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異世界で頑張る  作者: 平田凡太
森の館
39/50

偽物と

 陽の光が部屋にさしこみ、一人の少女が目を覚ます。


「……おはよう」


 フィアは挨拶はするものの、ベットから起き上がることはなく、布団に包まったままで今にも二度寝してしまいそうだ。


「今日から生存力に全振りした生活をしたいと思うんだけど、フィアはどう思う?」


 寝起きでぼんやりとしているフィアは、寝ぼけ眼を擦りながら重たく口を開く。


「いきなり何さ……無理だと思うよ」


 フィアの少しばかり開かれた(まなこ)には慈悲も容赦もない、攻撃性が宿った危険なものだと見てとれる。


 フィアは顔を枕に沈ませ、二度寝に入り込んだ。こうなったら数分の内にフィアは再び夢の世界に入ってしまう。


「いつも通り、日課の読書に行くから留守番任せた」


 とフィアの意識が残っている間に要件を伝え、家を出た。



 進行方向に位置する強い光を手で遮りながら、片道数十分以上かかる道を歩きアテネスの図書館に向かっている。

 パルテノ襲撃事件以降、読書は最近の日課となった。基本的にはこの世界の歴史や地理等々を読み漁り、知識を得ている。最近読んだ本は野草図鑑。


 パルテノに到着し、人が行き交う大通りで通り過ぎる人々があからさまに避けている空間がある。

 斜めから照りつける陽射しの中、赤いローブを纏い、水晶を前に置いた怪しい露店が開かれていた。

 やはり自分とて他人と同じく関わりたくないので、周りと同じように避けるようにして歩き去ろうと露店の前を通り過ぎようとすると


「そこの黒髪の貴方、少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか」


 と後ろから呼び止められてしまう。周りを見ても黒髪は自分以外にいない。しかたなく振り向くと初老くらいの男がこちらを見ている。

 男は赤いローブを身に纏い、ローブの胸の辺りには何らかの紋章が刻まれた石の装飾が施されている。


「貴方、悩みがありますね? (わたくし)、こう見えて占いをやっていましてね。どうですか? 少しお時間を頂ければ貴方を占ってあげますよ。どうぞ腰掛けてください」


 明らかに占い師の装いなのに『こう見えて』というのはおかしな気がする。そういう格好をした者が占い師以外でいるのだろうか。


 それはそうと占いというと、この世界では魔法という理解不能証明不可能なものが存在する。という事は出鱈目(デタラメ)頓珍漢(トンチンカン)な占いではなく、本物──未来予知の様な占いがあるのかも知れない。


 そんな期待をしながら椅子に座ると、占い師は赤い腕輪を付けた腕を前に差し出してきた。その握手に応えるように手を重ねようとすると男はスッと手を引く。


「握手ではなく手相を……」

「あ、すみません……」


 顔が紅くなっていくのがわかる。見せてる右手を顔の前に当てて隠したい。

 占い師は水晶を横に退()かし、黙々と手を観察している。何の為の水晶なのかと思っていると、占い師は一通り終わったのか、一息つくと裏から一つの筆を取り出した。


「詳しく知る為に手のひらに少しばかり筆で描かせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「どうぞ」


 と深く考えもせずに返答する。他人に手のひらの上で筆を動かされるのは非常にくすぐったい。

 くすぐったい事に意識が向き、手に描かれた感覚では分からなかったが、手のひらを見ると何やら見覚えのある紋様(もんよう)が書き込まれているのに気づく。

 だがそれが書き込まれた事に気付いた時には、、既に手遅れだった。


「──貴方にご加護を」


 占い師の言葉を聞くと一瞬にして景色が変わる。



 占い師の姿は見えなくなり、視界には一面の青空が広がる。

 やられた──不意にそんな言葉が脳裏に浮かぶ。ここは魔法の存在する異世界。転移魔法くらいあるに決まっている。そもそも白昼堂々人攫いなんてされるとは思わないだろう。

 つまり、これは予期せぬ出来事ゆえ致し方ない事として処理しよう。人々はそれを不注意というだろが気にしない。


 必死に心の中で言い訳し、尻餅をついた状態から起き上がる。心を落ち着かせ、周りを見ると木々が無造作に切り倒され、無理やり切り開かれたような平地だった。

 周りに人は視認出来ず、自分ただ一人……と。この状況、今日中に帰れるのか? 日付跨いで帰るとフィアに怒られそうだ。


 この世界は陽が昇る方角は西で、朝来る時はいつも眩しいから東に行けば解決だな。いや、冷静になれ。本当に真正面から光は照りつけていたか? 本当は右からかもしれないし、左からかもしれない……最悪の場合世界一周する羽目になるが、それも悪くない。


 今日中の帰宅を諦めていると、後ろからきゃっと悲鳴が聞こえた。振り返ると尻餅をついた女がいた。女はこちらに気がつくと、軽い身のこなしで起き上がり、腰から短剣を抜き出し構えを取り始めた。


「あなた! あの占い師の仲間ね! 私を元の場所に帰しなさい!」


 その女の構えは素人目に見ても、完成されたものだと理解できるほどにブレがなく、完璧で美しい。教科書のお手本のように美しい形なのだが、どう見ても受けの姿勢、護身術の類いなのだろう……


 と観察している場合ではない。占い師の仲間だと疑われているのだ。話して分かるならいいが、構えられた瞬間に反射的にこちらも武器を持ってないとはいえ、構えてしまった。

 その上相手は半狂乱状態で、現状を理解しようとしていない。この状況から話し合いで解決できるか怪しい。


 互いに一歩も譲らない膠着(こうちゃく)状態が続く。するとまた一人、尻餅をつきやって来た。今度は男のようだ。

 男は周りを見渡し、睨み合っているこちらに気づくと何かを察したように女の斜め後ろに立つと


「ふむ……お嬢さん、助太刀するぜ!」


 と腰から剣を抜き出しこちらに向ける。その(かん)、女は後ろに来たにも関わらず反応せず、ただこちらに集中しているようだった。


 一対二になってしまった……こいつは女性の味方する俺カッコいい系かよと、どう見ても手ぶらで素人丸出しの奴に助太刀すべきだろと、そんな思いが脳内で交錯する中、男が動き出した。男はカッコつけようとしたのか


「下がってな」


 と言いながら女の肩を叩くと、女は間の抜けた声を出しビクッと反応すると、すぐさま振り向き、男を地面に組み伏せてしまった。


「痛い痛い痛い! ちょっと待って!」


 と助けようとした女に組み伏せられ、喚いている男の姿は実に滑稽であった。

 しかし、男は少しニヤけながら抵抗しているように見える。被虐的性的嗜好(マゾヒスト)なのかと思っていると、女の大きな胸が男の腕に押し付けられている事が分かってしまった。


 男なら分からなくもないが関節を()められつつ、短剣を突き立てられながらだと……と少しばかり引きつつも尊敬していると、男の弛みきった表情は一変、険しいものへと変わった。


「お嬢さん、ちょっとごめんな」


 と関節を極められている状態から女を浮かし、こちらに飛ばしてくる。女はふわふわっと降下し、ちょうどお姫様抱っこのような形になった。


「ちょっとばかし守っといてくれ!」


 と男が言うと、森の影から複数の足音を率いて、華奢な女が姿を現わす。


「ふむ、気配を隠していたのによく見破ったな。貴様ら、身につけてるものを渡しな。そうすれば命だけは見逃そうじゃないか」


 この世界の盗賊の遭遇率が高すぎる。法治国家じゃないと、こう、治安が悪いのは知っているけど、ぽんぽん遭遇していいものじゃない気がする。出会うのなんて一生に一度で良いと思う。一度も会わないのが一番だけど。


「盗賊風情に渡すなど何もない!」

「盗賊? 勘違いしないでくれ、私はただの勇者だよ」


 と自称勇者は一つ、首飾りを取り出し掲げる。その首飾りは陽の光を反射し、蒼く光る。


「新たな勇者が決まったとは聞いてたけど、勇者がこんなに腐っていたなんて……」


 女は信じられないといった様子で自称勇者を見ている。


「そうか、お前が犯人だったか。その首飾りを返せ。そうすれば──」

「返せだ? これは元から私のモノだよ? これはな──お前ら! 伏せろ!」

「え?」


 自称勇者の指示の反応に遅れた子分達は、複数本の(つる)によって絡みとられ森の奥へと消えて行く。


「広い場所に出ろ! 次の攻撃に備える!」


 自称勇者含め十一人の集団が広場へと転がり出てくる。


「報告! セプトとディスの二人が未確認物体により捕縛!」

「了解! 全員周囲の警戒を怠るな! 攻撃位置を特定し次第、魔法と物理による遠距離攻撃!」


 自称勇者は慌たゞしく子分達に命令していき、先ほどまで対立していた男と目が合う。


「忙しそうだな。どうする?」

「一時休戦してくれたら、助かるんだが──」


 男は少し考えるそぶりをした後、地面に転がっている剣を拾い、構えた。


「……人助けは冒険者の仕事なんでな」


「ああ、助かる!」


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