かれた本は、先程落とした本だ。深淵の様な黒々とした本は先に増して煌めき、黒い輝きを深めていた。
「黒」
「えっ黒?」
想定外の答えだったのか、早くも教祖としての振る舞いは崩れ、素の振る舞いへと戻る。
「えぇっと、ちょっと待ってね。前例がないので」
別の本を取り出し、項目を探す。その姿は既に教祖ではなく、調べ物をする少女にしか見えない。
「目次、黒く見えた場合……特別枠使用? 入信拒否? あっこれかな? えっと奴隷枠……」
本をパタリと閉じ、一呼吸つくと席を立つと窓へと近づき空を見上げる。
「今日は……お空が綺麗ですね……」
「なんだこの茶番」
「黒、黒かぁ……この館から逃げた方がいいんだけど、ここ森のど真ん中にあるし……」
「逃げた方がいいって?」
「門の前に体が大きい人いたでしょ? 元々は普通の人間だったけど、黒扱いされちゃってからあんな風に……」
体が大きい人というと、ルナと一緒にいた巨躯さんか。確かに身体の一部が隆起していたりしていたが、人間の要素は持っていた。
「あの巨躯さん元人間なのか。どんな魔改造されたら……というかそんな魔改造するこの組織は何なんだ?」
「何って言われても……私の天恵を崇める奇妙な宗教団体?」
言葉に言い表すのが難しいのか首を傾げる。
「アイラは天恵持ってるのか」
「うん。私の天恵は他人に擬似的に天恵を授ける事が出来る天恵なの」
あっけらかんとした様子で自分の天恵を喋る。
「……それは知らない人に言わない方がいいと思うぞ」
この少女には危険意識がないのだろうか。もし目の前にいる男が誘拐犯だったら捕まっていただろう。
「大丈夫、貴方は変なことする人じゃないよ。それに私は護身術習ってるから貴方一人くらいなら倒せるよ!」
不意に来る極々自然に紛れ込んだ悪意のない辛辣な言葉が心に突き刺さる。きっとアイラに悪意はないのだろうけど……だろうけど!
「そ、そうか……天恵には必ず制限か代償があって、回数制限だったり使う度に正気を失ったりするはずだけど、そこら辺は大丈夫なのか?」
「えぇ、私の場合は混合型で使えるのは十日に一回で使う度に身体中に激痛が走るの。それで今日が九日目、また使えるようになる前日にこの館に来るの」
「普段は何処で暮らしているんだ?」
「いっぱいお金貰えるからそれで贅沢三昧してるよ?」
「あ、そう……」
不思議そうに首を傾げながら答えるアイラに、それしか言えなかった。
一通り話すことがなくなり、再び各々が本を読み続ける。
本を読み終え、新しく本を探していると目を惹く主題の本があり手に取る。
題は創世記。数ページ捲ると、この世界の始まりが記されている。
このような本は図書館には無かったと記憶している。
確か歴史というと魔王が神殺しした後の歴史が中心で、それ以前の歴史書は見当たらなかった。
席に戻り、創世記を読み続ける。
半分ほど読み終えた所で目を擦る。すると背後から声を掛けられる。
「何の本読んでるの?」
いつの間にかアイラが背後に立っていた。アイラは開いているページを覗くと反応を示し、隣の席に座る。
「創世記かぁ。何度も読まされたからもう空で言えるよ。何かわからないところあった?」
「何度も出てくる原初の妖精ってのは?」
「諸悪の根源であり、生きとし生ける有象無象の救済者……かな?」
余計難しくなった。理解していない顔をしていると察したのかアイラは追加で説明をする。
「まず、信じられているのが大きく分けて三つあって、神様がこの世界を創った説と原初の妖精が創った説、始まりは元からない説の三つあるの」
なるほど、宗教ごとに世界の始まりが違うから図書館に置いてなかったのか。
「それでね。私が信じているのは、原初の妖精説で、この説はこの世界を創った……世界というかこの世が存在するという概念を創ったのが原初の妖精──」
「その原初の妖精こそ、このフィアちゃんなのです!」
唐突に、何の略脈もなく、突然とフィアが現れる。
「……フィア、キャラ変えた?」
「第一声がそれなの? いやさ、君が読んでた本にこういうキャラが居たから好きなのかなって……」
「勝手に読んだのか……別にいいけど。というか、なんでここに居るの?」
「普通はそっちが第一声だと思うんだけど。まぁそろそろ帰って来る時間なのに遅いから生存確認?」
「えっもうそんな時──」
窓の外を見ようとした時、アイラの姿が瞳の端に映った。マズイ。普通の人間にはフィアは見えないんだった。
アイラを見ると宙に浮かぶフィアを的確に捉えている。
「こちらの方は……?」
「あれ? 私が見えるの?」
アイラはコクコクと頷く。
「さっきも言ったけど、私の名前はフィア。キミ達が信じる原初の妖精だよ」
「ほ、本当に?」
「えぇ! 本当だとも!」
「お願い事……聞いてもらってもいい……?」
「このフィアさんにドーンとお任せあれ!」
フィアは胸を張り、胸を叩く。
「じゃあこの世界を壊して」
予想外の言葉だったのかフィアが少しの間固まり、つけているネコミミの裏側を押す。
アイラの真意を汲み取った様にフィアは答える。
「……なるほどね。その事なら大丈夫! この少し頼りないお兄さんがきっと解決してくれるよ!」
「えっフィアさん!?」
突然の流れ弾に動揺が隠せないまま、フィアに耳打ちされる。
「大丈夫。私は君の事をちょっとは信用してるからね」
ちょっとだけか……いや、ちょっと信用されているだけいいのか。
アイラとは少し話したが全く信用されていないだろうし。特に一度も名前呼ばれてない辺りが……いやこれはフィアにも呼ばれてないね。
「もうそろそろ夕陽が沈んで本も読めませんし、今日はもうお開きとしましょうか。私はもう少しここにいるので先にお帰りください」
「そうだな。アイラ、また明日」
「えぇ、また明日」
そう言い、書斎を後にする。
既にどこにいるかはバレているので堂々と廊下を渡り、階段を下りていく。
「そういえばどうやってここに来たんだ?」
「空間をちょちょっと弄って移動してるだけだよ。いつも都合良く君の元へ行ける訳ないじゃないか」
「そうか」
そんな会話をしながら廊下を歩いて行き、自室に着く。フィアが扉をバッと開け、先に中に入る。フィアは中をパッと見て一言。
「えっ嘘。こんな部屋汚いの!?」
「フィアにも綺麗には見えないか」
フィアにも汚く見えると言うことは、幻覚で確定でいいだろう。仮定から確定になったのは大きい。
ただ、原初の妖精であるフィアすら騙す二重幻覚だった場合は知らん。
「ここで寝ると病気になっちゃうよ? 私と一緒に帰ろう? 君は歩きになっちゃうけど道案内と君を守るくらいはするからさ」
「そうしたいけど、この世界を壊さなきゃいけないからな」
フィアは呆気に取られた顔をした後に、少しの笑みを見せる。
そして羽を広げ、ふわっと宙に浮かぶ。
「前言撤回! やっぱり私は君をかなーり信用してるよ! 私は帰るけどまた明後日に来るからね!」
フィアはそう言うと、光に包まれ姿を消す。
さて……少女に為に少し頑張るか。明日から!




