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バーカ!

挿絵(By みてみん)







すっかり忘れてた。。。







この時、今日初めてノキの顔をちゃんと見た。正面から見た。






確かに左の口元、何かを強く打ちつけたような傷跡がある。たぶん殴られた傷跡。内出血のような感じというか、多少出血し、乾いた血液がかさぶたのように茶黒く被さっていた。笑い続けてるノキ。ただ、口元には、明らかに痛みを感じさせる痕跡が、明確に顔を覗かせていた。陽気に笑うノキの今の姿と、相反する悲暗さがそこに存在していた。


冷静に考えて、ちょっと心配になった。確かタバコだ。タバコを吸ってノキは先生の殴られたらしいんだ。それがワタシにはちょっと意外だった。ノキはタバコだけは吸わなかった筈。いろいろやりはするけど、タバコだけは吸ってなかった筈。


仮に吸うとしても、学校でってのがノキらしくないと思った。ノキがわざわざ学校でそんな事するとは思えない。確かにノキはアホな事たくさんするけど、それは笑えるレベルの事限定であって、影で隠れてタバコ吸うってのがノキらしくないと思った。コイツの唯一の長所は裏表のないところだ。そこ以外何も見当たらないが、それだけが唯一の長所だ。それを取ったら、本当にコイツは単なるロクデナシになる。現在既に限りなくロクデナシだが、その長所を取り除いてしまうと、限りなくどうしょうもない本当のロクデナシになる。動物ギリギリのレベルだ。




「あ、あれ吸ったの実はオレじゃないから」と、ノキ、サラリと。




へ?




…やっぱそうなのか。。。ノキはさらっと普通に答えた。当たり前の事のように。ワタシはその時、ちょっとだけほっとしてしまった。ノキがワタシの知ってるノキの範囲内にいる事に、なんだか安心したのかもしれない。




「じゃ、何で殴られたんだよ?」とワタシ。




ノキは説明を続けた。まず、容疑者(?)が三人呼び出された。その中の一人がノキ。でもって自白を強要された。「誰が吸ったんだ!」と。トイレの中にある吸殻が見つかって、それで "吸いそうなヤツ" がピックアップされ、そのメンバーの一人が自分だったと。



凄いよね、教師って。状況証拠ですらちゃんと揃ってないのに、逮捕までしちゃうなんて。



まずは全員正座させられて、この中の一人が白状するまで、家に帰さないと言われたと。



メチャクチャな話だ。だって、この中の二人は無罪なワケだし。ま、三人一緒に吸ってたって可能性もあるにはあるんだろうけど。



「この中の一人が吸ってたってのはオレも分かってたんだけどね」とノキ。



「なんかそいつ何も言わないから、えーい、オレが吸ったって言っちゃえ!って思って!」とノキ。




…つまり、ノキはそいつをかばったって事だ。




「正座で足痛かったからさ。早く終わらせようと思ってw」とノキ。そんな筈は無い。殴られた頬の方が痛い筈だ。


ワタシはその白状しなかったヤツに腹が立った。人間として失格だ。そいつは目の前でノキが殴られるの見て、なんとも思わなかったのだろうか。何も感じなかったのだろうか。


よかった、オレが殴られなくてなんて思っていたのだろうか。



ワタシは正義感からなのか、狭義心からか、そいつの名前を知りたくなった。聞きたくなった。男として最悪だ。人間として最低だ。



「忘れちゃったw」とノキ。



ニコニコ笑って、どーでもいいじゃんって風で。ノキの口元をもう一度見つめる。痛々しく口元で腫れるその傷口を、ワタシは複雑な心境で見つめた。


その口元は楽しそうに笑っていた。




バカだなぁ、こいつ。。。




本当にバカだよ。。。。





その時、図書館まで呼びに来た、ノキの部活仲間から声がかかる。「ノキーっ!そろそろ顧問来るぞーっ!」「今行くーっ!」とノキ。



「じゃ、オレそろそろ部活行くわっ!」とノキ。





「えーと、タムさ、」とノキ。「ここにキスしてよ」ちょんちょん、傷口を指差す。





は?





ノキが言うには「傷はキスしてくれると治りが早い」との事。アホか。ニタニタしながら。



「マキロンでも塗っとけ!」とワタシ。



「あ、オレ振られっぱなしーw」とノキ。そーだよ。当たり前じゃん。



「じゃねーっ!」と言ってノキは席を立った。



トトトトトッと、耳を澄まして辛うじて聞こえる程度の軽やかな足音を残し、ノキは部活へと向かった。ワタシはその後姿を目で追わず、教科書へと視線を落とした。足音でだけ、ノキの後ろ姿を感じていた。



ノキのいない静寂。



瞬間、すごく取り残されたような感覚へと、ワタシを落とし込んで行った。図書館の静寂が今は孤独な穴のように感じる。ノートや教科書が意味を成さない何かのように。空虚で形なき単なる物体のように。それでもワタシはそれらに目を落とす。勉強しないと。


ノキがいる時、ノキが消えた時、形は何にせよ、ノキが居なくなった後、ワタシの中にある何かが抜け落ちてしまう事は事実だ。一瞬の欠落。深く重い欠落。その欠落感の意味は、ワタシには分からない。少なくとも、この時のワタシには分からなかった。


図書館のドアが閉まる直前、そのドアの隙をすり抜けるように、ノキと仲間との会話が漏れて来るのが聞こえた。「彼女?」


ははっ!とノキ。「そんなんじゃねぇってw」






…だよね。





んなワケねーよな。





バーカ。





バーカ。






(キスしてもいい?に続きます!)

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