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放課後奇 四 体育館

 だむ、だむ。

 だむ、だむ。

 ボールが音を立てて、跳ねる。

 キュッキュッとシューズが擦れる。

「……!!」

 私は勢いよくボールを投げた。

 弧を描きながら飛んでいくボールは真っ直ぐにリングへと向かう。

「……」

 ガコン、と音がしてリングに弾き飛ばされた。

 ボールはバウンドして転がる。

「……」

 ころころと転がる。

 私の足元でボールが止まる。

 そのボールには瞼があった。


 いつからだろう。

 最初に気づいたのは一週間前だ。

 投げようとしていたボールには瞼があった。

 その不気味さに思わずボールを落としてしまった。

 気のせいかと思いながら近づくとやはり瞼がある。

 目ではなく、瞼。

 閉じたままの瞼。

 拾い上げてじっくり見てもやはり瞼。

「……」

 恐る恐る瞼に触れてみる。

 ふにっと人の肌そのものの感触。

 ただ、周りはやはりボール特有の固い触感だ。

「……」

 私はいつものようにそのボールをゴールめがけてシュートした。

 

 不思議なことに不気味さはもう感じなかった。

 放課後、一人で残っていると私は必ずそのボールで練習をする。

 他にもボールはある。

 それこそ今年購入した新品のボールもある。

 だけどなぜか、私はその古くて不気味なボールを使って練習をした。

 そのボールは部活の時には無い。

 放課後、私が練習をしようとすると、不思議と転がっている。

 私以外には見えない。

 存在しない。

 そう思っていた。


「それじゃあ、今日は練習試合ね」

 部長の声が響く。

 その手に持たれているボール。

 間違いない。

 瞼がはっきりと見える。

 でも誰も何も言わない。


 だむ、だむ。

 きゅっ、きゅっ。

 あのボールが跳ねて、靴が擦れる。

 あのボールが私以外の人の手で跳ねる。

「……!!」

 と、ボールが私の手元へと移った。

 私はボールを跳ねさせ、身を捻る。

 相手の妨害。

 一人ならどうにかなる。

 二人となると難しい。

 だが、ゴールは見えている。

 ここからならば届く。

 私は立ち止まり、手を振りかぶる。

 その時だった。

 瞼が開いた。

 ボールを投げようと、手を振り上げていた私の目と、ボールの目が合う。

「!!」

 一瞬のこと。

 その一瞬に私は気を取られてしまった。

 投げたボールはゴールとは全く違う場所へと弧を描き、落ちていく。

「……!!」

 パシッとチームメイトがそのボールを取り、素早くゴールへと叩き込む。

 やはり、一瞬のことだった。


「やるじゃん」

「え?」

 パシッと軽く背中を叩かれる。

「てっきり、みなみはあのままゴール狙うんじゃないかと思ってた」

「……」

「あんたってワンマンだからさ、結構驚いたよ。まさか私のところにパスが来るとは思ってなかったもん」

「……」

 私がなんと答えようか考えていると花蓮に再び軽く背中を叩かれる。

「次も、あの調子でね」


 放課後。

 私はボールを投げる。

 弧を描いてボールは飛んでいく。

 赤いリング、その中にボールが落ちていく。

「やるぅ」

 花蓮がわざとらしく声を出した。

 私はボールを花蓮にパスする。

 ガコン、と言う音と共に、ボールがリングの中に落ちた。

「ねぇ」

「ん?」

「古いボール、知らない?」

「古いボール? そんなの一杯あるじゃん?」

「ううん」

 私は首を横に振る。

「一番、汚くて古そうなやつ」

「んー……」

 花蓮はボールの入った籠を漁る。

 律儀に見てくれるらしい。

「これが一番古そう」

 それはただのボールだった。

 何てことないボール。

「これでやるの?」

 ぽーんとボールが投げられる。

「んー……」

 私はそのボールをキャッチ。

 地面で跳ねさせる。

 だむだむ、と。

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