ゆるか☆スピードスター その③
小さいちょっとした冒険。。。のハズが、全く違う方向に話は展開します!
授業も出た。部活も出た。
だけど、家に帰りたくなかった。ひとりで部屋に居たくなかったんだ。
ノキのこと考えてしまう。絶対。間違いなく。
川辺。
嫌なことがあると、いつもこの河原だった。ぼんやりしたい時、悲しい時。学校の帰り道のこの河原。ウチの近所のこの河原。
小さい頃から。そしてノキが来てくれた。いつもじゃないけど。
ノキは励ましてくれた。元気を与えてくれた。
けど、今回それは無い。だって今回の悲しみの中心はノキだし。ノキのことだし。
ワタシは河原に腰を降ろし、ぼんやり川を眺めていた。太陽が申し訳なさげに沈もうとしている。
学校帰りの学生や、家路に急ぐ主婦達、ジョギングする人、散歩する人。
そんな人すべてをこの川は包みこんでくれる。優しさを運んでくれる。
ノキはもう部活は終わる頃だろうか?
運動部のノキは文化部のワタシより終わりが遅い。ノキに会いたい。そして何かの間違いだよって伝えてほしい。勘違いだよって教えてほしい。
勘違い?
あの徹底的状況を前にして、何が勘違いなんだ?
ノキの肩、ノキの背中、そしてノキの髪、
間違えるワケないよ。違うワケないよ。けど、会いたい。。。会って違うよって言ってほしい。。。
ノキの顔…。。。このままじゃ普通に会えないよ。。。学校で会っても、笑ってバカ!とかって言えないよ。。。
言えるワケないよ。。。
膝に顔をうずめる。
両腕で顔を隠す。
…けどね。。。事実なんだ。。。ノキが他に好きなコがいるってのは、完璧に事実なんだ。。。
事実なんだ。。。
わーん。。。。
…泣いた。。。。ようやく思いっきり泣いた。。。ぼろぼろ涙がどこからこんな出てくんだ?って思うぐらい泣いた。。。ノキのこと、いろんなこと、楽しかったこと、嬉しかったこと、そしてノキのこと考えた時に感じる、気持ちがふわりとあったかくなるような感じのこと。。。
ノキの手、ノキの目、ノキの肩、自転車で運んでくれたノキと共に感じるあの柔らかい風。。。
ノキの笑顔。。。
わーん。。。
どうすればいいんだワタシ。。。わーん。。。。
わからないよ。。。どうすればいいかわかんないよ。。。
いままでノキが埋めてくれていたワタシの心の隙間。。。それをこれからどうやって自分ひとりで埋めていけばいいんだ。。。ノキ。。。ノキはワタシには弟でもあって兄貴でもあって、それでいて、今は大切な人にまで上り詰めちゃったんだよ。。。この気持ちはもう戻れないんだよ。。。
戻れないのに。。。。
戻れないところまで来ちゃったのに。。。
なのにあんまりだよ。。。あんまりだよ神様。。。
- - -
「おーい、そこの今にも死にそーな中学女子ぃーっ」と、その時遠くから声が聞こえた。聞きなれた、だるそーな声。女の人の声。
へ?ゆるか先生???ゆるか先生だ????
ただ、なんかいつもと違う。。。バイクの排気音がかなりけたましく鳴り響いているからだ。
振り返る。
「そこの涙ブス!自殺すんのは義務教育終えてからにしてくれぇ~」と黒いヘルメットを取る。黒い皮のつなぎ。長い髪。ふわりと手のひらで髪を弾く。髪が踊る。そしてこっちを見る。見慣れた顔、意思の強そうな目、芯の強い目、
ゆるか先生!間違いなくゆるか先生だ!見慣れないかっこうだが、間違いなくゆるか先生だ!!!!
ゆるか先生は大きな瞳をにーっと細め、こっち見つめて柔らかそうに笑っていた。
せせせせんせいっ!!!! なんでここに居るんですかっ????
ワタシは涙を制服の袖でぐしゅぐしゅっとこすって、ゆるか先生の元に向かう。土手の草を踏みしめる。前日の雨が草を湿らせている。
先生は舗装されたランニングコースにバイクを乗り入れていた。しかもエンジン思いっきりふかして。いや、ここ、バイク乗り入れ禁止なんでは???
「先生バイク乗るんですか?」と、ワタシ。さっきまで泣いてた表情を隠しきれないまま。
「ん、兄貴からの借り物」と、ゆるか先生。
その間もバイクの野太いエンジンの音が、夕暮れの喧騒を突き崩すように鳴り響いている。低く、唸るような金切り音。動かぬものを押し動かすような音、力強い音。
そのバイクは白地にブルーのストライプで、いかにもスピードが出そうなレースとかで使われそうなタイプだった。小柄なゆるか先生。このバイク乗れるの?って思わせる程、この2つは釣り合ってなかった。
そのバイクにはSUZUKI、そして小文字で「r」とロゴが描かれていた。
先生の顔を見る。先生の大きく、包みこむような瞳がワタシを見つめている。
背中を照らす夕日があたたかい。
自分の口元や顔がぐしゅぐしゅに歪む。唇をかみしめても、目から涙が溢れてくる。前を見なきゃ、ちゃんと笑わなきゃ。だけど目からは涙がぼろぼろとこぼれてきて。。。
ゆるか先生の顔が涙でゆがみ始める。
ワタシは顔を手で覆った。。。そしてしゃがみ込んだ。。。そして大きく泣いた。。。。先生を見て安心しちゃったのだろうか。。。心の糸が切れてしまったのだろうか。。。
泣いた。。。ずいぶん長いこと泣いた。。。。
ぽんぽんっ、ワタシの肩を叩いた。顔を上に上げた。すぽん、ヘルメットをかぶせられた。
「乗んな。涙を乾かしにいこっか?」
(続きます!)