第二の街
この街には出入り口が一つしか存在しない。
転移前は門は固く閉ざされ、周りの壁は壊しても先に見えるは壁であり、壁はすぐに元へと戻る。
そんな様子だったという。しかし、その門が転移した今は開いているとの事だ。出口が一つしかないのならば当然、外に出ようと人が集中してしまうだろう。
数百人という多くはあるが、それなりに門の幅は広く、全員が出るのに十数分と、かかることはないはず。
だが、門の大きさに対しての人の流れが遅く、混雑している。
混雑する原因とは何か。少し背伸びして先頭を見るとその原因が見えてくる。それは門の周辺でパーティの待ち合わせをやっている者がいるからであった。
先頭が進まなければ、後尾が進めるはずがない。外へ出るのに並ぶというのもおかしな話だが、門の前でたむろすれば、後ろの道幅を狭くしている事くらい理解して配慮してもらいたい。
それにしても我先へと外へ出ようとする者が多く、押し潰されそうになる。
二人と逸れないようしっかりついて行ったはずだが、二人の姿はない。人波に流されて先へ先へと行ったのか、いつの間にか後ろに行ってしまったか。
探すべく横へ離れ、心眼を使うが人が多く、眼前にはその場全員の名前等々が見え、情報過多で脳が揺れそうになる。
目を閉じ呼吸を整える。人が多いところでやたらと心眼を使っちゃいけないな……反省反省。
しかし、膨大な名前の中からフリッカとファスタの名前は視認できなかった。
ま、どうせ先行ってるだろう。
横に移動してしまったため、人の流れの一番後ろで歩いていると、フリッカとファスタの姿が見えたのだが、二人は門の前にいた。さっきまで貶していた連中の一員になってしまったような気分で気が滅入る。
「あ、心さん! 待ってましたよ!」
「まったく……雑用は遅いわね」
とフリッカには歓迎の言葉、ファスタには罵声を浴びせられる。律儀に最後まで待っていたようだ。
だが、門の前で逸れた人を待つのは、関係ない周りから見れば迷惑極まりない話だ。先に向かうという発想はなかったの……?
いや、待っててくれたわけだし、文句を言う筋合いはない。
「では揃ったことですし、行きましょうか!」
と勇者一行は歩き出す。
第二の街への道は木々に囲まれ、風が吹くたびに木が揺れ、葉の擦れる音が騒がしい。
道は舗装されておらず、悪路が続く──
さて、今は無職雑用、勇者の荷物持ち……と言いたいところだが、勇者パーティの三人には許容量無限の四次元ポーチが支給されている。
ポーチに入る大きさにものならば、いくらでも入るらしいが、どういう原理かは分からない。魔法という事にしておけば考えずに済むので楽である。
たまには小難しい事を考えたいものだが、いつも無駄な事しか考えていない。この世界では魔法の原理とかは解明されているのだろうか。
そんな事を考えていると、フリッカが立ち止まり、ファスタも立ち止まる。フリッカはこちらを振り向き、何か少し言いにくそうな顔をしている。これは……
「あの……すみません道間違えました……」
そうだとは思ってた。前のパーティがツアー参加者のように前のパーティについて行っている中、分かれ道で見事に勇者パーティだけが道を逸れていた。
前に人がいないのにも気付いてなかったようだし、二人ともどんだけ会話に夢中だったの……それでも前の人について行くとは思うけど。移動する際のツアーガイドはガイアだった。
「雑用は気付いていた?」
ファスタからの雑用はもう別にいいが、もしフリッカから雑用呼ばわりされたら辛い。
ここで本当の言えばフリッカからは哀しげな表情、ファスタからは罵声と冷たい目……ご褒美ではない。元々少ない信用を落とさないよう、本当の事に嘘を混ぜて話すのがいいだろう。
「少し考え事をしてて気付かなかった」
考え事をしていた事は本当だが、しっかり気付いてはいた。言い出そうにも話が盛り上がっていたのから言い出せなかったのは仕方のない事だ。
それにしてもいつも話しているが、話のネタは潰れないのだろうか。出会って数日で深い話は出来ないとは思うし、よく続くものだ。
「それでどうしましょう? 来た道戻りますか?」
無言で地図を開き、この先に何があるかを確認すると、この先に街へとつながる道はなく、洞窟があるだけだ。
「この先に街につながる道はないから一度戻ろう」
二人して俺に言うことを鵜呑みにして戻る。この二人は地図機能がないのかも知れない。しかし、地図を確認する様はまさに雑用係である。
正しい道へと戻り、地図通りに進む。
第二の街へと近づくにつれ、道は整っていき、第二の街へ着く頃には道は舗装されていた。
第二の街に着くや否や、遠くから悲鳴が聞こえてきた。
フリッカの表情を伺うと、キリッとした顔つきをしている。なんとなくだが、面倒なことに巻き込まれそうな予感がする。これは予感というか確信に近い。
できれば近付きたくないのだが、このパーティの主権はフリッカが握っている。その他の意見は風船のように軽く無視され、砂の上の城のように脆く、すぐに壊されてしまう。
「悲鳴です! すぐ行きましょう!」
そんなに面倒ごとが大好きなの? という言葉を飲みこみ、まるでパレードでも観に行くように、フリッカはファスタの手を取り走って行った。
取り残された。なんかフリッカと同じパーティになってから名前呼ばれてないような……嫌われているのかな……純粋無垢そうな子に嫌われるとか自殺ものだよ……
そんなネガティヴな心を殺して街の探索へ移る。
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「あれ? 雑用来てないよ! フリッカちゃん? フリッカちゃん⁉︎」