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キスしてもいい?

ちょっとだけ思い切った行動をするタム。ノキの意外な側面を見ます。

挿絵(By みてみん)




ホント、ツイてない。



ワタシはただでさえイライラしてたのに、学校の帰り、イキナリ後ろから自転車に激突されてしまった。アタシは転倒。ヒザはすりむくは、捻挫はするわ…。


なのにあの自転車のおばさんときたら、ごめんなさーいとだけ言って、サッサと立ち去ってしまった!



なんてこった!なんてヤツだ!



でもって、ワタシは足を引きずりながら、とぼとぼ河原を歩いてたワケだ。痛いし、辛いし、切ないし。



歩くの辛い。歩くのイヤ。



そこにノキが通りかかってくれたんだ。自転車で。たまたまなの?どっちなの?



どっちでもいいや。涙出そう。今回ばかりは。



「ヒザ蹴りでもしたの?」とノキ。



いつものバカっぽい笑顔。バカっぽい言葉。だけど、ノキの顔見たら、なんだか泣いてしまった。涙が出てしまった。



「泣くな、泣くな。小学生かおまえは?」とノキ。



ヨシヨシって感じで頭をなでてくれてる。



今回ばっかりはノキの温かい手が、ちょっとだけ嬉しい。



「いいから乗んなっ。いつものリムジンシートにw」とからかうようにノキ。



ぼろぼろこぼれる。涙が止まらない。



自転車の後ろに乗ってても、涙は止まらなかった。今日は風景なんて見れない。毎日歩いてる川辺。大好きな場所。だけど今日だけは全部沈んでる。ぼやけて見えない。何も見えない。


そんな中、ノキの体温だけがワタシに優しかった。ノキの背中。それだけがワタシの味方だった。心をつなぎとめてくれる唯一の存在。それがノキの背中。



いつもの背中なのにね。見慣れているのにね。



「タム泣きすぎw だいじょうぶ!家まですぐ送ってやっから!」とノキ、いつもの口調。





違うんだ。





今日すごくイヤな事があった。


学校でね、みんなで雑誌を読み回してたのね。それをたまたま自分が読んでる時に見つかってしまった。ワタシは怒られた。ワタシだけが怒られた。みんなも読んでたのに。


その時先生が、「他にも読んでたヤツはいるか?」って言った時、誰も手を挙げなくて。



誰一人として手を挙げなかったんだだよね。



ワタシが辛かったのはそっち。怒られるのなんてどうでもいい。ただ、みんなのワタシへの態度がすごく悲しかった。すごく辛かった。




お互い目配せしながらにやにや笑ってる子もいた。




先生が来ると分かって、ワタシに本を渡したのかな?そんな事まで考えてしまう。



そんな時にコレ。



ノキの顔見たら一瞬で崩れちゃったんだ。安心しちゃったのかな?絶対泣かないって決めてたのに。泣いたら負けだって思ってたのに。だけどノキの顔がさ、あんまりにもいつも通りだったら、ワタシの心は崩れてしまったんだ。




大丈夫だよ…




ノキのバカ面が、今日はそう見えた。見えてしまった。どうかしてるよワタシ?ノキだよノキ!いつものノキのなのに。変わらないノキなのに。



家についたら鍵を落としてる事に気づいた。ホント最悪。ワタシはまた泣いてしまった。今日はもうダメ。最悪。けど、その時ノキは言ったんだ。「ウチに来いよ。消毒液ぐらいあるぜ」って。



ワタシはノキの家に行く事にした。



ノキの家は近い。歩いてすぐそこ。断る理由も無いし、このまま家の前で待つのもイヤだし。



ノキは両親が共働きなので、家には誰もいない。



それはワタシも同じだった。



だから小さい頃、そういう子供同士よく遊んだ。



お互い近所って事で。



だからノキの部屋に行くのは初めてじゃない。ただ、それはあくまで "子供の頃" の話であって…。


あの頃ノキは別に特別な存在ではなかったし、ノキもワタシが特別な存在でもなかった。それは今でも同じなんだけどね。



久しぶりに見るノキの部屋。



つか、におい違わないか?ノキの部屋、こんなにおいだっけ???



最期にこの部屋に来たのはいつだろう?憶えてないなぁ…。小学校の頃であることは確かなんだけど…。



あの頃ワタシは、ノキも自分もも同じ人間だと思ってた。



もちろん同じ人間なんだけど。



だけど "ちょっとだけ違う人間だ" って事が、最近なんだか分かるようになってきた。男の人と、女の子。男子と女子。同じ空気吸って、同じ言葉喋って、同じように泣いて笑って、落ち込んで。



だけど、ちょっとだけ違う。何か違うんだ。



違う理由は、「ひと組になった時初めて完成するように神様が作ったからサ」と誰かが言ってたように思うのだが、どーだか。それにしてもくせーセリフ。



ノキの部屋は思ったより綺麗。本が多い。意外。



漫画も多いけど、本も多かった。



「本が多いだろ。意外?」



とノキに声かけられた時、心臓がトクンと鳴った。自分の状況に改めて気づいたんだ。




ワタシは今、男の人と二人っきりでいる。




あんまり深く考えてなかった。ノキちゃんタムちゃんじゃない。二人とも大人なんだ。



今こうして同じ部屋にいる。



誰もいない部屋。ふたりっきりの部屋。



意識しないようにすればする程、心臓の打つ波が身体全体に響き渡るのが分かる。



その音がノキの耳に届くんじゃないかと不安になる。大丈夫、聞こえるハズが無い。聞こえてたまるか!



「本はサ、親父が強引にくれるんだよね。あんま読んでないけど。」



とノキは笑った。ノキの笑顔みて、ちょっとだけ気持ちがラクになった。そうなんだ、意識しなくてもいいんだ。



ノキだよ、ノキ。いつものバカノキ。緊張なんてしなくていいんだ。いつものタムでいいんだ。



「ま、座って。」と言って、ノキは救急箱を持ってきた。ノキがワタシを座らせようとした場所はベッド。そこに腰掛けろって。




ベッド?????????




狭いからベッドぐらいしか座る場所ねーってのは分かるが、なんでコイツのベッドの上に乗んなきゃなんない!




「ワタシ椅子がいい!机の椅子がいい!」とムキになって言ってしまった。




ノキは不思議そーな顔して、何だか状況を理解してないよーだった。




ワタシ、何ムキになってんだ…??別に腰掛けるだけだったら、ベッドだろーが椅子だろーが、同じじゃないか?



同じなのかな?違うのかな?



どっちだとしても、ワタシがちょっと意識してしまってる事実にノキに気づかれたんじゃないかと思うと、途端に顔が熱くなるのが分かった。たぶん赤い。止まらない。表情もヘンかもしれない。ノキの顔が見れない。



「ま、どっちでもいいけどw」



といつものノキ。いつものノキだ。



なんだかワタシ、バカみたいだ。そうなんだ、いつものノキなんだ。意識なんてしなくてもいいんだ。幼なじみのノキちゃんタムちゃんが同じ部屋にいるだけなんだ。


ノキは床にヒザをつき、消毒液とコットンを取り出して、手際よくワタシの怪我したヒザを消毒してくれた。



…しみる。。



イタイや…。



「しみる?」とノキは聞いた。



「ううん、平気だよ。。」とワタシは答える。



…なんか、口調がいつもと違わないか…??なんかワタシ、女の子っぽい口調になってないか…???



ところがノキ、目線を追うとどーもヘン!不自然な場所を見てる!スカートん中見ようとしてないか!?!? 顔の位置だけは同じなのに、目線が妙に不自然!明らかに不自然!



「見てんじゃねぇよバカ!」



一気に男戻りするワタシ。「見てねぇ見てねぇ!つか、見えちゃったんだよ!」とノキ。



見たのか!見やがったのか!



「金払えバカ!オマエ最悪だ!」ワタシはまた泣きそうになった。



「いや、成長の度合いを見ようと思ってサ!ほらほらタムのパンツなんて数年ぶりだからw」



…ノキ、相変わらず。。なんだか泣くのがバカらしくなってきた。




「もういい!自分でやる!」




ワタシはノキから消毒液のしみこんだコットンをふんだくって、自分でトントンヒザを消毒し始めた。





…ん。。何この沈黙…??





ノキ、まだ床にヒザついたままじゃないか…





「オマエ、また見ようとしてるだろ…??」ワタシは訝しげに言った。




「見てない!絶対に見てない!今回は見えてない!」とノキ。じゃ前回は見えてたのか!あああああっ!このバカむっっかつくーっ!!!!!!




ワタシは椅子を回して、ノキとは逆方向を向いた。イタイ…。やっぱ染みるなぁ…。




しばらくの沈黙。なんか二人でいて何も話さないのってヘン。




その時 「毛とか生えてきた?」 とノキ。カラッと。




は???????




死ねバカ!ホント死ねバカ!!! つか、殺したい!本気で殺したい!!!




「毛なんて小六ぐらいで生えるモンなんだよ!とっくに生えてるんだよ!」




イカン!ワタシ何、ワケの分からない事口走ってんだ!なんでバカノキなんかに自分の発毛度合いを説明してんだ!!!!




ノキ大笑いしてる!腹かかえて大笑いしてる!




「いやー、タムも大人んなったなぁ!父さん、嬉しいや!」とノキ。



ワタシは今までにないぐらい顔が熱くなってくるのが分かった!きっと赤い!たぶん赤い!絶対に赤い!




「死ね!オマエ死ね!本当に死ね!」とワタシ。




一気に冷静になったよ!




このバカ!一瞬でもノキにドキドキしちゃったワタシがほっっっとバカだった!緊張しちゃったワタシが大バカだったよ!!!!



そもそもノキになんてドキドキしてない!してるハズがない!初めて男の人の部屋に一人で行ったモンだから、ちょっと緊張してただけ!そうなんだ!絶対そうなんだ!



バカノキだよ、バカノキ!バカなんだからコイツ!!!!




「あ、タム、いーもん見せてやろっか?」と、ノキはゴソゴソと何か持ち出した。なんかニヤニヤ笑ってる。



どーせエロ本とかだろ?コイツはそーいうヤツなんだ。ワタシを困らせて喜ぼうとしてんだ!



「いい!見たくない!見たくなんかない!!!見せたら首の骨折る!」ワタシは言った。



ノキ、本当にガキ!救いようのない程ガキ!どうしょもなくガキ!



止めるワタシをまるで気にせず、ノキは一枚の写真を見せた。







あ…、ワタシの写真だ…。






「良く撮れてるだろ。」とノキ。体育祭の時の写真だ。アルバムの中で一枚だけ、大きく引き伸ばされた写真。A4ノートぐらいのサイズに引き伸ばされた写真だ。


組体操の時の写真。みんなで難易度の高い『やぐら』(人間を何段にも重ねて、塔のようなものを作る組体操)を成功させて喜んでる時のワタシだ。



一番上に立って喜んでる表情のワタシ。



自分、こんな笑顔してたんだ…。知らなかった。。


写真はワタシの嬉しそうな表情をきちんと捕らえていた。ワタシは体が小さいから、いつも必ず上に立たされる。アレ本当は、イヤでイヤで…。恐いからね、アレw



だけど、成功した時は、素直に嬉しかったな…。それだけは覚えている。



「見よう見まねでね。機材は親父から借りれるし。現像もタダだしねw」とノキ。



そうだ、ノキの父親ってカメラマンなんだ。プロの。



そういえばノキ、父親のカメラを持って、みんなをいろいろ撮りまくってたっけ。ワタシも撮ってたんだ。撮ってくれてたんだ。



写真の事はよく分からないけど、素直にいい写真だと思う。



ノキは他の写真も見せてくれた。アルバムの写真だ。どれもこれも素晴らしく撮れてて、その時の空気、雰囲気、躍動感を見事に捉えていた。その時の空気、音の手触りなどがそのまま伝わってきそうな感じとゆーか。



父親のカメラを使いこなすノキ。少しだけ凄いと思った。



そして嬉しかった。



少しだけだけど。





「エロ系もあるけど見る?」とノキ。





いい!死んでも見たくない!




「見せたら殺す!本気で殺す!絶対に殺す!!!」




…とワタシ。ノキは、ノキだ。やっぱりノキだ。どこまで行ってもノキはノキだ。





「じゃ探しに行こうか?」とノキ。





「探すって何を?」とワタシ。




「鍵だよ、鍵。鍵無くしちゃったんだろ?二人で探せばたぶん見つかるよ」とノキ。そーだ、すっかり忘れてた。ワタシは鍵を無くしてたんだ。




ノキはふたたび学生服に袖を通して、ドアを開けようとした時、




ワタシは思わず言ってしまった。







「キスしてもいい?」






自分でも驚いた。何言ってるんだろうワタシって。正気なのワタシ?本気なのワタシ?


ノキは一瞬、驚いた表情を見せた。今日初めて見せる表情。ワタシはドキドキだったのに。ノキはあまりにもいつも通りで。



「ばーか、ほっぺにだよ」とワタシが言ったら、ノキはちょっとだけ安心したような表情を見せた。







ワタシはほっぺにキスした。






一瞬だけだけど。






「今日はありがとね」とワタシ。






不思議だ。なんか気持ちがすごく落ち着く。自分からキスするのなんて初めて。なのにすごく落ち着いてるんだ。生まれて初めてなのに。



ごめんね、今のワタシに出来る事は、これが限界。これ以上は無理。たぶん無理。ワタシも子供だな。ノキと同じぐらいに。





「じゃ鍵探しに行こうか」とノキ。





「うん」





ワタシは答えて、二人でドアを閉めた。





今はもうノキの顔を正面から見れるような気がする。





たぶんね。






(飼育小屋とおひさま編に続きます!)

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