会話のやり取りは重要
急に途絶えた意識が戻り、暗転していた視界は次第に戻り、世界が色づき始める。
仰向けに倒れ、雲一つない青空と眩しい陽の光が目の奥を刺し、背中に草の感触を感じる。
起き上がると辺り一面には緑一色の草原が広がる。草原には大きな障害物はなく、ただ果ての見えぬ地平線が広がっていた。
閉塞感は感じず、開放感しかないはずなのだが、なぜだか恐怖を覚える。
ここが天使が言ってたチュートリアルをやる場所だろう。
そういえば今まで驚きの連続で驚く隙がなかった。一回驚いておくべきか?
などと考え始め、この状況が異常すぎて思考も異常になってることに気づく。
とりあえずはこの場所の把握、つまりは探索が先だと感じ、一方向に歩く歩く、ひたすら歩く。
しかし、歩けど歩けど景色が全く変わる気配が無い。
実際には変わっているのだろうが、空は晴天を保ち、視界の先には果てのない大地が見えるため、景色が変化したようには見えない。
大きな目印があればどのくらい歩いたかもわかるのだが、目印となる大きな障害物がない地平線だ。
この先にこの島か世界の端があったら端に沿って歩くのもいいが、広さがわからない。
戻る可能性も考えて小さく目印でも作っておけばよかったと後悔した。
今からでも遅くないと、その場に来た方向が分かるように草を編んで矢印を作り、先へ進む。
ひたすら歩くが景色が変わらない、空腹感と疲労感が襲ってこないので、この調子でいけば永遠と歩き続けられそうだが、そのうち頭がおかしくなりそうだ。
頭上には陽がギラリと光り輝き、皮膚を焦がさんとばかりに照りつけてくる。
陽の位置が変わらず、このままでは日焼けしてしまう。
歩き続けていくうち、足に何かが絡まり態勢を崩しそうになる。
足元を見ると草で目印が作られていた場所で足を取られたようだ。
いつの間にか元の場所に戻っている。地図の端まで行ったら戻されるループと同じだろう。
じゃない、冷静になっている場合では無い、これが求めていた驚くタイミングだ。
しかし、どうやって驚けばいいのだろう……天より授けられしタイミングを逃してしまう。
もういっそ驚かないようにしようと心に決め……
「あの」
「うぇっ!」
絶対驚かない宣言は数秒と経たず、間抜けな声と共に崩れ去っしまった。
おそるおそる声のした方向を向くと、一人の女性が立っていた。
「ここの管理者で一応女神やってます。とりあえず場所移しましょうか」
ならばなぜ一度ここに飛ばしたのか。
問いたいところである。
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意識が飛ばないのタイプの瞬間移動で再び応接室のような場所に飛ばされる。
女神に促されるままソファに腰掛ける。
「さっきの所はチュートリアルの実戦する場所の一つで部下の手違いで飛ばしてしまったようです。申し訳ありません」
あの天使か。随分手慣れている感じだったような気がするが、もしかして初対面で貧乳だとかまな板だとか思ったからか?
「私達天界に住まう者は大雑把ですが考えを読むことは出来ますよ」
おおっとこれは今までの心の中の独白がバレバレなのか? 大雑把と言ったが悪口を言っているのはわかるものか? というかこれも聞こえてるなら喋る必要ないのでは?
「あまり人の考えを読むのは好みではないので出来れば話して貰いたいです」
好みではないのに読むのか……いや、勝手に読んでしまうのか。あまり物事を考えないようにしよう。
では、チュートリアルの事を教えてください。
「チュートリアルは選んだアビリティの体験をして頂きます。ちゃんと喋ってください」
アビリティの体験だけか……それ以外にはないのですか?
「ないですね。ちゃんと喋ってください」
アビリティの体験なら簡単に終わりそうだな……体験はどうやって行うのですか?
「先程の草原で魔物一体と戦ってもらいます。ちゃんと喋ってください」
チュートリアルの終了の条件はなんですか?
「魔物を倒す、またはアビリティの全使用ですね。あとは死ぬくらいです。ちゃんと喋ってください」
死んだら?
「無に還ります」
チュートリアルだし死ぬことはなさそうだけど……武器とか防具はあったりします?
「それではチュートリアルを開始します。頑張ってください」
あっ、やべぇこれは怒ってる。無言で喋るの待つ程度かと思ってました。
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二度目の意識が飛ばないタイプの瞬間移動で先程と同じ草原へ。
先程の状況とは異なるのは、何もなかった場所に一本の木が生え、その木の下に人に何かがいることだ。あれが魔物とみて間違いないだろう。
武器も防具もないし、武器スキルもない。まずは敵の観察だ。
木の下には人間のような姿をした者が立っている。
体に目をやると、裸足で大地を踏みしめ、ボロボロでありながらも貴族のような身なりだとわかる服は紅く、それは血で滲んでいることがわかる。
穴が開いている箇所からは、人間とは大きく異なる肌の色をしており、直感的に肉が腐り変色した色だとわかってしまう。
腕からは筋肉が剥き出しに見え、手からは鋭い鉤爪が伸びている。
体から頭部に視線を移動させると、その者の本来あるべき双眼は無く、中からは暗き深淵がこちらを覗き狂気を孕んでいた。
恐るべき異形であり、闇を支配するような深淵の者を見てしまい、全身が未知の恐怖に支配される。
そして深淵の者の亡き目に見られているような気がし、背筋が凍り足は震える。
長々しくなったが、簡単にいうとゾンビだ。
実際、目の当たりにすると、体の震えが止まらない。
だが少し様子がおかしい。こちらを見ているような気はするのだが、一向に木の下から動こうとしない。
そういえば諸説あるが、ゾンビは日光が苦手な個体種があったはずだ。
ここから石を投げていれば勝てるか? いや、小石程度だとまともにダメージも入らないだろう。
あの女神を怒らせなければもうちょい弱い……こう、ウサギみたいな敵だっただろうに……ウサギもウサギで戦いたくないけど。
しかし、あの女神頭が回らなかったのか木の下以外に日陰は存在しない。
そして太陽も動く事はないので死ぬ事はない。
だが、勝つ手段もない。物理じゃ倒せなさそうだし、第二攻略法で行くか!




