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神護女

作者: T.M
掲載日:2026/06/27

村の子どもたちは、夕暮れになると輪を作って歌った。


神護女、神護女。

加護の中の通りは、いついつ出やる。

夜明けの番に、弦と瓶が滑った。

北の瀬面、誰。


歌い終えるたび、一人が輪の外へ出る。

それが遊びだった。

旅の若い書記は、その歌を帳面へ書き留めた。

「妙な歌だな。」

そう言うと、子どもたちは笑って逃げた。

村で一番年老いた女だけが、書記の手元を見て顔色を変えた。

「誰に教わった。」

「子どもらです。」

「最後を読んでみろ。」

書記は紙を見た。

北の瀬面、誰。

女はゆっくり首を振った。

「違う。」

「違う、とは。」

「その字を書いてはいけない。」

書記は笑った。

「字が違うだけでしょう。」

「字ではない。」

女はそう言って黙った。

翌朝、夜明け前。

書記は北の川へ向かった。

浅い瀬だった。

水は驚くほど静かで、空だけが映っていた。

何もない。

そう思ったとき。

岸に置いた墨壺が、小さく音を立てて倒れた。

それに続いて、筆を束ねていた弦が、水へ滑り落ちる。

ぽちゃん。

その音だけが響いた。

書記は思わず水を覗き込む。

映っていたのは、自分ではなかった。

顔だった。

男とも女ともつかない。

老人にも子どもにも見える。

目だけが、こちらを見ていた。

「……誰だ。」

その声は、水面から聞こえたのか。

自分の口から漏れたのか。

分からなかった。


数日後。

村を訪ねた役人は、書記の帳面だけを見つけた。

最後の頁には、子どもの歌が丁寧な字で記されている。

だが、一行だけ、墨で何度も塗りつぶされていた。

紙を光に透かすと、その下から文字が浮く。

北の瀬面、誰。

役人は、その行を破り捨てた。

「これは残すな。」

理由は語られなかった。

その後、その歌は少しずつ変わったという。

誰が変えたのか。

なぜ変えたのか。

それを知る者はいない。

ただ、子どもたちは今でも歌う。

けれど、最後だけは、もう昔とは違う

※「かごめかごめ」には地域ごとにさまざまな伝承や解釈があります。

東北地方では、方言として「籠の中の鳥が夜明けの寒い時間に、氷の上でつるつる滑っている」と受け取れるという話もあるそうです。

同じ歌でも、土地によってまったく違う情景が浮かぶことに惹かれ、この短編を書きました。

古い文献には、


かごめ かごめ

籠の中の鳥は

いついつ出やる

夜明けの番に(晩にと伝わるものもある)

つるつるつっぺぇつた

と書いて有るそうです。

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― 新着の感想 ―
はじめまして。 不思議な世界にひきこまれていきました。 >北の瀬面、誰。 唱えてはいけない呪文のような意味がある? 残してはいけない理由を知りたいです。
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