タイムマシン
男はタイムマシンを作りたかった。確かにやり直したい過去はあるし、うまいこと当てて金持ちになりたいという思いも無いとは言いきれなかった。
しかし彼は思うのだ。科学は進歩しているし、それなりの資金さえあればいずれ出来上がってしまう。一科学者として他人が作り上げるのを指を加えてみているよりは自分が作ってみたいのだ。
男は勤めている大学にかけあった。
「どうしても私はタイムマシンを作り上げたいのです」
「しかしね、これは簡単に作ってはいけないものなのだよ。技術の問題ではない。倫理の問題である。ただの大学が作り上げていいものだと思うかい?資金提供した会社にどうリターンしろと?しなかったとしても世間はそういう目で見るだろう。我々の力で作り上げていいものではない」
大学側は科学的な理由ではなく倫理の問題とした。男は不満であった。大学が作れないのであれば、資金提供元が問題になるのであれば、そんな倫理を気にしない企業に入って作ってしまえばいいと考えた。
「と、いうわけでしてこちらでタイムマシンを作らせていただけないかと思いやってまいりました」
「君ね、いくらウチがあまり世間に認識されていないからといって、いや、語弊があるからはっきり言おう。ウチの会社が後暗い会社であるとしてもだ。そんなもの作ったら社内では収まらないだろう。国が出てくるのだよ。最近の特許品はどこもかしこも国が口を出してくる。ただでさえ健全じゃないところは見張られているのだ。そうすると資金繰りに問題が発生しやすい。だからこそそんな誰もが知っているでかいモノには手を出せないのだよ」
断られた男は他に行く先が思いつかなかったので提案をすることにした。
「では、国が文句を言わなければいいのですね?先に国に話をつけてきたとしたらここでやってくれるのですね?」
「ああ、それなら大歓迎さ」
企業側はきっと話なんてつかないだろうと適当にあしらった。男は言質はとれたのだからと国と話を付けに行くことにした。まだ技術があるわけではないので特許局に行くわけにもいかない。その代わり国で技術分野を援助している部署がある。それはとても大きな組織だったのでかなりの時間待たされた。
「だいぶ待たされました。ようやく話ができますね。単刀直入に言います。私はタイムマシンを作りたい。けれども勤めている大学では倫理の問題で駄目でした。ひとつやってもいいといってくれる企業を見つけましたが、ここは先に国と話をつけてくることを条件に出しました。私はどうしてもこの手で作り上げたい。だから作る許可を、作るために出てくる問題を解決していただきたいのです」
「落ち着いてください。これまでタイムマシンを作りたいという人は星の数ほどやってきました。けれどね、我々はそのいずれも許可を出していない。何故だかおわかりになりますか?」
「倫理ですか?それなら大学で散々言われてきましたよ」
「いいえ、倫理だけのものではないのです。実のところタイムマシンをはじめ実現しそうで問題の生じそうなものは全て国連で禁じているのですよ」
「今度は国連と話しに行けばいいのですね!!」
「いえ、国連に行ってもあしらわれますよ。では、何故国連が禁止していることを皆さんがご存じないのかにはご興味ありませんか?」
男はひたすらタイムマシンを作ることだけを考えてきた。彼にとって一番の問題は資金だけであり、その資金を融通してもらう為に国に来て、更にその上が禁止している。次から次へと問題が発生しているだけで根本から離れていく原因については情熱を傾けるほど興味をそそられはしなかった。で、あるからして国連が禁止している理由についてはどうせ倫理だろうと興味をもてなかった。
「また倫理倫理、いや、そのまた上の上位存在がでてくるのか? いつまでたっても解決しやしない。俺はただ作りたいだけなのに盥回しにされるばかりだ!」
「どうぞ落ち着いてください。国連で禁止したわけを、それが回りにいえないわけを聞いて帰ってください。きっとご納得していただけますよ。我が国は説明して帰っていただく方針なのです」
帰る前提でいわれた言葉であったが、きっと納得するといわれたので男は聞く気にはなった。もっとも、そんなもの反論してしまおうという考えも態度からにじみ出ていたのだが。
「ある時、国連に直談判にきた男がいたのです」
国の役人の話はこうだった。ある時国連にやってきた男は自分を未来人だと名乗った。相手にしなかったが見たことも無い武器を取り出しそれを地面に放った。それはとてつもない破壊力で彼の話を聞かないわけにはいかなくなったのだ。そしてこれは新技術ではない。タイムマシンで未来から持ってきた量産品であるとも語った。
彼の目的は技術の開発を阻止させることであった。彼がいた未来では大量の兵器ができていたらしい。それはタイムマシンができたことから発生する。ある男がタイムマシンを作成した。そのタイムマシンは色々な学者や権力者の欲を満たす為に争奪戦になる。作成者はその争奪戦において真っ先に殺された。そしてタイムマシンを持つことは命を狙われる事を意味するようになった。やがて、所有者は身を守るために未来から兵器とその技術を持ちこむ。どこから漏れるかわからないのが技術である。それは爆発的に世界中に広がった。はたから見れば金持ちから金持ちが何かを奪い合う為に起きていることではあった。未来人を自称する者のいた未来ではその奪い合いで世界は滅茶苦茶だという。
「ということでタイムマシンならびに、争いで使われたもの、また争いに発生しそうなものをリストアップして禁じたのです。こんな話信じにくいでしょうし、仮に信じたものが出てきたらその武器を欲しがって作るなんてこともやらかしかねない。そして作成した者は真っ先に殺される。あなたは科学者でしょう?たったひとつタイムマシンを作り上げるより、生きてさえいればまだ幾つものものにたずさわれる。命を大切にしていただきたいのです。世界も、国も、個人もです」
大概の科学者はこの話を聞いて、丸々信じたわけでなくとも、さもありなんと帰っていた。役人はこの男にもそれを期待していた。
しかし、この科学者は元々の性格がそうなのか、ここまで盥回しにされたからなのか素直に帰りはしなかった。
「では質問です。その男はどこからきましたか?」
「それは未来から……」
「ということはですね、幾ら国連が禁じても未来にはタイムマシンがあってそれでこちらにきているのですよね? 私もタイムマシンを作ろうと思うに当たり調べましたよ。タイムパラドックス、おわかりになりますか?」
「矛盾ですね。確かに国連職員の記憶にはあの男が『タイムマシン』にのって未来からきている。禁じても過去にあの男がきたということは未来は変わっていないとおっしゃるのですね」
「ええ、ですからね、未来にはどうしても『タイムマシン』が存在するのですよ。そこでもう一つ質問です。その男はどこの誰が製作した言いましたか?」
「誰とも……」
「誰が作るのかわかっていれば見張ればいい。だけれどもその名前を出さなかった。いや、出せなかったのでしょう。さっきの『タイムパラドックス』です。きっと言ったのに覚えられないのか、はたまた言えなかったのかですよ。矛盾が生じないように構成されていると考えます。長年のタイムパラドックスの解消方法が解明されてすっきりしました。ではここでもう一言言わせていただきます。誰が作ってもおかしくない。そのことに気付いた者の中で製作に入るであろう国はありませんでしたか?」
役人は考えた。作れば富と権力と兵器が手に入る。もれなく争いがついてはくるが誰であってもそれになれる状況だ。好戦的な国の国旗が次々と脳内に上った。
「少し考えさせてください」
科学者である男は国の援助を得た。そしてタイムマシンを製作することができた。同じことを考えるものに対して彼は「後からタイムマシンで幾らでもいじれるのだ。完成するまで気にせず消してしまえ」と国にライバルの探索と掃除を頼んだ。
完成したタイムマシンはすぐに稼動させられた。
「まず武器を調達してきます。そしてその足で過去の国連に行ってきますね」
彼は過去人、また未来人としての時間旅行へと旅立った。




