突然の来訪者
気持ちよく目を覚まし、周りを確認しファスタがいない事に気付く。透明リングはアビリティのお陰で効果は効かない筈だ。
ということは逃げられたか? 透明化出来るとはいえ視認系のアビリティ持ってる奴がファスタに怨み持っている奴だったら危ないな……
ファスタが帰ってきた場合、家に居なければならない。
今、やるべき事は一つ、ひたすら待つことだ。しかし娯楽道具は持っていないし、魔法習得方法を知っている訳でもない。
ベットでゴロゴロし、目を瞑って再び寝ようとするが目が冴え一向に眠れる気配がない。二度寝はできないのだろう。
何かないかと部屋の隅々まで探してみるが、見つけられたのは裁縫道具だけで、今出来ることはない。
そんなことをやっているとドアがノックされる。
ドアを開けるとそこには中央で大衆に向けてイベントを伝えた少女、勇者がそこにいた。
「こんにちは!」
反射的にドアを閉めるが、少女はドアに足を挟み、完全には閉められないようにしている。
「なんで! 閉めようと! するんですか!」
勇者が理由もなしに、この僻地にある平屋にわざわざ来るワケがない。出来る事ならば、自分の命に関わる面倒事以外は極力避けていたい。
その後数分、セールス勇者との耐久戦が繰り広げられ、セールス勇者が足を抜く。扉に鍵をかける。
「埒があきませんね……」
少女の声が離れていく。
どうやら諦めてくれたらしい。
と思っていると、再び少女の声が聞こえてくる。誰かと話しながら歩いてきている。
そして鍵をかけたはずの扉はいともたやすく開かれた。
自宅であるかのように中に入り、長年に渡り使っていたかのようにソファに腰掛け、膝上に勇者を誘導しているファスタが居た。
……せめて鍵の持ち出しは家主に許可取って欲しい。
「なんで開けてくれなかったのか、説明がほしいですね」
ソファに腰掛けるファスタの膝上になっている勇者が言った。まるでそこには勇者の威厳はなく、まるでファスタの妹のようだった。
「さっさと答えなさい。フリッカちゃんが聞いているでしょ?」
「……見知らぬ少女が押しかけてきたら、誰だってドア閉めるだろ? そして俺には『拉致監禁を行なった変態』という事実がある。それを悪化させないためにもドアを閉めざるを得なかった」
息を吐くように嘘をついた。その場で考えたにしては出来は良い方だと思う。嘘を隠すのなら事実を混ぜつつ嘘を投入すればある程度は騙せる。
「そうだったんですか……それはごめんなさい。私はフリッカと言います。一応勇者という肩書きがありますが、気にせずフリッカと呼んでください!」
心が痛い。嘘ついた事に対してと、これからも嘘をつかなければいけない事に心が痛む。純粋無垢という言葉が似合うであろう少女に、穢れを与えてしまったような感覚に陥ってしまう。
「謝らなくても良かったんだよ? この人嘘ついてたから。ね?」
なんでわかったんだよ……
ファスタのアビリティに超感覚ってのがあったな。それで分かるものなのかは後で聞くとしよう。
「嘘……だったんですか……」
フリッカが悲しそうな顔でこちらを見ている。
純粋無垢なその視線は、精神を浄化する何かを持っているようだ…
「悪かった。代わりに俺が出来ると思った範囲の三割くらいまでならなんでもしてやる」
フリッカは俯き下を見る。ファスタは俺に向かって無言の圧力をかけてくる。ガラスの心は破裂寸前だ。これ以上の負荷は耐えかねる。
「分かった。なんでもするから。な?」
「では三つほどお願い、聞いてもらいますね!」
フリッカはケロッと表情を変え、笑顔で言いきった。
まんまと嵌められたみたいだ。女って怖い……