ノキと遊園地 その④
とりあえずノキとタムは結果として遊園地に行きます。タムは嫌々なんですがw
「ボロくね?」
園に着いて最初に七尾くんが言ったひとこと。私も驚いた。
久々に来た思い出の場所。園のゲートの白いペンキはところどころ剥げ、中から赤茶色のサビが乱暴に覗いていた。
「オレ初めて来たんだけど。」
と七尾くん。人も少ない。ワタシが前来た時は、入場するまで30分近く並んだ。今は待ち時間ゼロだ。
ヒマそうな係員が、静かにチケットを渡す。
日曜なのに。
最初、TDLに行こうって案もあったんだけど、中学生の小遣いじゃちょっと厳しい。そこで、近場の遊園地にした。
ワタシにとって、ここは思い出の場所だった。
小さい頃、よく連れてこられた。近所の子供達集めて、親達がよく連れてきてくれた。ノキもそこにいた。
遊園地に来た時のノキのはしゃぎっぷりはすごかったなぁ…。ジェットコースターの支柱登ろうとして係員に連行されたり、ボールプール(中にカラーボールがいっぱい入ってる、ふわふわしたバルーン式の大型テントみたいの)に穴開けようとしたり…。。
親達が疲れてくると、子供たちだけで行動した。かなり勝手に。自由に行動出来る貴重な時間。その時間いっぱいにワタシ達は夢の国を存分に楽しんだような気がする。
全てがキラキラしてた。全てが夢に溢れていた。
その思い出が今もここにあると思っていた。あの頃のまま、ここに残っていると思っていた。信じていた。
違ってた。
「すっげぇ待ち時間ゼロ!オレ超幸せ!」とノキ。やっぱバカだコイツw
ワタシが複雑な思惑に思い悩んでいる時、ノキときたら…。子供の頃ののままのノキ。精神年齢低いんだろうなw
「まずあれ乗ろうぜ!あれ!丸太みたいのに乗って水がぴしゃーって跳ねるヤツ!」とノキ。
「スプラッシュマウンテン?」と七尾君。
「そうそう!それそれ!」とノキ。
ちなみにこの園ではスプラッシュマウンテンではなくて、「フリュームライド」と言いますw
TDLのアレとは、ちょっと呼び名が違いますw
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スプラッシュマウンテン(ではなく、フリュームライド!)は、やや待ち時間があった。
ただそれは、"人が多いから" という理由ではなく、レーン上を二つのコースターしか可動させてなかったからだ。
残りのコースターにはグレーのシートがかけられ、別のレーンに置かれていた。あまり使われてないような雰囲気。緑色の苔のようなものが色濃く付着していた。
あの頃は待ち時間がすごく、終わりが見えない程並んだように思う。反面、これから乗る乗り物に対して期待に胸をふくらませていたように思う。待ち時間は嫌じゃなかった。わくわくしていた。
このスプラッシュマウンテン(じゃなくてフリュームライド!)は、ちょっと高い位置にあるので、園内を見渡す事が出来た。
園内のアトラクションは、客が来るまで可動させてない。客が来て初めて、機械のスイッチを入れているようだった。
回転系の乗り物、コースター系の乗り物、すべてだらしなく動作を止めていた。
二機あるフライングパイレーツも片側しか可動してなかった。人もまばらだった。
TDL以外の遊園地って、どこも今、こんなモンなのだろうか…。
未央は相変わらずノキの横に立ち、いろいろ話しかけていた。ノキのどこがいいのやら…。全くもって謎だ…。
「彼女とかいるんですか?」と未央。
直球投げるなぁーっ!!!そういうのはある程度してから聞かないか!?!?
「いねぇ!いねぇ!ぜんぜんいねぇ!」とノキ。
合ってるよ。間違ってねぇよw
「どんなコが好きなんですか?」と未央。このコすげぇなぁ!早速そこまでも聞くか!
「君みたいなタイプかな?」とノキ。真顔で。ウケる未央。
お前の愛は15円ぐらいか!?!? 安い!軽すぎないか!?!?
「光栄ですわ!」と言いながら笑う未央。
未央大人だなぁ…。 それにしても、未央はホントかわいい。ワタシも好きになっちゃいそうだよw
「タムさんって、彼氏とかっているの?」と突然、七尾君がワタシに。
え!七尾くん???七尾くんがワタシに!ちょいとビックリ!ノキに気を取られ油断しとった!
「ぜんぜんないです!その気配も微塵もカケラもありません!!!」とワタシ。
違ってねぇよ。ぜんぜん間違ってねぇよw
「へー、もったいない。作ればいいのに。」と七尾くん。
ワタシも作りてぇよ!ただ作ろうとして作れるモンじゃねぇんだよ!
ワタシは0コンマ数秒だけノキの事を考えて、即座に脳内で却下した。あんなのゴメンだ!絶対にゴメンだ!目の前でニヤつくノキの顔をみて、つくづくそう思った。こんなアホ、ワタシから却下!ワタシはノキの事、男とは思ってないし、ノキもワタシの事、女とは思ってないし。
未央とでも誰とでもくっつけばいい。勝手にすればいい。
「七尾君は彼女はいないの?」とワタシも聞いてみた。
「今はいないよ」と七尾くん。つまり前まではいたって事か。そりゃそーだろな。ただ、誰なんだろう?七尾くんの彼女になんてなったら女子全員から半殺しにされそうな気がするがw
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「ボロいなぁ…」七尾君が言った。
15分程度の待ち時間を経て、カラのゴンドラがぷかぷかと私達の前に運ばれてきた。
私達の乗るゴンドラは足を固定するバーのウレタン部分が部分的に破け、幾重かに黒いガムテープで補強がされてた。シートも同様。破れた部分がガムテープで補強され、そのガムテープですらその端が所々剥がれ、中のスポンジが所在無げに顔を覗かせていた。
「ディズニーランドだと絶対こういうの無いよな。」と七尾君。確かにそうだ。
横に浮浪者テントみたいな資材置場っぽいのとかもあるし。
なんだかすげぇ生活感…。
七尾くんは喜ぶでもウカれるでもなく、そのまま事務的にゴンドラに乗り込んだ。電車に乗るのとでも同じように。開かれたエレベーターのドアに足を踏み入れるのと同じように。
反面、ノキのウカれっぷりと来たら…
なんか鼻歌で歌ってると思ったら、これは加山雄三「海よ」じゃないか…。ここ海でねぇし。つか、ワタシしか分からないしw
座ったノキはいえい!いえい!と頭をぶんぶんと振り始めた。係員に怒られるぞw
動き始めたらノキってば、やっぱり絶叫しまくりで…。つかこれ絶叫する程のマシンか????
逐一、ギャーとか、グヘェェェェェ!とか、もーわっっかり易いぐらい反応しまくりで…。これウケ狙いじゃないんだ。ノキの素なんだ。大げさじゃないんだ。
未央が引かなきゃいいけど…。ま、ノキなんていつもこんなモンだけどねw
ノキが次に乗りたがったのは、回転系のブランコだった。これにはよく乗った思い出がある。
ひとり乗りで、単純にぐるぐる回転しながら、上に上がっていくだけのアトラクションなんだけど。
ノキってばやたらとコレが大好きで、乗るとき必ず「ゆすっていい!ゆすっていい!」とハシャぐんだ。
「普段乗ってるブランコより数倍デカいから!」とゆーのが好きな理由らしいけど。
でもって今回も、「ゆすっていい!ゆすっていい!」とまるで進歩ない発言をして、係員にやんわり諭されてた。相変わらず。デジャブだ。
七尾くんと未央は乗らなかった。まー、乗る程のモンでもないしw 基本子供向けだし。
ブザーがなってブランコが回転を始めると、ノキはすんごく楽しそうに笑い始めて!見てるこっちが恥ずかしくなるぐらい。
ヤツは必ず、強引にブランコごとねじって、後ろで乗るワタシに「タムーっ!タムーっ!」って叫ぼうとするんだ。
今回もいっしょ。
「タムーっ!タムいぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!」って。
恥ずかしいからヤメろよなぁ…w
回転するブランコは、最後ほぼ水平近くまでなる。
足元に街並みが広がる。普段は見られない光景。そして体の右側には青空が広がる。あの頃と変わらない青空。澄み切った青空。ノキの叫び声が青空へ吸い込まれてゆく。
変わらないノキと、変わらない青空。私はそれを見て、ちょっとだけ優しい気持ちになった。柔らかい気持ちになった。
そして笑った。あの頃と同じように。
そしてあの頃と同じようにスピーカーから音声が流れた。
「ゆすらないでください!ゆすらないでください!」
<続きます!>