第25話 鋸歯
陽は、もう落ちていた。
地面にだけ、わずかに色が残っている。
男は足を止めた。
痕があった。
二人分。
深いものと、浅いもの。
歩幅が揃っていない。
枝の折れ方も荒い。
夜の森に慣れていない。
それでも進んだ。
長くは続かない。
男は前を見た。
木の間。
地形。
風の抜け。
休める場所は限られる。
狭い。
少しだけ開けている。
そういう場所で足が止まる。
遠くない。
男は歩いた。
新しい枝が落ちていた。
まだ湿っている。
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対象:森本
状態:生存
判定:想定外。
対象:グレッグ
運動出力:維持。
判定:想定外。
対象:石井 伊東
目的:遅延
予測時間:45分
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伊東紗奈は立ち止まった。
少しだけ開けた場所だった。
木の根が少ない。
座れそうな石もある。
「ここにいた方がいいと思う」
石井陸は振り返った。
「まだ見えるだろ」
もう暗かった。
「もう少し行こうぜ。誰かいるかもしれないし」
伊東は何も言わなかった。
石井は歩いた。
伊東もついていく。
木が近い。
枝が肩に触れる。
足元はもう見えなかった。
まだ見えると思っていた。
違った。
暗くなるのが早い。
空は少し残っている。
地面はもうない。
足が見えない。
着地点がわからない。
次の一歩が遠かった。
石井の背中まで、ときどき消える。
さっきの場所の方がましだった。
やっぱり戻ろうよ。
そう言いかけた時だった。
後ろで音がした。
伊東は振り返る。
何も見えない。
葉が一枚、遅れて落ちた。
石井に伝えようと前を向く。
「今」
そこまでだった。
石井の首から剣が出ていた。
喉の下から、後ろへ抜けている。
声は出なかった。
剣が抜けた。
石井が崩れた。
膝から落ちた。
遅れて上半身が倒れた。
その向こうに、男がいた。
目が合った。
伊東は走った。
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【ギフト:模倣】
身体能力、技術、ギフトを模倣し使用できる。
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石井の能力を使う。
【ギフト:質量変換】
体が軽くなる。
一歩が伸びる。
伸びすぎる。
足が浮く。
地面が遠い。
さらに軽くした。
跳んだ。
高すぎた。
枝にぶつかる。
幹に当たる。
体が弾かれる。
落ちる。
息が詰まった。
土の匂いが近い。
湿っている。
だめだ。
逃げきれない。
伊東は立ち上がる。
男は近い。
見えない。
だが近い。
伊東は枝を拾った。
適度な長さだった。
これなら使える。
【ギフト:質量変換】
細い枝が、手の中で鉄のように重くなる。
男の身体を重ねる。
脚。
肩。
重心。
技術。
男のギフトも使おうとした。
何も起きない。
男が来る。
伊東も出る。
同じ踏み込み。
速さも近い。
枝と剣がぶつかる。
そこで止まった。
押し込まれる。
何で押し返せないのか、伊東には分からなかった。
枝が流れた。
手首が開いた。
胸が前に残る。
体勢が崩れた。
同じはずだった。
男が入る。
剣は右から来た。
肋の下に入った。
深かった。
同じはずなのに。
二の太刀が来る。
首だった。
細い音がした。
枝が手から落ちた。
枝は、ただの枝の軽さを取り戻す。
※活動報告に『登場人物イラスト① 鬼塚美鈴』を掲載しました。




