いざ
ふわり、と眼が覚める。前に意識が飛んだ時の感覚とは違う目覚め方だ。
意識が安定し、周りを見る。特に著しい変化はなく、ファスタとフリッカはまだ寝ている。
異世界に飛んだと考えるのなら外の様子を見たくなる。
暫くの間辺りを歩き回ったが、人の姿が見えない。
それにいつもならば街中は建物の修繕工事の音が響き、それなりに物音が聞こえるはずだが不気味なほどに静かだ。
大通りになら何かあるかも知れないと思い、大通りに向かう。
大通りに着くと、そこには多くの人がゴロゴロ転がっていた。その姿は、一瞬死体を連想したが、全員地べたで寝ているだけであった。
地図の存在を思い出し、地図を確認すると街しか表示されていなかったはずの地図が更新され、街の周りには緑色が広がっていた。
上がり気味のテンションだが、それを落ち着かせ、次にすべき行動を考える。
緑色の敷地が陸地だとするならば異世界転移が完了したわけだ。
異世界に来たならば、魔物が出るのを想定しておいた方がいいだろう。それらから身を守る為の防具……それと資金が必要だ。
金品がありそうな場所……転移してきた時から見えていた城だろう。
城の前に来ると門兵は居らず、扉が大きく開いている。
これはもう堂々と入ってくれ、と言っているものに感じられ、城の内部へと侵入する。
だが万が一の事を考え、自分の音は最小限にし、他の物音を聞き逃さないためにも聞き耳を立てながら移動する。
しかし、ここも外と同じく不気味なほどに静かだ。金品を先にしたほうがいいだろう。
泥棒といったら宝物庫に向かうのが一般的だが、勿論そんな所を知るはずもない。というか王室以外何も知らない。
手当たり次第に探そうとするが、扉は施錠されているのか、どの扉も開く気配がない。
城の中では、自分の足音の反射音だけが響く。王室の前へ着き、扉に聞き耳を立て、音を確認した後、静かに開けた。
そこには玉座に踏ん反り返っている女神がいた。
「こんにちは。泥棒さん?」
何でここに女神様が居るんですかね?
「それは私がここの王様やってるからだよ。というかこっちに来てから女神兼王様になった感じかな?」
当たり前の様に心を読んで返答してるし……
「貴方は私のような美女の前じゃ固まって話せないのだものね? 天使ちゃんに相談したらそう言ってくれたわ。それはそうと何の用でここに?」
金と防具。
「知ってる。この城の敷地内の考えは聞こえるわ。勿論あなたがここに来るまでの間考えていた事も」
知ってるなら聞かないでほしい……ここ来るまで何考えてたっけ。いやらしい事は考えていないはず。天使ちゃん大丈夫だよね?
「どうかしらね? とりあえずあなたの目的のものはこの城には無いわ。このお城ただの飾りだもの」
飾りだから途中扉開かなかったのか……ただの飾りのくせに拘りやがって。
「ここ以外の部屋には誰も通す予定はなかったし、部屋を創る必要はなかったのよね。あなたがただ異常なだけ」
なんで異常事態が起きたのか。
「なんでかしら。さっき加護あげたけど、その中に混じっていたのかどうか……あ、そうだこれまでに何度か気絶した?」
一度しか気絶していないと思う……飛ばされた時は強制的に意識が落ちてたけど、あれは普通は落ちないものなのか?
「普通は落ちないわ……特別に追加で私の加護をあげましょうか? この先何かある度に気絶しても貴方も楽しくないでしょう?」
これからも気絶する可能性あるのかよ。
受ければこの先、気絶する事は無くなるのか……
「お願いします」
しっかり言葉に発すると女神様は笑顔で詠唱を始めた。この女神は怒らせなければ誰にでも優しいのだろう。
「はい。終わり! それじゃ頑張ってね」
女神様にお礼を言い、王室から出る。
王室から出ると、そこは我が家の内部に繋がっていた。すぐさま後ろを振り向くが一面に木々が生い茂っているのみで城が遠くに見える。
我が家に帰るとファスタとフリッカが身支度をしていた。
「あ、どこ行ってたんですか? これからこの街から出ますよ! 先程ガイアさんが来て見えない壁が無くなっていたそうで!」
「そうか。俺は何かすることあるか?」
「今は何も無いわ雑用くん。さあ行きましょう?」
雑用……? まさか俺は無職雑用になってしまったのか。
肩を深く落とし、楽しそうに歩くフリッカとファスタの後をついて行く。