賊
閑散とした街並みが続く。つい数日前には人が群れていた中央広場にも人の姿は一つもなく、どこの家を見ても灯りが付いている家は一軒もない。不気味にも感じる程の静けさだ。カジノの前には長期休暇と書いてある貼り紙が貼られている。この世界にはNPCは存在できないのだろうか。など思っていると街に出たものの特にやる事がない気付く。自分の無計画さに呆れ、この後どうするべきかを考える。
そして浮かんだ案は、二つ目の街に行く事だ。行くなら徒歩であの森を進む事になる。あの森は道はある程度整備されているが、自分の家の周りとは少し違う不気味さがある。ここから二つ目の街はそう遠くはない。徒歩で30分程で着くはずだ。街に着いたら図書館に朝まで籠っていれば問題ないだろう。そうとなれば行く準備をしなければならない。
家を出る前に自分のポーチを回収して正解だったな、とそう思いながらポーチの中の護身用として渡された小刀を確認し、二つ目の街へと向かう。準備する物少ないと確認が少なくて楽です。一人旅は気軽でいいものかも知れない。
森の中はとても暗い。街の比にもならないほどの暗さだ。森の木々陰に光は遮られ、星明かりが見えず足元に気をつけながら慎重に一歩一歩進む。目は少し慣らしておいたはずだがこんなに暗いとあまり意味は無い……そういえば守護者が居なくなったダンジョンってどうなったんだろ。あの後、姫率いる部隊に制圧されたのだろうか。気にはなるがダンジョンに行って魔物に残党にでも出会ってしまったら逃げるしかない。魔物に怪我を負わされた時見た目ほどの痛みはなかったんだよな。……何か考えていないと少し怖い。
時々風が吹き、木が揺れると俺の心も少し揺れる。目は慣れてきたのか、ある程度見える様になった。二つ目の街まで残り半分の所、そこは少し開けており、木々が無いため星明かりで他の所よりも少し明るい。ここでは少憩が取れるスペースだ。少し休み、立ち上がった瞬間、強い風が吹く。それは自然な風の動きではなく、全方位から一点に集中して吹く風の様なものだった。すると、いつの間にか囲まれていた様で。
「へへっ、兄ちゃん。金目のモン全部置いていきな。そうすればこのまま逃がしてやるよ。いう事聞かないと……どうなるかわかるよな?」
賊だ。うわっ面倒くさ、こういうのって勇者がいる時に起こる様なものじゃないの?なんで俺なんだよ。もしかして夜道に一人で歩いていたのが不味かった?当たり前の事じゃないか。何かと理由付けて揉め事に参加しない様にしてたけど、目をつけられるとは思わなかった。
「さっさと出すモン出せや!ボロボロにされてぇのか!?」
と下っ端が煽り立てる。小物臭が素晴らしい。そのまま言われるがままポーチから探すが何もない。あれっ、ポーチの中って小刀しか無いんじゃないの?まずいって。
「すまん。金目のものねえわ」
「それで、『はい、そうですか』って帰す盗賊がいると思うのか?代わりになるものを探せ」
この小刀しか無いんだよな……出したら出したで敵認定されないか心配だな……というかもう敵認定されてるか。そう考え小刀を取り出す。
「俺の前で武器を取り出すなんていい度胸だ。さっさと鞘から抜けよ。一対一で戦ってやる」
もしかして親玉の戦闘狂の一線に触れて一対一の戦いする事になってる?勝ち目なくね。今の現状は、周りは囲まれている。心眼を使い、下っ端と思しき人物の人数を確認すると九人。心眼を使うと暗闇でも昼の様に全てが見える事に気づき続行して使う。新しい発見に心躍らせていると
「さっさと準備しろ!」
「親分に戦いを挑むだなんてあいつ死ぬな」
「確かにな」
「今のうちに最期の言葉でも考えておけ!」
など言われたい放題である。その間親玉は数人の下っ端に煽てられて気分は頂点に達している。あと何か死ぬって聞こえたんだけど……気のせいだよね?自動回復を使う事を視野に入れて、カウンター狙いで消耗戦狙えばいけるかも?そんな甘い考えを持ち、下っ端9人に囲まれ親玉の前に立ち鞘から小刀を抜く。親玉はどこからともなく大剣を取り出し構える。
「おお、いいダガーじゃねえか。俺が勝ったらそのダガーは俺にものか!まあ俺の勝ちは決まったものだけどな!ガッハッハ!」
「んじゃ!どちらかが瀕死になるか気絶するまで戦いは続ける!!戦いを始めようぜ!」
そう親玉が言うと、風の如き素早さで目の前に現れ、大剣を垂直に叩きつけてくる。それを間一髪で躱す。疾い、まるで大剣をバットを振るような速さで次々と撃ち込んでくる。カウンターなんて出来る合間は無い、特攻して攻撃を与えるしか。まずは体勢を取り直すべく少し距離を置きたい所だが猛攻の間どう抜けべきか、どうするべきか思考していると次々と斬撃が飛んでくる。
斬撃の猛攻を全力で避けるが、足に、腕に、傷が刻みつけられる。数秒経てば傷は完治するが逃げているだけでは勝ち目は無い。今は擦り傷しかついていないが、あの一撃を貰えばひとたまりも無いだろう。死ぬ気でやらなければ死んでしまう。戦う覚悟を決め、飛んでくる縦の斬撃を横に躱し、ダガーを横に大きく、力強く振る。
だが力強いダガーの斬撃は親玉に届く事はなかった。
届かなかったダガーから強い魔力が込み上げてくる。
その瞬間、ダガーからは暴風とも言える台風並みの風が目の前にあるもの全てを斬りつけ、全てを刻み、全てを破壊していく。親玉は直感か、風魔法の補助使いを跳躍し空中へ回避する。親玉は風の行方が気になり、背後を見ると、森の木々が目視でも数百m以上、薙ぎ倒れている事を理解してしまった。圧倒的、力の差、長年の間自分のより強い者はいなかった。井の中の蛙、それはまるで自分の様だと、親玉は思った。その時、込み上げてくる、久しい感情、幼少の頃に多く感じてきた感情だ。それは恐怖。圧倒的力を目の前に死の恐怖を感じていた。
一方、親玉の後ろで戦いを見ていた者の姿は跡形もなくなっていた。その姿を見た他の物を狂気に陥り、悲鳴を上げながら、暗い夜の森を逃げていった。
そして暴風とも呼べる台風並みの風を撃ち込んだ男は理解できず、呆然とダガーを構えたまま、立ち尽くしていた。
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