鉛筆のこんな利用法 その⑤
鉛筆のこんな利用法 その⑤
落ち着けワタシ!そんな深く考えなくていいんだ!と自分に強く言い聞かせた上で。言った事に対する後悔が、微妙に押し寄せるのを必死に食い止めようとしながら。
しまったーって気持ちを、必死で抑えながら。
何かを抑えながら。でも、それでいいんだ!って自分に言い聞かせながら。
ところがノキときたら、「あ、オレ、タムの事好きだよ」とサラッと。
ってオイ!オイオイオイオイ!
ワタシの聞きたいのはそんな事じゃねーんだ!そんな軽い返答じゃねぇんだ!!! 幼子が言う「ママ大好き!」みたいな言い方で言うな!
ペラペラに言うな!
メシ食いながら言うな!もぐもぐ食いながら言うな!
軽く言うな!
好きって言うのはだなぁ…、もっとこう、しっとりとした大人の艶とゆーか、ドロドロ感とゆーか、重厚な響きとゆーか…。って、何だかワタシも何が言いたいか分からなくなってきたが、とにかく違うんだ!オマエの言う好き、ナンか違う!絶対に違う!!!
あっさり言うな!軽々しく言うな!
幼子(娘)の言う「パパ大好き!」みたく言うな!
「アレ、タム、豆余ってんじゃん」と、ノキの感心は再び弁当の方に。
ああ、ワタシの4ダース分ぐらいの勇気は、どこへ…
「いい、もう全部やる…。オマエに全部やる…」と言って、ワタシはお弁当箱ごと差し出した。まぁ豆しか残ってないし。
って、お弁当箱と一緒にハシもうっかり渡したモンだから、一瞬、ノキはワタシのハシで食べようとして!「コラ!オマエは鉛筆で食え!それはワタシのハシ!」とワタシ。
「イヤ、鉛筆だと掴みにくいからw」とノキは言ったけど、そのまま自分のハシをふんだくって、ハシ箱にしまった。鉛筆だけでなく、ハシまで犠牲にしてたまるか!
掴みにくいと言ってるワリには器用に鉛筆で豆を食べるノキ。こいつ指先は器用なんだよなぁ…。ガサツな性格のクセに。写真とか上手いし。あ、写真、関係ないけど。ガサツなようで繊細なところもあるんだよな…。何か知ってるよーで知らないのかもなノキの事…。
「髪がふわっと風になびいて、一瞬香る柔らかい感じは好きかな?」とノキ。器用に鉛筆で豆を口に運びながら。
へ?何言ってんのコイツ?
ワタシが不思議そーな顔してると、ノキも不思議そーな顔をして「いや、だからどんなコが好きか?って聞いたじゃん。オレ別にこだわりとか無いけど、なんとなく女の子の髪の香りとか好きだなぁって。なんとなくだけどね。」とノキ。掴みにくい豆と多少格闘しつつ。
髪の香り?におい好き?ま、健全なフェチな方だとは思うが。足とかワキのにおいフェチとかよりはぜんぜんw
「つか、そんな事聞いてどーすんの?リサーチか何か?」とノキ。
「ま、そんなトコ」 とワタシ。
言えない。言えるワケないよ、ホントの事なんか…。
昼休み終了五分前の予鈴が鳴った。初めてノキと過ごしたお昼休みはこうして終わった。終わるも何もニワトリにエサやって、メシ食っただけだけどw
ノキは、「どうも!ごっさん!」と言って、ワタシに弁当箱を戻し、「オレ、日直だからちょっと急いで戻るわ!」と言い、制服の裾の埃をぱんぱんとはたいた。
豆は綺麗に食べられていた。食べるの綺麗なんだよなぁノキは…。
「あ、もう一回言うけど、オレやっぱりタムの事好きだよ!」とノキ。またまたサラッと。なんか、軽いなぁ、やっぱり。。
「どのヘンが?」とワタシ。反論に近いような感じで。ノキにも分かるよう、多少ムッとした表情で。
「ニワトリに似てるから」とノキ。
は?
「なつかなくて、生意気なところw」とノキ。
ま、いいや。なんだかどーでもよくなってきてしまった。
ノキは、じゃ、行くわ!と言って、そのままくるっと背中を向けて走りだしてった。
ノキの姿が校舎の中に吸い込まれてゆく、ワタシの視界から消える直前、ちょうど声が届かなくなってしまう直前、ワタシはノキに向かって叫んだ。
「ノキー・・・・・・・・ィィィィッ!!!!!!!」可能な限り。ハラの底から。出来る限り。
ノキがこっちを向く。オレ急いでんだよ!って感じで。
「たまには一緒にご飯食べよっかーっ!!!!」
ノキは、笑って手を振ってくれた。
「ウソだよ、バァァァァァァァカ!!!」ワタシは叫んだ。力の限り。心の限り。大地を揺るがすが如く(※やや誇張)
ノキはまたニコッって笑って、手を振って、そのまま足早に校舎の中に消えて行った。
ひゅうと風が吹いた。髪がふわっと少しだけ風に踊る。
髪のにおいかぁ…。。とりあえずシャンプーから変えてみっか…。。
<後日談>
翌日教室に入ると、新品の鉛筆が二本置いてあった。そしてメモがあった。ノキの字だ。「ごめんな」って。
ワタシはクスっと笑って、鉛筆をかばんにしまった。
ちなみに課題は出せなかったよ。(当然だ)顧問のゆるか先生には「ま、来週までに二枚書けばいーよ」とサラリと言われた。慌てる必要なかったかもなぁ…。
休み時間、ワタシは二本の鉛筆のウチの一本を取り出し、ゆっくりナイフで削った。削る度、なんかノキの事がぼんやり頭に浮かんで来た。ヒヨコ風呂の事、ニワトリ好きな事、その他、どーでもいい事。
ワタシは真っ白なスケッチブックを広げ、思うまま、指を走らせる。
れんげが、横から顔を近づけて、覗き込んできた。
「何書いてんの?」
ワタシは「ニワトリ好きな、優しい目の人の横顔」って答えた。
れんげはふーんという不思議な顔して、分かったよーな、分からないよーな。分からないよね、普通。
「シャンプー変えた?」とれんげ。
え、まぁ、そうなんだけど…。
(ノキと魚釣り編 に続きます!)