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【会社】蛙の子は蛙

作者: 田中せいや
掲載日:2015/04/14

六つ年下の上司は、専務の隠し子だった。本人は知らない。

拙著『闇だらけ ショートショート』所収の一編。

 S社で働いていた頃のお話です。

 その会社は国内に工場が五箇所ありました。わたしは地元のO市にある工場に中途で入社しました。三年後、半年間の予定で、名古屋の工場に転勤になりました。そこでわたしの上司になったのが、小峰(こみね)という六つ年下の男性です。役職は係長。新卒で入った彼は、中途のわたしより出世が早いのは当然です。ちなみに、そのときわたしは主任でした。

 歓迎会の席で、わたしはおもわず言っていました。

「あれ、小峰さんって、O市の工場にいる小峰課長のご子息ですか?」

「そっ。O市の小峰幸造はオレのおやじだよ。あっ、そういえばおまえ、O市から来たんだよな」

 上司とはいえ、年上のわたしをいきなり「おまえ」呼ばわり。このときから、いやなヤツだなあとおもうようになりました。

 彼は名古屋の大学を卒業し、そのままこちらで就職して、後々は地元O市に帰る予定だ、と言っていました。

 彼のもとで働いた半年間は、お世辞にも有意義だったとは言えません。彼があまりにも無能なのです。専門知識は皆無で、言っていることが頓珍漢(とんちんかん)。おまけに性格が悪く、決して自分の非を認めず、部下に責任転嫁する。そのうえ女癖が悪く、立場を利用して関連会社の女子社員にすぐ手を出す。

「親の七光りで出世したようなもんだ」と、社内ではもっぱらのうわさでした。

 親の……か。

「ブハッ!」

 実を言いますと、わたしは半年間、彼の姿を見るたび、心の中で笑っていたのです。あまりにも似過ぎていたもので。

「ブハッ、ブハッ! ブハハハハハ……」

 トイレに駆け込んで、おもいっきり笑い()けたこともありました。

 えっ、なぜって? ナイショ。企業秘密。ブハッ! おしえてやんない。

 ブハハハハハハハハハハハハハハハハ……。

 でもやっぱりおしえちゃう。


 O市にいる小峰課長はとってもいい人です。現場の叩き上げで、人情味があり、わたしはちょっと尊敬していました。

 そんな小峰課長と、O市にいた頃、会社の宴会でよく飲み交わしました。

鋤村(すきむら)のやろうによお、女房、寝取られちまったんだよお」

 小峰課長は酔うといつも、涙まじりにそう愚痴り始めます。

「あんちくしょう、ぜってぇ許せねえ。ぶっ殺してやるぅ!」


 それは、今をさかのぼること二十数年前の春──。

 O市の工場に就職して三年目の小峰課長(当時はヒラ)は、新婚ほやほやで、さあがんばるぞーと仕事に燃えていました。そんなある日、地方の工場から、鋤村専務(当時は課長)が、O市の工場に単身赴任してきました。鋤村氏は身長が百四十センチ弱で筋肉質。西郷どんを小さくしたような人で、かげで「豆タンク」と呼ばれていました。

 社宅に入った鋤村氏は、むかいに住んでいた小峰さんに、

「おーい。わしゃあな、ひとりでなにかと不便やさかい、おまえんとこの嫁はん、わしの身の回りの世話ぁさせんのに、ちょいと寄こさんかい」

 と、ほとんど命令口調で言いました。

 小峰さんにも隙があったのかもしれません。掃除でもするつもりで鋤村氏の社宅に行った小峰さんの奥さんは、いきなりガバッと押し倒され、

「ええじゃろう。なあ、ええじゃろう。ハァ~ハァ~、わしゃあ、溜まってんのじゃ。もう我慢できんのじゃ。ハァ~ハァ~……ええじゃろう……」

 と、無理やりやられちまった──あっ、もとへ、犯されてしまったのです。

 その秋の人事異動で、小峰さんは鋤村氏の引きで、三階級特進の主任に昇進し、その後もいろいろ優遇されました。しかし、そんなことでは気持ちがおさまるはずがありません。


 送別会の時、わたしはコップとビール瓶を持って、小峰ジュニア係長の席に行きました。

「小峰係長、半年間、たいへんお世話になりました。一杯、どうぞ」

「おっ、わるいな。おっとっとっと……。ほら、おまえもやれ」

「はい、いただきます。おっとっとっと……。しかし小峰さん、あんた、関連会社の社長やってる鋤村専務に、顔も体型も性格もそっくりですねえ。ブハッ、ブハッ! ブハハハハハ……」


 その後わたしは、傾いた会社に見切りをつけて退職しました。

 会社はてんやわんやの末に親会社に吸収合併され、しばらくして大規模なリストラがあったようです。

 小峰ファミリーおよび鋤村専務がどうなったかは、わたしの関知するところではありません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 語り口調と、軽快な中にある黒さが際立つ文章です。 [一言] ムラがなく、ラストの纏まりが綺麗だと思いました。 とても読みやすかったです。
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