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西岡たちへの手掛かりは見つけられるのだろうか?

熱気と喧騒の夏

あるいは喪失の青空


第1章――海


第1章――その1 ブレスレット

 

省二郎はどうしたらいいのか、判断に苦しんだ。

西岡たちの動きのど真ん中に、偶然とはいえ遭遇してしまい、挙句に刺激的な警告までされてしまった。

臍を噛みたいような気もするし、逃げ出したいような気にもなる。

しかし、勇気を持って、身を晒したまま立ち向かう以外、為す術はない。

とは言ってみたところで、勝つか負けるかの全面攻撃に打って出るには、まだ機が熟しているとは思えない。

反対に、事件というものに敏感になっている省二郎は

―― ここは一旦、退くべきだ。

と思っている。

利谷の言うところの「シナリオ2」に、かなり近い状態になっている訳であったが、今後の情勢次第ではどう変化するか判らない。発展するなら戦わなければならないだろうし、うやむやの内に収束するなら、それに越したことはないのだ。

焦る必要はない。半年もしてほとぼりが冷めてから、計画通り明子を探し、洞貝に会い、一つひとつ外堀を埋めるようにして彼らに迫っていけばいいのだ。

一時小休止して、事態の推移を見守ろう。

今度の土曜日には、高科美佐子たちと一緒に海へでも泳ぎに行こう。



ところが、横浜球場で利谷にあってから三日目の二十六日金曜日、ようやく西岡の刺激的な警告による動揺も遠のき、日常の流れを取り戻し始めていた省二郎に、午後二時過ぎ、一本の電話があった。

省二郎の部門は、勤務時間中の私用携帯電話が禁止であったため、会社に直接電話があった。

受け継いだのは藤木である。

「有本君、電話だよ」

誰なのか、何の予感もなかった。

受話器を受け取ると

「俺だ」

と、利谷の錆びた声が響いた。

「節子が、警察に挙げられたぜ」

「・・・えっ?」


利谷の話を結果から言えば、挙げられたという言葉の意味は、正しくはなかった。事情聴収のために千葉県警東署の刑事に任意同行を求められて、出頭した、という意味であった。

「打つ手はない。どうするかは節子が帰ってきてからの事だ。しかし、覚悟はしといた方がいいだろう。―― 今晩は早く帰って、どこへも行くな。会わなければならんかも知れん。必ず、連絡をする」

利谷は言うことだけを言って、電話を切った。

「・・・」

警察の動きが、早い。

最悪の事態になりそうな雲行きだ。

省二郎がゆっくり受話器を元に戻すと、高科美佐子が机の前に立っていた。

「課長がお呼びです」

「僕をー―?」

「ええ、私もですけど・・・」

二人で応接室に来るように、という伝言であると言い、肩をすぼめた。

言われた通り二人で応接室に行くと、辻課長の前に他班の内田 悟がすでに座っており、二人を見て軽く会釈をした。

辻課長に促されて、高科美佐子を間にして座ると、吸いかけの煙草を消して

「実は君たちも、もう知っていると思うが・・・」

と、辻課長は用件を切り出した。

月曜日に正式な辞令が降りるが、上場準備室のメンバーに君たちが選ばれた、というのである。

内田は既に伝えられているのか、表情を変えず、有難うございます、と言ってから

「あのう、チーフはどなたになるんでしょうか?」

と、心配そうに聞いた。

「名目上の室長は社長だけれど、実行部隊の責任者は私になると思う」

辻課長はそう言ってから、正式な辞令までは他言をしないようにと注意をした。

そして

「どう、今晩――。前祝ということで、軽くいくかね?」

と、砕けた調子で言った。

「はっお供させて頂きます」

と、内田は言いながら中腰になり、煙草を取り出した辻課長の手元へ素早くライターを差し出した。

辻課長は一服してから

「何か疑問でもあるかね?」

と、怪訝な表情をしている省二郎に向かって言った。

「―― いえ、別に・・・」

「それなら良いが、何だか浮かぬ顔をしているように思えたのでね。けれど、もし心配事があるなら僕に言いたまえ。君の場合、立場が立場だから、まあ判らんでもないが、僕は悪いようにはしない心算だ」

辻課長は鷹揚に言って、一−二度うなずいた。



節子がカサブランカに姿を現したのは、八時過ぎであった。

南二局で利谷が親、三本場の局面であった。

節子が警察に出頭している時、それも己の運命というか、状況というか、そういうものが一つの転機に差しかかっていて、切羽詰っている状態の時、雀荘で牌を摘んでいる男、というものは、普通の人には理解し兼ねるであろう。しかし利谷は、別段、奇を衒ってそうしているのではなく、これがこの男の「地」なのである。

利谷は軽く流局させ、真田にピンチ(代打)を頼んで、カウンターに寄りかかっている節子のところへ行った。

一応、携帯でざあっとした事は聞いてはいるが、挨拶代わりのように利谷は言った。

「どうだった?」

節子は上目づかいに利谷を見て、ため息を吐き、首を左右に振った。そして、出よう、と利谷を促し、外に停めてあったクレスタに乗り込んでから

「―― 利ちゃん、逃げたほうが良いわ」

と、助手席の利谷を見て言った。

警察は田代の怪我は勿論、石黒の怪我の事も、犬飼の怪我も一連の事件として掴んでいる模様だと言い

「私、依頼者は誰だとか、車は誰に貸したんだとかって、ずいぶん聞かれたのよ。―― 怖かったわ。嘘だったらどうなるか判っているだろうって、脅すんだもの。申込用紙も証拠物件として持っていったし・・・」

節子は、全てを宮下一郎のせいにして、利谷と省二郎の名前は出さなかったと言う。

「すまない・・・」

「ううん、元はといえば私だもの・・・」

そう言って、節子は軽く目頭を押さえた。

利谷は気になっていたことを聞いた。

「おにぎり頭の犬飼って奴は、ひどい怪我なのか?」

「ええ、顎を複雑骨折して、歯が半分くらい折れてるって。それに、脚の肉離れが凄いらしいわ」

利谷は少し考える振りをしてから、もう決めていたのであろう

「節ちゃん、節ちゃんは何も心配しないでいい。俺は今から姿を消すから、明日から刑事が来たら本当のことを話すんだ。有本の事以外は、本当のことを話すんだ。いいかい、利谷幸一に車を貸したって言うんだぞ」

と、一気に言った。

「・・・私、そんなことは嫌だ。逃げるなら、一緒に逃げようよ」

「馬鹿、なに考えてる」

と、笑顔を作って言うと

「だって、一人じゃ寂しいじゃん」

と、他人事を話すような口調で言った。

「今はそんな場合じゃなかろう」

利谷はそう言いながら、先日からそれとなく心を寄せるような発言を繰り返している節子の、哀しい心を思った。

しかし、やらなければならない事が起きたのだ。逃げる訳にはいかない。

「じゃあ、どんな場合だったら良いの?」

「・・・そうだなあ。そういう話はさ、とにかくこのゴタゴタが収まってからにしよう」

「収まるって、いつよ。―― そんなもの、いつか判んないじゃん」

利谷は節子の言葉を聞くと、少し考えてから言った。

「・・・十日間だ」

「十日・・・?」

「まあ、そんなところだろう」

利谷としては充分な自信がある。警察が追っているのは田代を刺した人間であって、やくざの組員である犬飼を殴った人間ではない。その辺りが警察としても今ひとつ判らないため、とりあえず捜査線上に浮かんだ車の借主を捕まえよう、という事であろう。

「だったら良いけど・・・」

と、節子は少し考えて、妥協的な言い方をした。

「その間、石黒のことは頼むよ。顔が出せないからな」

「うん。付添婦さんには充分な心づけをしているから、大丈夫だと思うよ」

「連絡はお互い、メールで毎日入れる事にしよう」

利谷はその後、節子から警察での取り調べの様子を細かく聞き、自分の考えを補強したあと、節子の運転でレンタカー屋へ行きトヨタクラウンを借りた。

そこで節子とは別れたが、別れ際節子は

「これ、持っててー―」

と、トリプルの銀のブレスレットを外して利谷に渡した。そして

「十日後には返してね」

と言って、小指を差し出した。

利谷は、判った、判ったと答えながら、何か別の世界でもあるかのような、愛しい感情が湧いて来るのに戸惑った。節子の、緑のアイシャドーがこんなにも美しく思えたのは、初めての事だ。



利谷はその足でホテルに帰り、フロントの愛子に二週間ほど留守にするが、荷物はそのままにしておいてくれるよう頼み、一ト月間の部屋代をデポジットした。

車に戻ってシートに深深と身を沈ませ、パネルの隅で蛍光を放つデジタル時計を見ると、九時四十分を示している。

省二郎に電話をかけた。

留守電になっている。

必ず電話をするから待機をしておけと言ったのに、どうしたんだろうと思いながら、折り返し電話をするよう留守録をした。

まさか辻課長たちと前祝をしているとは、思ってもいない。

次に、真田に電話を入れた。

真田は、先ほどの精算金を六千円ほど預かっていることを告げたが、利谷が四−五日付き合ってくれと言うと、その意味がとっさに理解出来ないのか

「私と打ちたい、という事ですか?」

と、トンチンカンな事を聞き返した。

そうではない、と利谷は言い、仕事を休んで俺に付き合って欲しい事があるんだ、と重ねて言うと、しばらく考えてから言った。

「いいですよ。いつからです?」

「今から迎えに行くから、十分後からだな」

「着替えなんかは?」

「金さえあれば、何とかなるさ」

「無茶だなあ・・・けど、了解です。下で待ってますよ」

利谷は電話をかけながら、車を発進させている。ネオンや街路灯の光が目に飛び込んで来るが、車や人の往来は少なくなって来ている。

―― 朝には着く

東北自動車道の盛岡インターまで六時間、そこから国道百六号線を東走して一時間もすれば区界峠、更にそこから二時間かけて下って行けば、魚の臭いの立ち込める宮古市である。

利谷の考えに拠れば、有本省二郎の語る西岡為三なる人物を捕捉すれば、自分に向けられている矛先は雨散霧消するはずなのである・

あながち間違いではないが、そういう具合に、一人で勝手に 思っている。

―― 俺は、利谷だ

彫りの深い横顔から愁愁さが掻き消え、傲岸ともいえる彼本来の戦闘的な面持ちになった。

この時点から数日間、利谷の行動と省二郎の思惑は、違った色彩を放って推移することになる。


断章――記事


二十五日午前十一時ごろ、御前崎南方五キロの沖合いで、四十歳から六十歳の間と思われる男性の死体を発見した。発見したのは、相良漁協所属の遊漁船、第二大神丸(船長、高沢亮平、四十九歳)で、死体は青いシートに包まれていた。発表では死後一週間から十日経過しているとの事。発見当時は海面も穏やかで、見通しも良かったという。警察は事故、事件の両面で捜査の方針。



第2章――その2 椰子の実


七月二十七日の日曜日、省二郎は高科美佐子たちとの約束どおり、サザンビーチへ海水浴へ行った。マンションへ帰り着いたのは、四時近かった。しかも、一人ではなく、藤木と赤松、そして美佐子とひとみも一緒である。

どうしても赤松が見つけたという、パスタの店に行こうという事になり、省二郎が断れる雰囲気ではなかった。それならば、すぐ裏手にある省二郎のマンションでシャワーを浴びてからにしよう、という事になり、みんなが省二郎の部屋に集まった。

省二郎は後二時間くらいしか時間がなかった。利谷が金曜日の夜、宮古へ向かったと連絡があり、今日朝、現地を出発してこちらへ向かっているという。途中どこかに寄って

「遅くとも六時半には着く。とにかく、会おう」

という事だった。

シャワーの順番は男たちから、という事になり、最初に藤木が椰子の実を持って浴室に向かった。

椰子の実? うーん・・・ビーチで遊んでいる時みんなで椰子ジュースを飲んだのだがひとつ余ってしまい、それを赤松が抱えていたのだが省二郎の所へ来る途中で砂の中に落としたため、シャーワー室へ行くついでに藤木がそれを受け取って洗おうと思っているのだ。

車の中に置いてくればいいものを、赤松は椰子の実の手触りが気に入っているのか手放さない。

ひとみは勝手に冷蔵庫を開けてジュースを取り出し、鼻歌交じりで皆の分をコップに注いでいる。

省二郎は玄関横の物陰に行き、携帯メールを見る。

―― 菊池 隆司に会った。どこへも行くな。話がある

利谷の動きを見ていると、事態が急展開を見せ始めているような予感が胸にこみ上げ、焦燥感が募る。

「有本さん、オレンジジュース飲まない」

美佐子の呼び声が聞こえる。

ありがとう、と答えて歓声が挙がっているみんなの所へ行き、腰を下ろす。

「有本さんだって、あんなボートなんか興味ありませんよね」

と、ひとみが澄ました顔をして言った。すると、シャワーを浴びて部屋へ入ってきた藤木が、赤松に椰子の実を渡しながら

「いやあ、それは美佐ちゃんが例外なんだよ。誰だって一度は乗ってみたいものさ、男なら特にそうだよなあ」

と、省二郎に相槌を求めた。

「そうですね。一度くらいは・・・」

と、省二郎が笑って答えると、すかさず

「いじわる」

とひとみが言い返した。

話は、昼間沖合いを通った七十フィートはある大型クルーザーの話であるが、ブルーナインと命名されたそのボートに、本来なら今日、高科美佐子が乗船していたはずなのだ、と、ひとみが披瀝したために、その話がまた話題に上がっているようだった。

船の持ち主は横浜の九品寺孝蔵なのだが、今日は上海から帰国している星野常務が九品寺家の招待に預かり、パートナーとして美佐子が誘われたのだ。けれど、先約があるからと断った、というのである。

藤木が言った。

「美佐ちゃんは僕たちと住む世界が違うもんなあ。けれど、これからのセレブとしては失格じゃない。働く必要もないのに働いたりして、いい奥さんになれないかもな」

美佐子が長い髪を後ろへ反り返らし、ジュースを飲みながら答えて言う。

「何だか誤解されてるみたいですけど、その前に独身貴族として失格なのよね。・・・だけど、いいんだ私は」

するとひとみが

「そうだよねえ。好きな人がいるもんね」

と、顔を傾けて言った。

「ばか」

と、美佐子が強い視線をひとみに向けると

「だれだあ、そんな奴は?」

赤松が浴室から姿を現し、省二郎にバスタオルを渡して言った。そして、初めて気が付いたのか、ベランダに続く窓を見て

「どうしたの?」

と、省二郎に聞いた。

全員の視線が、割れた硝子に向かう。

拳大の穴やひび割れを塞ぐために、ガムテープが蜘蛛の巣のように貼ってある。

省二郎が、割っちゃったんだ、と答えて浴室に姿を消すと、みんなその話題は忘れたようにまた他愛もない賑やかな会話に戻った。

みんな陽に焼けて、健康そうな赤い顔をしている。

三十分ほどして全員がシャワーを終え、赤松推薦のパスタの店に行く事になった。

四時半である。

省二郎はあと一時間半後には、戻って来なければならない。

ぞろぞろと部屋を出て、駐車場へ行き、赤松が車のドアーを開けて椰子の実をリヤ―フロントに飾ろうとしている時、濃紺のトヨタクラウンが滑るようにして省二郎たちの前へ来て停まった。

全員が見守る中、助手席からサングラスを掛けた利谷が降り立った。麻で出来た、白いジャケットを腕に掛けている。

―― 早いな・・・拙い。

サングラスを外して、険しい顔をした利谷が一−二歩進み出ると、省二郎以外全員、それにつられた様に後ずさる。

利谷が省二郎を認めて言った。

「何やってんだ、お前・・・」

利谷の、錆のある、容赦のない言葉が飛んでくる。

「遊んでる場合じゃねえぞ」

省二郎は利谷を手で制してから、藤木に向かって言った。

「すいません。急用が出来たので・・・」

会社のみんなに目配せをして、そのまま利谷を促し、トヨタクラウンに乗った。

省二郎が後部座席に乗り込むと

「お前、いつも遊んでばかりで、何やってる。お前自身の問題なんだぜ」

と、強い口調で注意し、間をおいて

「宮古へ行ってきた」

と、重く言った。

省二郎が、改めてその意味を考えていると

「どこへ行きます?」

と、運転席の男が言った。

「予定に変更はない。大阪だ」

車は来た時と同じように滑るように走り出し、うだるような暑さの中、茅ヶ崎市内を通り越し、左富士を見ながら厚木インターへ向かった。

三浦半島方面に張り出した積乱雲の層の薄い部分が、オレンジ色に輝き始めている。この分でいけば、あと一時間もすれば見事な夕焼けになりそうである。

利谷は省二郎のこの二−三日の動きについて何も聞かず、おもむろに

「戦闘開始だ。――お前、うかうかしてると又、刑務所だぜ」

と言った。

「もう少し確認したほうが良いのじゃないか?」

「ばか、お前も懲りない奴だな。何を確認する?・・・お前の考えは判っている。しかし奴らの世界は、量子の世界と同じだ。確認したり、測定出来た時には遅いんだ」

「・・・」

「眠らされて、気が付いたら殺人犯だった?――いいか、そんな甘えは俺には通用せん。今勝つ奴が永遠に勝つ。攻撃あるのみだ。どんなに頭が良くったって、先手を取らんでどうする」

そんな激しい言葉を吐いた後で

「菊池隆司に会って来たよ」

と言った。

宮古事件の、西岡の相手である。

「どうだったと思う?」

「・・・」

「確かお前の話では、似非右翼の親玉という事だったな」

しかし、今は違う、と言って

「あれは負け犬だな。奴は生涯人の顔色を窺がってしか生きられない人間になっている。――その理由が判るか?」

と、省二郎を見て口をつぐんだ。

車は東名高速に乗り、二宮を通っている。車外に見える丹沢の山塊が、予想通り真っ赤に染まり始めている。

時刻は六時を回っている。

「奴は、片脚の案山子になっていやがった。右脚の大腿部を真二つに切断だ」

「・・・?」

「夜釣りに行って海へ落ち、船外機のスクリューで切ったそうだが、ありゃあ嘘だ」

利谷はそう言ってから

「事件があったんだ」

と言った。

「―― 事件?」

「下らん事件だが、見方によったら面白い」



その面白い事件、というのは平成十一年暮れより十二年初旬に掛けて発生した、缶詰工場誘致に関わる詐欺事件である。

県議・菊池隆司は表向き保守系無所属と勝手に名乗っていたが、その素性の悪さから政治の世界では孤立しており、本人自身、どこかの組織に所属したがっていた。

その菊池隆司の経営する海産物卸商、株式会社「菊栄」に、平成十一年晩秋、一人の男が宮古港に隣接する、菊栄所有の土地二千坪ほどを売って欲しいと言って現れたのである。

男は東京の品川に本社を持つ、株式会社シンカンの代取・飯田剛造と名乗り、缶詰工場を作りたいと言うのである。

紹介者は自由民主党青年部、某人の紹介状を携え、公庫の資金が十五億円、補助金が三億円余り使えるというのである。そして、この事業の立ち上げに際しては入党も考慮すると。

―― おかしい

誰でもそう思う。

二千坪の宅地といっても、時価換算すれば四−五億円にしかならないし、それを目途に無理な借入を繰り返している。その土地を担保に十五億の資金を用意するという。本体に余ほどの資金があるか、信用力があるか、政治力があるに違いない。

菊池隆司は東京の知人を介して、株式会社シンカンを調査した。

信用情報は、ずば抜けた成績を示した。

菊池隆司は、蜘蛛の巣にかかった蝶を絡め取るように、シンカンに接した。

ところが、シンカンは菊池のそういう態度に辟易したのか、大船渡にある別の土地に工場を建てるというのである。

菊池にとっては、思う壺であった。

そこからが本当の話だ、と思っている人間である。

今まで信用して動いていた自分の立場を、どう始末するつもりだ、という脅しが始まり、結局、菊栄の土地をシンカンは買わなければならない羽目になった。

シンカンの事情もあり、支払い条件はシンカン振出の百二十日の手形という事になり、予約の仮登記だけして名義書き換えは手形決済日に連動する事になったが、菊栄の要請もあり、別途、二億円の融通手形がお互い百二十日サイトで切られた。

そして決済、ならびに融資実行日でもある平成十二年三月某日朝、東京より出張してホテルに泊まっている飯田剛造に会うべく家を出た菊池は、飯田の部屋に入ったまま、ホテルのロビーで待つ菊池の部下たちの目にも触れず、忽然と掻き消えたのである。

しかも後で判ったことであるが、シンカンの手形はレースの組んである、いわゆるポン手、レース手形であった。



「夜釣りに行って、海に落ちた? 馬鹿言っちゃいかん。やられたんだ」

どういう思惑が重なってやられたかは知らんが

「奴が失ったものは、判っているだけで片脚と二億円の負債だ」

「・・・」

「死ななかったのが、せめてもの幸いかな。よほど怖い目にあったようだ」

「やはり西岡たちだろうか? 彼らは政治家とは縁がないように思うが・・・?」

省二郎は話の進展についていけない自分を感じる。

「おい、怒るぞ。お前、完璧に監獄ボケだな。――いいか、可能性を考えるのはいい。しかし、それは行動に移す前にしろ。戦闘は開始されているんだ。これと思い定めて突き進む以外、奴らを捕捉出来ん」

利谷は険しい顔を後ろの省二郎に振り向けて言った。

そして、節子の事務所は勿論、運転をしている真田の店であるカサブランカにも、もっといえばバー、クリスタルにも刑事は来ているのだ、と言い

「俺が捕まってみろ、お前だって無事というわけにはいかん。いいか、俺も節子もお前の名前は出さん。がだ、どこにどんな陥穽が待ち構えているか、そこまでは責任が持てん。お前は仮釈の身だぜ。あの現場にいたというだけで、刑務所へ逆戻りだ。私は何もしていません、と言って、通用するか?」

利谷の目は依然として険しい。

「しかし利谷さん。あなたが殴った男、あの男があなたにやられた、と一言いえば、それで終わってしまう訳でしょう。そう考えたら、西岡を追ったところで無意味だと思うが・・・?」

そう省二郎が問うと、利谷は省二郎をチラッと見て、ニヤリと笑った。すると運転している真田が

「その件はもう片付きましたよ」

と、ぼそりと言った。

「そんな変な顔すんなよ。今日昼、お前のマンションに行く前に、予定を変更させて奴の病院へ行って、話をつけて来た。奴だって石黒を同じ目に遇わせている。これで、チャラだ」

「・・・チャラったって、怪我の度合いも違うし、何よりも警察がそれで済ませますか?」

「奴は前科があるが、石黒にも俺にも傷害の前科はない。・・・なに、警察、そんなもんは、お互いが違うと言えば警察もどうしようもあるまい。いずれにしろ、捕まらない内に終わらせるのが最善だ」

利谷はそう言ってから、ここは何処だろうと、真田に訊いた。

時刻は七時を回り、走っている車はトラックが多くなり始めている。外は山間部なのか灯りが見えない。

「三ケ日の辺りでしょう。さっき浜名湖が見えてましたから」

利谷は、そうかという風にうなずき、これからが本番だと言った。

「これからなんだ、本番はー― 今日はこれから白壁が最後に勤めていた中華屋へ行く」

「・・・」

「心配するな、来る途中で連絡はしてある。そして明日中に大阪のヤクザだかチンピラだか知らんが、白壁の女房を犯ったという二人の男に会う。そうすれば・・・」

そうすれば必ず、西岡たちの影が浮かぶはずだと言い

「居場所を突き止めてやる!」

と、決意に近いようなことを言った。そして省二郎にノートを渡し

「今のうちに訊いておこう。大阪の奴らの住所を教えてくれ」

と言った。

省二郎は住所までは判らなかった。そこで村井組という組名と、その組の住所を書いて渡した。

「判った」

と、利谷が言うところを見ると、それで充分なのであろう。

「もう一度、白壁夫婦と奴らとの経緯を詳しく話してくれ」

利谷はそう言って腕を組み、目を瞑った。

省二郎は、明子と、それにまとわり付いて離れなかった洞貝たちの行動を語り、しかし平成九年三月頃から洞貝の行方が判らなくなっている事、そして金森の方は一昨年、金沢刑務所を出所しているらしい事を話した。

利谷は利谷でその話の筋道から、自分が次にとる行動を決めているようであった。

やがて思案がまとまったのか

「急げ!」

と、運転している真田に向かって言った。


伏見にある「金竜」の姫野という親父は、時間帯が忙しい事もあったのか、あるいは古い事なのでもう興味が薄れたのか、夕食をしながらの話に余り乗ってこなかった。

質問には答えるが、おざなりである。

余り重要な話もなさそうでもあり、すぐに別れた。

店を出て、利谷が省二郎に尋ねた。

「有本、お前どうする?」

省二郎は時計を確かめてから、ここで別れましょう、と言った。

「どうするんだ?」

「明日は月曜日です」

「―― だから?」

「会社へ行かなければなりません。人事異動の発表がある」

そう言って微笑むと、利谷は理解し難い生き物でも見るようにして言った。

「お前がそういう考えなら仕方がない。しかし俺はお前のために動いている訳ではないにしろ、結果的にはお前のためになっている事をしている訳だ。それは判ってんだろう?」

「ええ、充分」

「だったら会社へ行ってる暇などなかろう?」

「いいえ、会社は会社、事件は事件です」

「俺たちは今から大阪へ向かうんだぜ。俺たちが必死になっている時に、自分だけ会社だあ?」

「私は茅ヶ崎でこの問題を解決します」

「・・・?」

「―― そういう事です」

「俺はお前が理解できん」

利谷はそう言って顔を左右に振った。

省二郎は追っかけるように

「節子さんに仕事を頼んでも良いですか?」

と、そう言って破顔し、車のところで怪訝そうに立っている利谷に

「お金貸して下さい。持って来なかった」

と言った。


省二郎はそこで利谷たちと別れ、少し考えてから、伏見の地下鉄に向かって歩きながら精一叔父に電話を入れた。長い電話だった。

次に地下鉄の公衆電話のところへ行って電話帳を広げた。

そして波石悟郎の自宅へ電話を入れ、今から行くが会えるかを尋ね、了解をもらって電話を切った。

地下鉄に揺られ、金山駅に向かいながら、利谷の激しい行動力を思った。

思わぬ事で、同じように西岡を追うようになってしまったが、ああいう形で追っかけても無理な気がする。

どこかに人知れぬ彼らだけの情報網があって、それに引っかかる気がするのだ。宮古へ行ったのはいい。しかしそれにしても無防備すぎるのではないか?西岡は宮古という土地の出身者である。利谷は役所にも行ったであろうし、菊池にも会ったという事は、彼の過去に繋がる人たちと会ったはずである。それが、そこの人間が西岡の縁者でないと、何故わかる?

いかなる形で西岡たちに通報するか知れないのだ。

西岡を甘く見てはいけない。

しかも今度は出所して間もない金森に会うと言う。そればかりか利谷の口ぶりでは、それでも西岡たちの影が掴めないなら、その足で岡山の明子の実家まで行くと言う。

―― 危険すぎる

狼の棲む巣穴に、やみ雲に手を入れるべきではない。

省二郎は利谷の出現によって、予期せぬ形で強引に引きずられる自分を感じる。

いたし方のない面もあれ、こうなればゆっくり西岡を追うなどとは言っていられない。

不本意ではあっても不意をつく形で、核心に迫らなければならない。


金山駅で降りて、波石に言われたように歩いていくと、波石悟郎と書かれた大きな門灯のある家があった。

家に中に入る前に、自分の服装を新ためて見てみると、薄茶の半ズボンに赤いTシャツ、それにビーチサンダルを履いている。

あんな場面で、唐突として浚われた格好なので仕方がないと言えばそうなのだが、まだ見たこともない波石悟郎と言う人物は、この姿を見たらどう思うだろう?

―― まあ、そういう事もあるだろう

深呼吸をして、奥へ行こうと一−二歩踏み出すと、顕になった二本の足に草が当たった。

見ると、大きく育った萩の枝が枝垂れていた。


第1章――その3 トンチンカン


「ねえ、ねえ、お味噌汁の具はお豆腐よ」

万里子はそう言って。心配そうな顔を省二郎に向けた。

―― 豆腐の味噌汁が欲しい

省二郎はそう思っている。

窓の向こうにタスマニアの海が広がっていて、波が静かだ。

万里子は急にそわそわ落ち着かない顔をして

「財布がない・・・財布がない」

と、二度ほど呟いた。

そして省二郎を見上げて、何か訴えるような顔をしている。

―― もう良いのに

省二郎はそう思いながら、急に悲しくなった。

「省二郎さん、危ない」

万里子は叫ぶともなくそんな事を言って、省二郎の傍らまで歩いて来た。

ショートカットの髪が、風に吹かれて輝いて見える。

―― 何があぶないんだろう?

しかし万里子は自分が何を言ったか忘れたのか、省二郎の腕を取って頭を肩に押し当ててきた。

万里子の匂いが、身体いっぱいに広がるのを感じる。

この匂いを、自分はずっと待っていたんだ。ずうっと・・・

―― どうして気が付かなかったんだろう?

万里子は省二郎の顔を見上げ

「赤ちゃんが出来たの・・・だけど財布がないわ」

そう言って、悲しそうな顔を見せた。

―― 赤ちゃん? そうだ、お袋に会わなきゃいけない


汗ぐっしょりなって、目が覚めた。

寝苦しかったのだろう、エアコンが切れている。

時計を見ると五時前である。

頭の中に、万里子の声が残っている。

エアコンのスイッチを入れてから冷蔵庫へ行き、缶ビールを取り出して窓辺に行ってカーテンを開けた。

松林を透して、白々と明け行く空の下に、青く広がる海が見える。

「・・・万里子・・・」

声に出して呟いてみた。

五年前の冬、東京拘置所での寒々とした接見室で、最後の面会をした時を思い出す。

「ごめんなさい・・・」

と言って涙をぽろぽろ流して泣いた万里子――。

あれが最後の言葉だった。

どうしてこんな夢を見たのか、省二郎には判っている。

一昨日の早朝に名古屋から横浜に着き、午後からは図書館に行ったりして過ごした。

翌朝会社へ出社すると人事異動の発表があり、夜、星野社長主催の発会式があった。

上場準備室関係者だけのささやかな発会式だったが、その帰途、高科美佐子が二人きりになるのを待っていたかのように省二郎の腕を取り、このまま少し歩きたいと言った。

利谷からは金森などに関するメールが断片的に入っており、省二郎はそれどころではない精神状態で少し戸惑ったが、断るのも可笑しなものなので、宵闇の街の中をそうやって二人、一時間ほど歩いた。

省二郎とて木石ではない。いや、五年前までは女遊びに明け暮れていた省二郎である。久しぶりに女性の髪の匂いをかいで、理性が混乱しそうになった。

十間坂の料理屋から中海岸のマンションまでの、わずか二キロに満たない道のりをぶらぶら歩いた。

別れ際、どちらからともなく唇を合わせた。

先日からどこかに、そうなるような予感があるにはあったのだ。

そういったことが夢の原因であるのだろう。

美佐子と少し距離を置くようにしないといけない。

そうだ、東京のセルリアンタワーの最上階で、ためらいがちに差し出したあの指輪以外、どんな指輪が自分に残っているというのだろう。

省二郎はビールをあおって椅子に座った。

そして遠く広がる海を見ていて、ふと、久しぶりに白壁の事を思った。

白壁が理香と一緒に住み始めても理香を籍に入れる事が出来なかった心情が、今の省二郎には明瞭すぎるほど明瞭な事として受け入れる事が出来る。

理香が押しかけ女房のようにして白壁に接近した時の、白壁の心の陰影が手に取るように判る。

あの頃の自分の、なんと幼なかった事かー―

白壁が何故、化粧品の卸会社をやっていたのか? それは明子を捜すためであったに違いない。理香は白壁が業界紙などに宣伝を出したり、ダイレクトメールを出すのが異常に多い事をぼやいていた。自分も注意をした。しかし、あれは違う。あれは、白壁から明子へのメッセージだったのだ。

俺はここにいるよ、お前は何処にいるんだ、という悲しいメッセージだったのだ・・・

届く当てのない、メッセージだった・・・


時計を見ると六時になっている。ジョギングの時間だ。今日は七月三十日火曜日である。一昨日はあんな情況だったので早朝のジョギングが出来なかった。しかし昨日からは又生活にリズムをつけるためにもジョギングを始めている。一日休んだだけだ。

省二郎が立ち上がってタオルを取りに行こうとすると、携帯のコールが鳴った。こんなに朝早く誰だろうと思うと、利谷である。

「お前、夜はいつも何やってるんだ?」

と、あきれたような利谷の声が響いた。そうか、美佐子と歩いている時などは携帯を切っておいた。

そういえば昨日、日曜日に洞貝の女房とかに会って洞貝の行方不明を確認したと言っていた。そして昨日は金森の女に会うと言っていたが・・・

「金森も殺されてるぜ」

利谷はそう言って、明子の実家の住所を教えろ、と続けた。

省二郎は住所を教えてから、金森の事をもう少し知りたいと言うと、奴の情婦に会ったんだ、と言った。

「フィリピンの女だったがね。その女から確かめたんだ。一昨年の六月にヤクザの抗争があたんだそうだが、その時に二人組みの男にヤサから攫われて以来行方不明だ」

「―― 抗争?」

「ああ、抗争に紛れ込んで西岡と眼鏡がやったに違いない。ヤクザがあんな用意周到な事するか。洞貝と一緒だ。奴ら、復讐の鬼だぜ。義理堅い奴らだ」

「―― 義理堅い?」

「金森も洞貝も白壁の女房を犯った奴らだろう。白壁なんかとっくにあの世だぜ。普通、死んだ人間に義理立てするか?」

と言ってから

「節っちゃんにホテルの調査を頼んだんだって? ――俺にはお前が何をしようとしているのか、さっぱり判らんよ」

と、そんな事を言ってから電話を切った。二十分近く経っていた。

省二郎は時計を見て、ため息をついた。今日は早く出社しなくてはならない事を思うと、この時間では中途半端で今日のジョギングも出来そうもなかった。


会社に着くと八時を回ったところだった。

昨日までの経理一課ではなく、三階に新たに設けられた準備室に行くと、すでに辻課長、いや辻バイスマネージャーが出社していて、省二郎を見るなり

「早いじゃないか」

と言った。

軽く会釈をして、早く起きてしまったから、と当たり障りのない言い方をしたが、本当はシュミレーションとして連結決算短信を配布する場合に備えて、子会社である中国工場とバンコク工場の記載事項にもう一度目を通しておきたかったのである。この二工場は連結決算対象になるので、その辺りの把握が悪いと、第三者割り当ての決定が日程に上った時、前後すると、狂った比率のまま決定することになり兼ねない。

しかし辻バイスマネージャーはそうは捕らえず、

「誰でもこういう責任の重い仕事を与えられると、自然と早く目が覚めてしまうものだなあ」

と、座って書類を広げ、パソコンのスリットにカードを差し入れている省二郎の所に来て言った。そして、今気が付いたとでもいうように続けて言う。

「そういえば有本君、昨夜の社長の話では、君のお父さんは会長の命の恩人なんだって?」

「はあ、いや、どうなんでしょう」

「戦争中の話ではなさそうだし、何だか捕虜になったとか言ってたけど、何があったんだい?」

「―― はあ、私も余り知らないんですが・・・」

省二郎にとっては嫌な話題である。精一叔父からも詳しく聞いたことがないし、省二郎自身、カンボジアの事なんて意識的に尋ねたことはない。

省二郎の曖昧な返答に気が付いていないのか、辻バイスマネージャーが何かを言いかけた時、机の上の電話が鳴った。六番ランプが点滅している。省二郎への直通電話だ。

省二郎が受話器を取り上げると、節子の声が飛び込んで来た。



その日、準備室の仕事開始日は打ち合わせなどの合間を縫って、省二郎の机の上の直通電話が鳴りっぱなしの日だった。

節子からの電話に始まり、精一叔父からの電話が二回、千葉国税局から一回、そして昼近くには成田税務署から三回入った後に、佐倉市の住吉会計事務所の住吉所長から

「恐らく・・・」

と言う電話が入った。

「あなたがお尋ねの人物は、山崎栄次郎君じゃないかな。税務のほうはうちでやっていましたよ。彼の経営していた設計会社が連鎖倒産に巻き込まれてずいぶん借金を抱えたまま倒産しましてね。九十三年でたしね。平成で言えば四年ですか。・・・うちにも相談に来られたが、自己破産を勧めるのが精々でしたな」

聞けば、それに関連して家族が心中事件を起こしたという。

「房江さん、奥さんの事ですが、お子さんを連れてね。まあ、本人だけは助かったんだが・・・」

そして、殺人という事で刑に服したと言う。

「相手が間違っているような気がするんだが・・・」

土曜日の夜、省二郎が名古屋に行った折、精一叔父に依頼した件の結果であった。

省二郎は精一叔父を巻き込むのには抵抗があったのだが、ここまで来ると好き嫌いの問題ではないと思い、国税の方面から山崎を追ったのである。

省二郎は自分が捜し求める眼鏡の男かも知れぬ、その山崎栄次郎の写真があれば送って欲しいと言うと

「確か、蔵王に行ったときの写真が家にあったと思うが・・・」

あれば送っておきましょう、と言った。

省二郎への私用電話ばかり掛かって来るので、何をやっているんだ、というようなみんなの非難の視線を感じていると、昼休みのチャイムが鳴った。そうすると、昼食に行くついでと言う感じで内田悟が省二郎の隣に来て

「有本君、少しは仕事中の私用電話を慎みたまえ。何のために携帯電話が禁止になっているのか、君は判っているのか。常識を弁えたまえ」

と、みんなに聞こえるような声で、ずけりと言った。

「午後からは入江監査法人の方と菱洋証券の方も来られる。朝からの君のような態度では困るよ」

省二郎は、返す言葉がなかった。



昼食を早々に済ませて、いつものように構内グランドの木陰に行き、横になった。

近頃は陽射しが真上に来るようになり、日陰が少ないのでキャッチボールの音もしない。

みんなのように本当は建物の中にいた方が、エアコンが効いていて汗もかかず涼しいのだが、省二郎は昼休みにはいつもここへ来る。

ここに寝転がっている時が、一番心が休まり、思考が進む。

今ごろ利谷と真田は岡山にいるだろう―― 利谷の考え方は、一面正しい。洞貝や金森が西岡を知っている可能性は高いし、明子を捜せば、これもおそらく西岡を知っているであろう。

省二郎は西岡をゆっくり追うという構想は、利谷の出現によってとっくに崩れてしまったと思う。こうなったら、一刻も早く西岡の所在を突き止めなければならない。

そう思って、行動を開始し始めている。節子への依頼もその一環だ。

しかし、利谷の行動は不首尾に終わるであろう。

洞貝が行方不明で、金森までが消えてしまっている、というように、岡山へ行ったところで明子の消息は掴めないであろう。そう、思う。

省二郎は、今朝電話があった節子の事を思う。

「あの親父、不愉快ねえ」

と「すし鉄」の親父のことを言ってから

「あの日の団体客、名古屋から来ていたんですって。言葉遣いから間違いないようね。総勢十八名。後は彼らが泊まっていたホテルを捜せば良いわけね」

と言って、造作もない感じで言っていたが、今ごろ四苦八苦しているだろう。

狛江近辺の宿泊施設だけでも十や二十はある。もしその団体客が、一つの意志の基に操られて行動していたとなれば、少なくとも半径一時間で来れる広域な宿泊施設を捜さなければならない。そうなれば、東名沿いの川崎、横浜と範囲は広がり、捜索箇所は天文学的な数字になるであろう。

―― ポイントがあるはずだ。ポイントが・・・

省二郎は、波石悟郎の事を思い出す。

癖なのか、禿げた額をぴしゃぴしゃやりながら

「そのあとの事といっても、何もないよ。刑事さんが二度来ただけで、奥さんからも連絡はないし・・・」

と、雲を掴むような話をしただけであった。

―― 白壁夫婦は、あれからどうしたろう?

相変わらず、その後に繋がる手掛かりがない。


省二郎がそんな取りとめもない事を考えていると。隣に誰かが座る気配がした。目を開けると、美佐子が省二郎の顔を覗き込むようにしていて

「・・・何を考えていらっしゃるの?」

と言った。

省二郎は昨夜の出来事を思い出して、何となく気恥ずかしい。

真夏の強い陽射しが木の葉の間から洩れて来ていて、美佐子の薄いオフホワイトのブラウスの上に落ちている。

「内田さんの言った事、気にしていらっしゃるんでしょう?」

「・・・そうでもない」

「私、内田さんて苦手だなあ。目下の者に対しては全くの命令口調ですものね」

そう言って芝をむしり、足元へ投げた。

「伯父さまももう少し考えて下されば良いのに・・・女の娘も私一人だし、私、父の会社に行きたくなっちゅうわ」

伯父さま、というのは星野八郎会長の事で、父の会社というのは子会社の星菱工機の事であるが、普段は絶対そういう言葉遣いはしない娘なのに、どういうわけか省二郎と二人の時にはそんな言葉遣いをする。

そういえば、誰かが言っていたが、美佐子はどうして働いているのだろう? 裕福な家庭の子女であるのだ。

―― ・・・?

美佐子が省二郎を見ている。真っ黒な瞳が、何処までも透き通っているような目だ。形のいい目。

―― ・・・?

何かが、胸の扉を叩く。

美佐子は不意に視線をずらし、話題を変えて、週末にパーティーがある、と言った。

「週末にー―?」

「ええ、招待したら来てくださる?」

「僕がー―?」

「誕生日なの」

兄の誕生日だと言って、家で内輪だけのパーティーがあるのだと言った。

「お邪魔でしょう?」

と言うと、友人も来るし、何よりも

「兄のフィアンセが来るから・・・」

と、はなはだ要領を得ない、的外れな言い方をした。

遠く、相模湾上空に積乱雲が張り出していて、真っ青な空に白の濃淡を見せている。こうしてじっとしていても汗ばむのを覚える。今日は土用の丑の日なのだ。

「来てくださる?」

―― ・・・?

先ほどから、胸の奥に何かしこりがある。

省二郎はトンチンカンな事を言った。

「さっき、何を言ったんだっけ?」

「・・・? 私が?」

美佐子が怪訝な表情をする。

「だから、働いているんだよねえ。働いて・・・」

美佐子はますます怪訝な表情をし、その後その表情を曇り気のない笑顔に代えて、くすっと笑った。

「省二郎さんて、不思議な方ね」

長い黒髪が風に揺れている。

省二郎はすっくと立ち上がった。

「昼から休むから、辻さんに伝えておいてー― そうか、忘れてた」

省二郎は、小走りに走り始めた。



第1章――その4 浜松


東経34度39分、北緯133度55分にある街を答えろ、と言われてすぐさま「岡山市!」と手を挙げられる人間は、よほどの変わり者である。

しかしながらその岡山という街自体は瀬戸内の穏やかな陽光に晒された、太陽の落とし児のような街である。

その市外の西部を流れる吉井川は、水量の多い、これまた豊かな川である。

その川を跨いで岡山ブルーハイウエイが走っているが、その西大寺大橋の橋脚の建つ川原の影に一台の車が停まっている。

中を覗くと一人の男が椅子を倒して寝ており、時どきいびきが聞こえる。

川原もこの辺りまで来るとコンクリートで固められている箇所が目立つが、十メートルほど離れたそんな護岸コンクリートの上に、もう一人サングラスを掛けた男が腰を下ろしていた。

川面に波紋が広がっているのは、石でも投げたのであろう。

「ちぇっ」

男は舌打ちをしてサングラスを外した。

利谷である。

七月二十六日の夜から三十日の今日まで、宮古に始まり名古屋、大阪、姫路、倉敷、岡山と、西岡の影を追ったが、それは文字通り影でしかなかった。

未だに現在に繋がる手掛かりは何もない。

節子に十日間で片をつけると言ったが、自信がなくなっている。

あの後も警察が何度かホテルやカサブランカに姿を見せているというし、このままでは指名手配になる可能性も捨て切れない。

自信がぐらつくとともに有本への疑念が湧いてくる。自分がこんなになって西岡を捉えようと活動している時、有本は会社に出社しているというのだ。

―― 奴の話に嘘があるのか?

しかしこの五日間に探し出し、会った人間たちの証言は、有本の話が本当の話である事を証明はしているのだ。

先ほど別れた、典子という明子の妹にしたところで、作り話をしているとは思えない。また、明子の居場所を隠しているとも思えない。

「・・・」

橋脚に西日が当たって長い影を引き、川面には残光が注いで白い光の破片が利谷を包んでいる。

「―― 馬鹿野郎」

と、自嘲気味に呟いて小石を投げる。波紋が広がる。

こうなれば大分にある白壁の実家に行くか、有本が節子に依頼したという寿司屋の団体客でも洗うか、二つに一つである。

時計を見ると、六時前であった。

コンビニを探す途中、ここへ車を停めてから二時間ほどになる。

真田も疲れ切っているのか、車の中で寝たまま起きない。

利谷はもう一度、小さな舌打ちをして車に戻った。

助手席に座ると真田が目を覚まし

「行きますかあ」

と、寝ぼけた声を出した。

「うん、行こう」

車は動き出し、十分もすると車の群がる国道二号線に出た。

「どこへ行きます?」

右折すれば神戸、左折すれば広島を経て下関である。

「・・・大分」

「大分って、あの大分ですか?」

「・・・うん」

「ようし、毒を食らわば何とかだ」

利谷は真田を連れ回している事に対して、申し訳ない、などという感情はない。その代わり、この騒動が一段落し、自分の身の振り方を決める時にはこの男を陽の当たる場所へ連れ出してやろう、そう思っている。

旭川を渡った時、真田が

「電話しましょうか?」

と言ったのは、左手前方にあるバス亭の傍らに電話ボックスを見つけたからであった。

朝から電話ばかりしていて二人とも携帯の電池が切れており、簡易ソケットを買おうとコンビニを探している間に、吉井川の河川敷に紛れ込んでしまった経緯があったため、真田が気を利かしたのだった。

利谷としては何だか疲れてしまって、そんな事はどうでも良い気分になっている。

車を停めて電話を掛けに行っている真田が、手招きで利谷を呼んだ。

「有本さんから電話が入っているそうですよ」

何だろうと思い電話を替わると、いつもながらの落ち着いた高木香保の声がした。

有本さんから電話があって、今日中にもう一度自分の方から連絡をする、携帯の電池が切れているので自分と連絡がつかない時は浜松のコンコルドホテルに来てくれ、という伝言だと言う。

―― あいつもか。しかし何で・・・?

「浜松?」

「ええ、明日の朝十時には来てくれって、そう仰っていましたけど・・・連絡してみて下さい。繋がらないと思いますけど・・・」



浜松という街は、静岡県を静岡市と二分する街である。

経済的には浜松市が名古屋を中心とする東海エリア、静岡市は関東エリアとやはり二つに分かれる。

歴史的には駿府と呼ばれた静岡市に一歩譲るところがあるが、進取の気性やその積極性としては遥かに静岡市を凌駕する。

その浜松のシンボルとも言うべき浜松城、というより曳馬城と言ったほうが納まりが良いが、その北東にコンコルドという十八階建てのホテルが建っており、その一階グリルで、利谷は省二郎と会っていた。

七月三十一日午前十時である。

二人の男は難しそうな顔をしてコーヒーを飲んでいるのだが、もう一人の男、真田は洋ランチのスクランブルエッグをフォークで掬っている。

「それを俺に手伝えってのか?」

と、近頃一段と荒っぽい言葉を吐くようになっている利谷が、無精ひげを生やした顔をのけ反らせるようにして言っているのには、説明が要る。

昨日の昼、省二郎は美佐子と話をしていて、不意に思い当たる事があり、飛ぶようにして名古屋に来た。

忘れていたのは、明子の仕事の事である。それがすっぽり抜けていた。

波寄町に白壁夫婦がいたのは平成八年一月より同年七月に至る半年間であるが、その間白壁は「金龍」という中華料理屋で働いていた。が、明子はどうしていた?

働いていたはずだ。

省二郎はそれに思い当たり、美佐子に二−三日休むと言って飛ぶようにして名古屋に来た。

しかし省二郎の意気込みには我関せずと、波石悟郎はその件は知らぬと言った。省二郎が落胆していると、その脇にいた二十七−八歳の娘が、それなら知っていると言い

「ダイアナ」

という美容院の名を言った。

闇の中に消えて行く、糸の端を掴んだ。

省二郎がその美容院を訪れると、その店の派手な五十年配の女将が、確かに白壁明子は店にいた、と言って

「突然来なくなってね。その後というと・・・十月頃だったか、ご主人さんが来たわよ」

保険証を取りに来たと言う。

「明ちゃんの私物を取りに来たんだけど・・・その中に保険証があるって」

「その折、白壁さんは何か言っていませんでした? 何処にいるとか、何をしているとか?」

「車の運転手していたのじゃないかなあ」

「と、言うと・・・」

明子の給金の未払い金があり、それを渡そうと後ろを追っかけて行くと

「あの人、トラックに乗り込みましたからー―」

「トラック・・・? ナンバーなんか覚えてませんか?」

「そりゃあ気になって見たわよ。浜松ナンバーだった。・・・えっ特徴? 派手な車だったわよ。緑色の車体に赤い横線が二本走ってるの」

省二郎はようやくにして西岡たちに近づく第一歩を踏み出したのだった。



それだけの特徴があるなら、すぐに判るだろう、と言う利谷の意見に対して省二郎は言う。

「浜松ナンバーといっても、東は御前崎市から北は榛原郡川根本町に至る広大な面積です。しかも保険証を取りに来たというのなら、国保と想像できます。つまり、社会保険のない小さな会社です。そう考えれば、簡単には見付けられない事が判るでしょう」

更に、と省二郎は続ける。

「運送会社かどうか、それは本当のところ判りません。どこかの会社の社用車かも知れないわけですから。ただ単にトラックというだけです。それに、もう十年も前の事ですよ」

「・・・」

利谷はその車の所属した会社を捜す事の困難さと同時に、それが判明した時の重大な意味が、省二郎と話をしている間に徐々に判ってきた。

別に省二郎の熱意が伝染した訳でもなかったが、そこの会社にこそ、おそらくは西岡と山崎と白壁の「交差の点」があるのだ。

目の前に座って思慮深く話す有本省二郎に、自分の行動に行き詰まりを感じていた利谷は、態度とは裏腹に言い知れぬ信頼を覚えている。

眼鏡の男を「山崎栄次郎」と特定した手並みといい、自分とは全くタイプの違う「男」を感じていた。

そこで省二郎の提案による役割分担とは、確保してあるホテルの一室から、一人が電話によって運送会社等に該当する車の有無について問い合わせをする。

残る二人は運送会社やタクシーなど、ドライバーを職とする人たちに直接話を聞く。というものだった。

「よし、それで行こう」

という事になり、省二郎が残って電話、利谷と真田組が聞き込み、という具合に別れたのであった。

 

が、しかし、戦果は何もなかった。

夜九時近く省二郎が疲れ切ってベッドに横になっていると、利谷たちが帰って来て省二郎と目を合わせ、お互い、首を左右に振った。

「判るもんか。盲滅法走り回ったて仕方ねえや」

と、利谷はベッドに腰を下ろした。

真田は椅子に座って、サンドイッチなんかの食べ残しが散らかるテーブルに足を乗せ

「こんなやり方じゃあ駄目だ。もう少しこう目標がはっきりしないとねえ」

と言ってぐったりしている。

この男はどうした訳か、定まりのない生活を一週間も続けているのに、トレードマークにしている口ひげの手入れが行き届いている。

省二郎が冷蔵庫から缶ビールを取り出し、二人に渡して

「まいったなあ」

と、アームバンドがしてある腕で頭を抱える。

何か良い方法なり、地域を特定するような目安はないものだろうか?

利谷が缶ビールを一息で飲み干して、代わりの缶ビールを冷蔵庫から取り出しながら言った。

「節子がさ、判らねえってよ。彼女、調査員には任せられないって自分で走り回っているらしいけど、ホテルだけでも何百ってあるらしいぜ」

そうだろうなあ、と思いながら省二郎は聞いている。

「俺たちと一緒だ。取り止めがねえんだ。あっちは五年前、こっちは十年前だ!」

どうしたら良いのか、省二郎にも判らない。

平ボディーのトラックー― 緑の車体に二本の赤い帯――

「・・・」

省二郎は窓辺に立って外を見た。曳馬城がライトアップされて森の中に鎮まっている。

思い空気が室内を満たしている。誰も何も言わない。

しばらくそうしていると真田が溜息をつき

「明日は何処を回ろうかなあ」

と言って缶ビールと残飯を冷蔵庫の上に置き、テーブルに地図を広げた。

「何処を回ってきたんです?」

省二郎は何気なく地図を覗き込んだ。

静岡県全図がそこに示されている。

「今日はこことここ」

と真田が言い、指でさした。

「・・・!」

省二郎は雷に打たれたように、違う、と叫んだ。

「違う! ここは、浜松だ!」

もう一度、叫んだ。

「浜松だ!」



翌日は朝から三人が地域の分担を決め、電話を掛け続けた。

闇雲に電話をしているのではない。

そんな事をしたら浜松ナンバーを持つ運送業者だけで四百以上ある。それを運送業に限定しないとなれば何万、何十万になる。そんな無茶な事で緑地に赤の二本線などと間の抜けたことを言っても、所詮無理がある。

しかし昨夜、真田の広げた地図を見て、全ての謎、と言えば大げさだが、ある事柄が頭を掠めた。

試しに、ここに浜松ナンバーを管理する陸運支局浜松支所の領域である静岡西部の地図を広げてみよう。

湖西、浜松、磐田、袋井、掛川、御前崎と、様ざまな市町村があると思えば、浜名湖があり天竜川がある。

しかし、いかなる地図であれその下辺は海になっている。

―― 遠州灘

しかも、その海浜は一つの砂丘としては鳥取砂丘に次ぐ規模を誇る中田島砂丘に始まり、そこから御前崎までの四十数キロ余にわたって、断続的に砂丘が連なる。その中でも御前崎より西方二十数キロの浜岡砂丘を中心とした地域は南遠大砂丘と総称される日本最大の砂丘地帯なのだ。

「緑化技術は日本が一番進んでいる」

あの西岡の言葉は、この大砂丘地帯を背景にした言葉なのではないか。

そう、ここは浜松である。浜辺と松の土地、遠州の中心地なのだ。

そこで国道百五十号線沿いの市町村に的を絞り、三人で地域を分担して電話を掛けている。

昼食をして三十分もした時

「判ったぜ」

と言って、利谷が省二郎の部屋に入って来た。

「三笠梱包運輸株式会社」

現住所、御前崎市浜岡××××

旧住所、小笠郡浜岡町塩原新田××××

メモ用紙に書かれたその会社がそうだという。

「詳しい話は車の中だ」

と言ってサングラスを掛け、後を追うようにして入って来た真田の肩をポンと叩いた。


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