四十二話
「二人とも俺の後ろに下がってな」
カインはそう言いながら剣を構える。
ベルは人を盾にする様に後ろで押さえつけている。
森の奥から、赤い外套を身に纏い顔を覆い隠す様にフードを被った一人の女と、黒いボロ切れ布で目を覆った人間に近いが人間ではない何とも形容し難い異質な特徴を持った巨躯が現れる。
二人が一歩ずつ近づくに連れ緊張が高まり、カインの剣を持つ手には力が入り、ベルの指が肩により深く食い込む。
「あー君達がお客様? 私は案内人のルナよ。これの事は気にしなくていいから」
ルナは巨躯を指差す。指された巨躯は全身を一瞬震わせ、半歩引く。
「それじゃついて来てちょうだい」
振り向き歩き出そうとするルナに、カインが剣を首に突き立てる。
「その前に聞きたいことがある」
「どうして冒険者は血の気が多いのかしら。無駄な事はする暇はないの」
ルナが剣に触れると、指先に触れた箇所から錆びていき剣身が朽ち果てる。
「質問の答えが知りたいなら私じゃなくて館主に聞いてちょうだい」
そう言うとルナは再び歩き始め、その後ろに巨躯がついていく。
三人は顔を見合わせ、その後ろに警戒しながらついて行く。
道中は魔物に出会う事もなく目的の地であろう館に着いた。
館は廃れており、草は伸びて館の一階に絡みついている。この館に到底人が住んでいる様には見えない。
ルナが鉄門を開き、中へ入る様に言われる。ルナと巨躯は館の中には入らずに門の横で待機している。
言われるがままに門を一歩潜ると、外から見た館の姿は異なる景色が広がっていた。
目に入り込んで来た光景は、先程までは確実になかった広大な庭だ。
門から館の入り口までの距離は十数歩程度だった筈だが、館は遠くにあり、庭には木々が生い茂り噴水などが置かれ、草花は手入れが行き渡っている印象を受ける。
廃れていた館は新築同然の状態で存在し、色落ち損傷汚れなどは見当たらず、館の大きさは先程見た館より大きいが形は先程のと同じだと理解する。
この光景を視認理解困惑混乱している内に門が閉められていく。それにいち早く気付いたカインが急いで飛び蹴りするが門はビクともせず、門は完全に閉じる。
「閉じ込められたか……」
カインはそう呟くと、この様な事態に慣れているのか何事もなかったかのように館へと進んで行く。
館の前まで到着し、カインが扉を開けようと取手に手を掛けようとする前に扉が開き、盛大に顔をぶつける。カインが顔を上げた先には赤い外套を羽織る男が笑顔で立っていた。
「いやぁようこそ!申し訳ありませんね辺鄙な処にお呼びしちゃって!長旅でお疲れでしょう?お部屋を用意していますので食事の時間になりましたらお呼びいたしますので、ごゆるりとお過ごしください」
扉の奥から出て来た男は笑顔を崩さず一息に言い切り深々とお辞儀をする。
「……名前はなんて言うんだ」
カインは顔を抑えながらフラフラと立ち上がりながら胡散臭い男の名を問う。
「申し遅れました!私は館主代理のテインと申す者でございます。以後お見知りおきを」
テインは再びお辞儀をし、館の中へと入る。
ついて行く様に館の中へと入ると、館の内部は隅々まで手入れが届いており、汚れの一つも見当たらない。
「随分綺麗に使われていますね」
「えぇ!汚れの一つも見過ごす事はありませんので!」
他愛ない話をしながら今日泊まる部屋へと案内される。紹介された部屋は一階の奥。
「こちらの三部屋です。部屋の中にあるものは御自由にお使いください」
テインは軽くお辞儀をし、少し小走りにその場から去って行く。
「それじゃ飯時まで各自自由行動って事で解散!」
カインが手を何度か叩きながら言う。
「ちょっと待ってください!丁寧な対応ではありましたけど敵の本拠地と言っても過言ではないんですよ!?」
ベルは焦った様子でカインの提案を止めようとする。
「そんな事言ってもあいつはもう部屋に行ったぞ?」
ベルが辺りを見渡すと廊下にいるのは自身とカインだけであり、心は既に部屋に入っている事に気付いた。
「え……あ! えっと……名前知らない人! またいつの間にか!」
「俺もお嬢ちゃんの名前知らないんだけどな」
「あ、ベールです。じゃなくて!何の警戒もせずのうのうと敵のものを使うなんて……!」
「呼んだにも何か理由がある筈だろうし、飯時までは相手も仕掛けてこねぇだろうよ。もし心配なら俺がついて──」
「大丈夫です!」
カインが言い切る前にベルは少し不機嫌そうに部屋へと入る。
五十三話分書き溜めあれば一年間週一で投稿出来る事に最近気づいた。実行する気は毛頭ない。




