私とあなた
私はあなたが好きです。
あなたが好きなんです。
放課後を伝えるチャイムがなると、学生は案外そそくさと家に帰るもので、30分程度しか経っていないはずの教室は、すでに私とあなたの空気だけが充満していた。
なぜ彼は帰らずずっと日が沈み始めた外を眺めているのだろう。
外より私を見て欲しかった。
「なにを見てるの?」
教室の一番端のすみっこの、あなたの前の席の椅子を回して向き合いながら私が聞いた。
「外です。」
驚いた、思っていたより中身がない。
「楽しい?」
これは私の素朴な疑問だった。
あなたが楽しければそれでいいのだけど、と付け加えるように口走ると、あなたは何も言わず、鼻をかいた。
「あなたこそなにをしているんですか。」
あなたは窓の外の世界から目を離さずにこういった。
あなたがいるから。だなんて地獄におちても言えない私は、
「ナイショ」
と言っておいた。
きのうテレビで、秘密のある女は魅力的だって言っていたし、バッチリだと思う。
外がすこしずつ暗くなって、風が冷たくなってきた。
あなたの横顔ははそれでもジッと外をみて、時折鼻をかくのだ。
私もあなたと同じように外を見つめてみる。
なぜだか、世界には私とあなただけしかいない気がした。
「好きです。」
ポツリ、と風に乗せられてきた言葉は、まるで太陽のように私の心を熱くした。
「あなたと過ごす時間はとても楽しい。」
ああ、なんだ。そういうことか。
告白ではないとわかっても私の心臓はしばらく静かになってはくれなさそうだ。
「どういう意味か、わかってますか。」
ガタリ、と音を立てて立ち上がった彼の目は、たしかにこの場所には私とあなたしかいない、と思わせた。