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ガラス玉  作者: 西
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第三話 摘発と痩せた青年

不定期更新です。すみません…。

この国は腐っている、としか言いようが無いほど腐りきっていた。

国の金を横領し働かない身も心も太ってしまった貴族たち。やる気のかけらもない王政。民は苦しみ続けていた。毎日あたりまえにある飢え。民を人を人とも思わないような国の扱い。民は疲れ、国を諦めていた。民はこの国の未来を諦めていたのだ。

その時自警団という正義が現れた。この街を守るためだけに、平和にするためだけに存在する組織。それはどんな悪も許さない。悪だけを裁く正義を掲げた自警団である。

自警団は民間組織であるため、悪さをしている上流階級の者にしてみれば邪魔な虫が飛び回っているようにしか思えないだろう。団組織当時は潰されかけたらしいが、ある時に外国の要人を助けたため、外国公認の自警団となった。そのため、国はこの団に手出ししにくくなってしまい、国も組織の存在を認めざるをえなくなってしまった。だからまだこの組織は存在できている。

民は自警団に頼った。自警団こそが正義であり、国そのものが悪である。これは民が歌にして語っていた。それ程に民は正義という平穏にすがり付いている。その為、自警団を潰せば、民はデモを起こし、金をむさぼるどころではなくなる。自警団がある理由はそれだけではないがそれがもう一つの理由でもある。


「皆、行くぜ」

テミールが班に号令をかける。全員が頷いて一斉に走り始めた。

私たち第2班は、他国から物を密輸入しているというある貴族の証拠を掴み、そいつの邸宅に行って捕縛に来た。貴族の奴らだけで密輸入を行うなら自警団が関与する必要はどこにもない。しかし、民が関わるとなれば話は別だ。どうやら国で禁止されている人身売買を行っているというのだ、この家は。

この国の法廷は貴族に支配されている。そしていわゆる汚職が流行っているらしい。そのため逮捕したとしても、法廷に正当に裁く機能は失われている。しかし自警団で預かった、関わった案件は国の法に基づき処分する権限を国から与えられているため、ほとんどの事件や犯罪を自警団が裁いている。国の法廷は殆ど機能していないに等しい。よって捕縛などの行為は殆ど自警団で行われているのが実情である。

「シェイン、なにぼやぼやしている。さっさと地下に行くぞ」

集中していないことがバレたのか、ブラウムに急かされた。

私たちは今地下に向かっている。ここの貴族を捕縛しに来たのだが、奴の方がいきなり雇った護衛で追い返しに来たのだ。なむなくこちらも反撃するしかなくなってしまった。まだこちらに被害はない。今邸宅内に逃げた貴族を探している。班は三つに分かれて捜索中だ。

「あのクソ豚野郎どこに逃げやがった」

 イライラしてきたブラウムは口調が荒くなる。

「シェイン、さっさと見つけて帰って酒飲むぞ、さっきの雑魚共のせいで傷が増えた」

「…分かる、た」

絡み酒にならなければいいけど…。

地下へと続く階段を下っていくと、扉が見えた。すかさず扉の横に控える。

「開けるぞ」

彼が頷いたのを確認して、一呼吸あけて一気に扉を開放した。

勢いよく二人で飛び出す。敵はいない

「これは、酷いな」

中には鉄格子が並んでいた。貴族の地下に牢があるのはそんなに珍しいことではない。だが、見たものは異様なものでしかなかった。錆びついた鉄格子には血が付いている。ここまではまぁいいとしよう。よくはないが。問題なのは、一つの牢の中に大量に積み上げられた死体の山だった。

「酷いな」

ブラウムの顔は悪くないものの常になく眉間の皺が深くなっていた。

私は死体の中に生きている人間がいないか見た。

「お前よく直視できんな」

「慣れ」

「こんな山積みを?」

ブラウムはあまり見たことがないようだ。

私は次の牢屋を確認してみたが血みどろなだけで何もない。

「…だれ、か、…いるのか」

かすれた低い声が空間に響いた。突然のことにブラウムは剣をかまえた。

「誰だ!」

「…こっち、だ」

声が聞こえたのは奥の方だった。

「シェイン、お前は銃構えとけ」

ブラウムが指示を出してきたので、背中に背負っていた銃を構えた。ゆっくりと牢に近づく。

「君たちは…、自警団?」

中にいたのは、痩せた青年だった。

「そうだ! お前は誰だ!」

「…そうか、ハハハ、アハハハハ」

突然彼は笑い出した。ゆっくりと腹を抱えて、さも可笑しそうに。

「やっとお縄につきますか」

「誰のことだ?」

「父の事ですよ。捕縛に来たんですよね?」

青年の告白に、ブラウムは言葉を詰まらせた。

「あんた、息子?貴族、ここ」

青年は怪訝そうに首をかしげた。質問の意図が伝わらなかったようだ。

「あんたここの貴族の息子か?」

ブラウムが代わりに青年に質問した。

「そう、ですよ」

青年は絞り出すかのような声で低く笑った。心の底から軽蔑するかのような笑いに背筋にぞわりとしたものが走った。

「…シェイン、ここの息子は密輸に関係なかったよな?」

私は頷く。関係があるのはこの家の当主のみ。調査ではそうなっている。

「なら、お前はこいつを外に連れ出せ。俺はこの先に行ってみるから」

「大丈夫?」

「心配されるような俺じゃねーよ」

いらないウィンクを残して彼は更に奥へと行った。どうやら、面倒事を押し付けられたようだ。思わずため息をついた。

「君は、先に行きたかった、みたいだね」

「…病人、介抱、苦手」

銃の引き金を引いて、鍵を壊す。中に入ると、壁にもたれかかっている弱った青年は少し首をかしげたみたいだった。

「女性?」

「自警団、無理、女」

心底心外だという風に眉根を寄せた。

「あんた、女、ぽい」

「それこそ間違えないでくれ」

私は彼に近寄って手を引いて立たせた。彼の肩と腰は折れそうなほどに細かった。

「…聞く、いい?」

ためらいがちに聞いた私を青年は少し笑った。嫌な笑いではなかった。

「なんだい?」

「父親、に、された?牢」

 父親に牢に入れられたのか、私はそう聞いた。青年はそれを正確に読み取ったらしい。

「信じられない?」

「何故?」

元来た道の階段を彼のペースに合わせて上がっていく。ゆっくりとした歩みだったが足取りはしっかりしていた。

「…父が、密輸をしているのを知って止めようとしたらこうなった。母も止めようとしたんだが、…死んでしまった」

「……」

「さっきの死体の山を、見たかい?」

「見た」

「あの中に、母はいるよ。他の死体は皆使用人たちさ。…あの傭兵共が、殺したんだ」

彼の弱い口調には憎しみと憤りが感じられた。

あの死体の山を思い返す。ちらりと見えたメイド服。力のない垂れ下がった腕。首からとれたのであろうペンダント。死体を見るのには慣れている。だが、その個人まで見て、その人の生活を見てしまえば複雑な気持ちになる。

そんな私の心中を察したのか、それともただ単に疲れたのか、青年はなにもしゃべらなくなった。

長い階段を上りきれば、燭台に照らされた廊下が見えてきた。青年は眩しそうに目を細めた。玄関へと出る道はどっちだったかと左右を見渡せば、青年に真っすぐですよ、と教えられた。ありがとう、と言うと青年は驚いたように目を開き、そして次には嬉しそうに微笑んだ。

「何笑ってる?」

怪訝に思って聞けば、青年は久しぶりにありがとうと言われたものですから嬉しくて、と長い言葉を震え声で答えてくれた。

「一か月、くらい、ですから、…あそこ」

「・・・・・・」

そんな会話をしている時だった。廊下の向こうから、黒い防具を来た人間と太った醜い人間が走ってきていた。



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