ゆるか☆スピードスター その⑤
小さいちょっとした冒険。。。のハズが、全く違う方向に話は展開します!
街の風景が変わる。埋立地のようだ。工事中。道が広い。そして車が少ない。かわりにスピード重視な感じの車やらバイクやら、いわゆる "本気系の方々" が増え始めてきた。
「あれ、ゆるか?なんかひさびさっ??」と、ワタシ達のバイクに二台ほど別のバイクが近づいてきた。いわゆる族系ではない。スピード系な方々。
「なんか走りたくなってサ♪」と、ゆるか先生。なんか知り合いっぽい。
「あれれ教え子?」と、その中のひとりがワタシのことを見つめる。
つか、ふとももじろじろ見てんじゃねーよっ!
「制服でバイクなんて不っ良ーっ!」とその中のひとりがからかう。いやいやいやいや、ワタシは先生にそそのかされただけだから!!!!
ぐわん!
ワタシ達の横をものすごいスピードで走り抜ける一台が居た。そのあとに続いて、一台、二台。。。合計で五台ぐらいが通り抜けた。
「よそもん?」と、ゆるか先生。
「ん、最近やってきた連中」と、隣にいるバイクの人。
その五台は自分達のスピードを見せつけるように、わざと他のバイクをあおるような感じで、走り抜けていた。
今になって思えばこの場所、そう、開発途中段階の幕張新都心周辺だった。この頃はまだ道路が完全に開通してなくて、走り屋達のたまり場みたいになってた。バイクブームがまだ残ってたあの頃。スピードを求める若者が大挙して訪れていた頃でもあった。
当然、死者とかも出たのだが。その後スピード系バイクの人気は急速に衰え、現在に至ると。
「ちょいっと教育してやらんとなー」と、ぼそっとゆるか先生が言う。
へ?何するんスか先生?
ぐわわわあああ!スピードが上がる。そしてさっきの連中の横に付ける。
一斉に声が上がる。
「お!制服!」「中学生!?!?」「やらせて!5000円払うから!」と、うひゃうひゃ言いたい放題。完全なめられてる。
とりあえずワタシはさっきさりげなく、スカートの裾をふとももの間に挟んで、ぱんつだけは見えないよーにしているのだが。
「ワタシと勝負しない?負けたらやらせてあげるよっ♪」と、先生。なんかいつもと違う、わざとらしい声で!
「まじで!」とわかりやすく反応するヤツラ。
でもって、まぁ、このガラの悪いヤツラと、ゆるか先生は勝負することになったのですが。。。
って、先生!?!?
なんでワタシも後ろに乗るんですかっ!!!!!!!!!!!
「だいじょうぶ!ハンデ!ハンデ!」と、先生。
「負けたらふたりまとめてでOK??」と、ガラの悪い彼ら。
「もちろん♪」と、先生。
まわりは口々に、しかし半笑いしながら、「ってか、ゆるか正気?」「タンデム(ふたり乗り)でバトるん?」「アホとゆーか、自殺っしょ?」などなど。
どこか他人ごと。
つか、ワタシはまじで心配になってきた。。。あのガラの悪い連中は既に勝った気でいるし、いやらしくニタついてるし。。。
先生!!!!!!!!
本気で無理です!絶対に無理です!!!!!
「いや、勝つからだいじょーぶよ♪」とゆるか先生。そーゆう問題じゃない!
「落ちます!絶対ワタシバイクから落ちます!」
「んーん、後藤!手錠ある?このコ落ちそうなんだって!」と、先生、仲間のひとりに。そういう問題じゃない!!!!
「手錠あるよ!」と後藤さん。あるんかいな!!!!!
手錠はいい!絶対にいい!手首にあとがつく!
「とりあえず縄でくくっとくか!」ってことに落ち着いたのだが、縄!縄はあるんか!そんなこんなでワタシはゆるか先生と体を縄でつながれてバイクの後ろに乗ることになったのだが、手錠とか縄とか何故!?!?! なんだこの状況???
「ゆるかメットはいいの?」と、他の仲間が。「いいよ別に。邪魔なだけだし。かわりにメガネ貸してくんない?」とゆるか先生。「たまーに目に虫が入るんだよねー」と言って、メガネを借りて、「ん、度が合わんな」…と。。
先生本気ですか!!!!!!!! 本気で本気で本気ですか!!!!!
「だーいじょうぶ!だいじょうぶ!だーいじょーぶ!」と、ゆるか先生、ぜんせん動じず。まわりはワタシのワタワタしてる様子見て、なんだかオオウケしてて。
あ。。。足が震えてきた。。。こわい。。。まじこわい。。。
コンコン、メットを拳で叩く人がいて、振り向くとさっきの後藤さん。
「だいじょうぶ、ゆるか絶対に負けないからw」と、ニコッと。
それ聞いてちょっと安心した。そうだ、先生だもん。ゆるか先生だもん。
でもって、制服女子(縄付き)と小柄な美術教師とおっきなバイクは、バトル(と彼らは呼ぶ)のスタートラインに着いたのだが。。。
確かにビビる!ただ、ゆるか先生だ!教育者だ!そんな生徒を見の危険に晒すなんてことはする筈は無い!普通はしない!絶対にしない!
「ワタシさー、許せないタイプが3つあるんだよねー」低く響くエンジン音の中、スタートライン上のゆるか先生が言う。
前には映画のワンシーンみたいに、白いハンカチ持った女の人が居る。このハンカチが下がったら、レース開始の合図なんだろう。
バイクはドクドクと、心臓の鼓動のようにその爆発の瞬間を待ち望んでいる。
「…無駄につるむヤツ、無駄に力を見せつけようとするヤツ。。。」…うぃぃぃぃぃ。。。。。。んと、エンジンの振動が低く唸りをあげる。
「そして。。。」ゆるか先生の体にぐっと力が入る!
「女の扱いを知らないヤツ!」
ハンカチが下がった!うぉん!足元で何かが爆発したよーに感じた!
瞬間、首や体がぐわっと後ろに下がる!スタートだ!とりあえずスタートしたんだ!!!!
「ぐぎゃああああああああああああああああああ!!!!!!!!!! 」
こっ・・・殺す気ですかっ!!!!先生ぇ!!!!
さぁつ、さっきのなんて比べもんにならない!!!! このバイク、こんなにもスピードが出るんだ!!!!! 巨大な生き物がワタシの体つかんで、後ろに引き剥がそうとしてるかんじ!!!!!!
このバイク、こんなに早いのか?改造してんのかよくわからんが、こんなにスゴイのか!?!?
瞬間、体全体がぐわっと横に倒れた!!!!! ……って、たおれる!!!! たっ、たおれるよ!!!!! ってか、地面近っかあ!!!! 地面がちかすぎる!!!!!
その後振り子のよーに、右や左や、その都度、ぐわんぐわんと、巨人に体ごと横からはたかれてるよーな感じで、ワタシはその中に浮くペラペラの紙みたいに、右やら左やら、このまま頭だけどこか飛んで行くんじゃないだろーかってぐらいに!!!!!
って、前を見ると、さっきの人がまだ前にいる!!!!
「タムー!ちょいとスピード出すから、もうちっとちゃんと掴まってな!」と先生。先生!!!! もう十分にスピードが出てます!!!!!
って、あああああああ!!!!!! ちっ。。。地球の重力が背中にあるみたいなあああ!!!! ぐああああああ!!!!!
バイクが右に大きく傾いた瞬間、スパッと前を走ってたバイクが横をすり抜けて、そのまま後ろに消えていった!!!!
そして、ぐっ、ぐっ、とまた、右や左に!
抜かれた筈のバイクが、また後ろにピッタリくっついて来た。ぐわん!唸りを上げて、また横を通り抜けようとした瞬間、先生はその位置をブロックするように間を詰めてきて、また左にグワッと傾かせてきた。。。
死ぶ・・・!!!! 本気で死ぶ・・・!!!!!!! なんだコレええええ!!!!いままで経験したあらゆるものより怖い!そしてビビる!つか死の淵だ!!!!
「せんせぇぇぇぇえええええー・・・・・・・・・・い!!!!!」ワタシは声いっぱいに叫んだ。
「なんだね、教え子よ♪」と、先生。ものすごーく冷静!
「ワタシ処女のまま死にたくなああああああああーい!!!!!!!!!」 本気で死ぬ!!! このままじゃ死ぬ!!!! ここで絶対に死ぬ!!!!!
「なんだ、タム、そんなにセックスに興味あるのか?」 と、これまた至極冷静。
ぐわっ!後ろのバイク再びムキになって間を詰めてきた。
「だって!だって!きもちいいって聞きましたしいいいいっっっ!!!!!!」 とワタシ!いかん!何ワタシ血迷ったこと言ってるんだ!!!!!!
「あれは相手とタイミングによるな」と、これまた至極冷静な返答。
「せんせぇ、なんでそんな冷静な・・・・ぐああああああああ!!!!」またスピードを上げた。
キーン!脳の奥で何かが鳴っている。。。。バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタって服が風になびく音が、耳の奥にしっかりと焼き付いている。。。。
…気がつけば。。。
横にいた筈のバイクは遠く後ろに見えなくなっていた。
そしてワタシは埠頭のようなところに、腰を降ろしてぐったりしていた。バイクは止まっていた。
死んだ。。。。少なくとも気持ちは15年分死んだ。。。。
「ほい」とゆるかちゃんはどこかから買ってきた缶コーヒーをワタシに手渡してきた。
「疲れました、なんだかw」と、ワタシ。
だけど顔はちょっと笑ってた。涙は乾いてた。
…よーな気がする。一瞬かもしれないけど。
ワタシはプルタブを開けて、缶コーヒーに口をつけた。
「速いですね、せんせい。」と、ワタシ。それだけは分かる。あんた最速だ。普通ふたり乗りじゃ勝てない!つかふたり乗りでバトルしてる姿とか見たことがない!
「ガキん頃から、レース出てたからな」と、ゆるかせんせい。小さい頃からミニバイクのレースに出ていて、バイクは体の一部のよーなモンだと。
「プロとアマチュアの違いw 負けるはずねーよw」とゆるかせんせい。いつもの笑顔を見せて。
不思議な人だなぁ。。。
「あのバイクはお兄さんからの借り物なんですか?」と、ワタシ。だって不釣合いだし。
「そだよ」 と、せんせい。
せんせいは埠頭の端にあるコンクリートのちょっと高いところに登って、煙草に火をつけた。
「もう死んじゃったけどなw」と、せんせい。
あ…。。。そうなんだ。。。
「レース中に死んじまってなw ま、古い話だ。」と、ゆるか先生。
先生は煙草の煙を、すーっと細く長く、空に浮かぶ月のふもとまで投げかけた。その煙はゆっくり吸い込まれるように、夜空の中に消えた。
このバイクはお兄さんの形見らしい。「バイクは乗らないと死んじまうからな」
「そしたら兄貴は本当に死んでしまう」…と、ゆるか先生。
ゆるか先生は、とんとんっと煙草の灰を下に落とした。
「最後まで兄貴だけは抜けなかったよ。そしてそのまま天国行っちまったからな。やりにげw」…とゆるか先生。にこっと笑いながら。
ワタシはバイクの方を見つめる。チチチチと、エンジンが先ほどの熱を放射するように、小さな音を立てている。傷ひとつないバイク。
先生は兄の不在をどうやって乗り越えたんだろう?ワタシには分からない。
そしてどうやって再び笑顔を取り戻したんだろう?ワタシには分からない。
「相手はノキ?」と、ゆるか先生。
ワタシの失恋について。
うん。ワタシは小さく頷く。
ワタシはスカートについた砂利をぱぱっとはたいて、先生のいるコンクリに登った。海だ。夜の海が見える。
びゅう。
風がきもちい。
「ふられたああああああーっ!!!!!!!!」と、ワタシ。力いっぱいに。
「おし!もう一回叫べ!」
「ふられたああああああーっ!!!!!」
「お!いいぞいいぞ!」
「ふられきゃあああああああああああっ!!!!」
はははっ、ゆるか先生は少し笑って、二本目の煙草に火をつけた。
涙が少しこぼれてきた。けど、気持ちいい。清々しい。
よし、もう一回言うぞ!
「ふられたあああああああああああああああっ!!!!!!!!!」
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さてさて、そんなかんじでバイク体験。しょっぱなからこんなハードな経験したせーか、その後、どんなジェットコースター乗っても怖いなんてピクリとも思わなくなってしまった。だってレールあるし。こん時ホント、死ぬかと思ったんだよまじで!!!!
先生は両親に対して遅く帰ったワタシのことを上手いこと説明してくれて、こと無きを得た。ワタシのちょっとした失恋と、かなり強烈な冒険はこうして幕を閉じた。
後日談。
さて、ノキの話だ。
別人だった。
…アホみたいだワタシ。。。。
みーた(友人)が、「タム!聞いて!聞いて!神崎と小暮、不純異性交遊で始末書だっって!」ってことで、真実が判明した。
屋上でちゅーしてるところがバレた。日にちも一致する。間違いない。
…神崎。。。微妙に記憶ある。。。確かに体型はノキに似ている。。。
それにしても、ノキの背中を間違えるとは、ワタシもどーかしてたように思う。ただ、なんとなく思うのだが "この場所にはノキしかいない" "ノキ以外居ない" と思い込んでた自分が、咄嗟にドアを開けた時に居た男性を、そう勘違いしてしまうのも、不思議ではないよーな気もする。
いや、言い訳だ。完全ワタシのミスだ。ホント後悔している。。。
どうやらふたりは、誰も人のこないイチャつく場所を探してて、その時、ちょうど屋上の鍵が開いてて(たぶんノキは閉め忘れたのだと思う)、そこでちゅーとかしてたんだと思う。
今となってはどーでもいい話だが。
当のノキ。ワタシが失恋騒ぎでバタバタしてた時何やってたかとゆーと、プール裏に洞穴作ってたらしい。
数日後、泥だらけのジャージ着たノキに遭遇した。
「タム!聞いてくれ!今度はおれ、プール裏に洞穴作ったんだよ!」と泥だらけの顔して、めちゃくちゃうれしそうに。洞穴ゆーても、ただ単にプール下にある鉄柵の中に、穴掘って入れるよーにしただけとゆーか。
子供かおまえ!
「ばーか!」ワタシはノキに向かって言った。
もう一回言うね、
ばーか!
(続きます!感想くれたらすんごくうれしいです!)