ノキと遊園地 その⑤
とりあえずノキとタムは結果として遊園地に行きます。タムは嫌々なんですがw
「タム!これこれ!」ブランコを降りたノキが指さした先には、小さなジープのオブジェがあった。
あ、これ見覚えがある…。
前あったアマゾン館で使われていたジープだ。
アマゾン館とは、"アマゾン旅行を疑似体験出来るアトラクション" …とゆーと響きはいいが、まぁジャングルクルーズの和風版とゆーか…。今思うと相当安っぽくてw
人や動物はほとんど動かないし、音でごまかしてるだけとゆーか…。。
ジープみたいのに乗ってジャングルに潜む動物や人形の間(ぜんぶうさんくさいw)を移動してゆくというw
ただ子供だったから、ワーキャー言ってけっこう楽しんでたなぁ…。それなりに人気があって、そこそこ並んで。
今はもう跡形もなく消えていて、その場所にはなんだか別の建物が立っていた。
その時のジープが、今は屋外にベンチ替わりに置いてある。ある種、廃品利用だ。
ノキがそれを見つけて大喜びしていた。
「オレこのジープのボンネットの上に乗るの夢だったんだぁ!」とかなり満足げ。安いなぁノキの夢って…。
「前だったらコレだけで係員スッ飛んできてたぜ!」と、ボンネットの上で飛んだり跳ねたり寝転がったり。ジープでこれだけ楽める人も珍しい気がするぞ。
「オレちょっと飲み物買ってくるわ」と七尾くん。
「ワタシもトイレ」と未央。
二人はこの場を離れた。ハシャぎ過ぎのノキに呆れたとか?大丈夫か?ちょっと心配。まー、ノキなんていつもこんなモンだけど。
「これって生意気に左ハンドルだったんだな!」
ノキはハンドルをぐるぐる回し始めた。
と、ハンドルを回す手がピタッと止まった。そしてある点を見つめた。ワタシもノキの視線を追った。
その先にあったもの、
それは以前あったシャトルループのエントランスの跡地だった。
- - -
「シャトルループ無くなっちゃったんだ…」とノキ。
ノキはジープを降りて、ふらふらとその建物に向かった。シャトルループ、このコースターは園で一番の人気だった。すごい人気だった。今はもうレールが撤去され、レールの基礎部分とエントランスだけが残されていた。
錆びた鉄の階段と、コンクリートと窓ガラス。意図的に残したのではなく、片付ける事を放棄した為、"仕方なく残っている" ように感じた。
血を抜かれた動物のように。
それは施設としての生命力を完全に失い、ただただそこに存在していた。棄てられたように。
「シャトルループは営業を終了しました」
それだけの言葉が、赤錆びた階段の入口に掛けられていた。事務的に。無機質に。
ワタシはあの夏、すごく暑かったあの日の夏の事を思い出した。
このシャトル、すんげぇ並んだっけ…。
あの日ノキ、どうしてもコレに乗るんだ!って言い出して、だけど2時間待ちで。それでも乗るんだ!ってどーしても聞かなくて。でもってがんばって並んでたんだけど、ワタシ暑さでフラフラになっちゃって…。
飲むものも無くなっちゃって、喉乾いて死にそうで、頭朦朧としてホントに倒れそうになってた時、ノキは「オレに任せろ!」って言って、列抜け出して水持って来てくれてたんだよね。珍しく真剣に。小さい足でチョコチョコと必死に。
嬉しかったなぁ…。
ただ、ここまではいい話なんだけど、ヤツってば、その水、実はトイレの手洗い場の水だったんだよねw
それ聞いて、ワタシその場で大泣きしちゃってw
まぁ、今になって思うと、それはノキなりの優しさだったんだと思う。精一杯の優しさ。子供なりにだけど。水飲み場まで遠かったし。飲み物買うようなお金持ってなかったし。
その時ノキ、泣き出したワタシの事が理解できなかったみたいで、ただただ困ってて。ノキはどうやらワタシがノドが乾きすぎて泣いてるのかと思ったみたいで、だいじょうぶだよ!だいじょうぶだよ!と言って、何度も何度も頭をなでてくれた。小さかったノキの、小さい、小さい、手のひら。何回も、何回も。
今思うと、ワタシも泣く程じゃなかったかな…
ワタシも子供だったし。もちろんノキもね。
ま、今、同じ事されても泣くと思うけどねw つか、今なら殴るぞw ナメんな!ってw
「結局コレ乗れなかったんだよなー」とノキ。
結局さんざん並びまくった挙句、ワタシもノキも身長制限で乗れなかったんだよね!つか、並ぶ前に指摘してくれ!完全並び損!
このコースターはワタシ達を迎え入れてくれる前に、地上から消滅してしまった。どこかへ消えてしまった。
「一度ぐらい乗りに来ても良かったかもな。」とノキ。もうそこに無いコースターの空白を見上げながら。
その先に空。
ノキが今日、初めて寂しそうな表情を見せた。少しだけだけどね。
ワタシもノキの見る青空を見上げた。さっきまで笑ってたような空。今は少しだけ寂しそうに見える。
小さい頃、はしゃいで遊んだ遊園地。
その後いつしかこの場所を訪れなくなり、巨大でおっきいコースターは私達を置いて何処かへ消えてしまった。待ちくたびれたのかな。
「あのあたりじゃない?」
とノキ。
へ?
「あのあたりだよ」ノキはもう一度言った。
「ほらほらあのあたり!」ノキはもう一度。
そして空の先にある大きくてどっしりとした雲を指さした。
「きっと空に上がって行ったんだよ。天国の子供たちを楽しませる為にね」とノキ。
飛行機雲がツーとゆっくりと白く線を流した。控えめな澄んだの空の下地に。
ノキは私の方を見て笑った。
「ほらね」
私はちょっとだけふんわりとした気持ちになった。そしてちょっとだけ笑った。そうなんだ。きっとどこかで誰かを楽しませているんだ。幸せを運んでくれてるんだ。
「天国にも身長制限あるのかな?」とワタシ。
「そのヘンはだいじょうぶ!天国だからなんとかしてくれるハズだよw」とノキ。意味わかんないw
ノキはそう言って、ワタシの頭をちょっとだけなでてくれた。
あの時と同じように。
大きくなったノキの、大きくなった手のひら。私のあたまをくしゃっと包む。
だいじょうぶ、だいじょうぶって。手のひらは優しく、暖く、そしてふわふわしていた。まるで雲みたいに。
「死んだら乗りに行くか!」ってノキ。
「そうだね」とワタシ。
バーカ!まだ死なねぇよw
<続きます!>