少年商人、世界を“育てる”ことに決める
ポーションを配った日の夕方。
私はふと思い立ち、外の地面に少量をこぼしてみた。
「これで土壌の状態がわかるはずだけど……」
ぽたり、と落ちた瞬間――
乾ききった地面が柔らかくなり、小さな草がぽつぽつと芽を出した。
「……うわ、育った!」
横で見ていたリオが目を細める。
「ポーションに……植物活性効果が?」
「みたいですね! じゃあ……緑地化しましょう!」
「緑地化……?」
「はい! まずは土地を豊かに!」
十歳児の発想ではないらしいが、リオはもう驚くのを諦めたようだった。
―――
薬草畑は爆速で増えている。
そこから作れる簡易ポーションもどんどん増える。
「これを地面にまいて……」
ざばーっ。
すると、しゅるるる、と草が広がる。
(この世界の土地、弱ってるんだ……だから薬草が貴重になる)
私は一人でうなずく。
「土台が元気になれば、薬草ももっと育ちますよ!」
「お前は商人なのか農家なのかどっちだ……」
「商人です!」
―――
その後、雑草を干して束ね、布をかぶせて簡易ベッドを作ってみた。
「はい、リオのベッドできました!」
「……硬いな」
「ですよね……」
「俺は地面で寝るからいい」
「ダメです!」
(まぁこれは……いずれ改良しよう)
―――
木の枝や拾った板で簡易柵をつくり、薬草畑の周囲をぐるりと囲んでみた。
すると――
「スライム、入ってこない……」
リオが眉をひそめる。
「柵があるからか?」
「魔力の流れが変わってるのかもしれません。“結界”ってほどじゃないですけど、スライムは嫌うのかも」
「柵にそんな力が……?」
「ないです。多分このダンジョンがそういう性質なんです」
(便利だなこのダンジョン……農地革命の予感しかしない)
柵の内側なら安全とわかったので、私は村人達に声をかけた。
「柵の中の薬草を刈る仕事、募集します!」
「し、仕事……!? こんな村でも働けるのか……!?」
「日当、銅貨五枚です!」
「高い!!」
(高いの……? この世界の貨幣価値、感覚が壊れてる……)
泣きながら働きに来る村人多数。
(あ……また泣いてる……)
―――
ある朝、村の入口にピカピカの馬車 が停まっていた。
装飾がやたら豪華で、まるで王都の貴族が使うような代物。
「よう、坊や。噂を聞いて来た」
降りてきた商人は、他の行商人よりも身なりが良く、態度も落ち着いていた。
「薬草がたくさん採れる、と聞いたんだが?」
「はい、薬草なら売りますよ!」
(ポーションは絶対売らない……あれはヤバい)
商人が袋を開けて中身を見た瞬間――
「…………は?」
目が、完全に剥けた。
「こ、これ……! 質が……良すぎる……! 王都の薬草屋でも滅多に見ないレベルだぞ!?」
「そうですか?」
「“そうですか”じゃない!!」
商人は震える手で薬草をつかみ、まじまじと見つめた。
「坊や……これ、本当にどこで採った?」
「企業秘密です!」
「企業……?」
「で、買ってくれますよね?」
「も、もちろん買う!だが……この品質なら金貨三枚でも……」
「金貨三枚じゃ安いですね」
「…………は?」
「この品質なら、市場に流せば五倍以上の価格になるでしょう。 利益を取るために、適正価格は――」
私は迷いなく言った。
「金貨十五枚です!」
商人の手が止まった。
リオが後ろで小声で呟く。
「カイ……控えめに言って、強気すぎる」
「大丈夫です! 適正価格ですから!」
商人は震えながら、しかし――ゆっくりとうなずいた。
「……いいだろう。金貨十五枚で買おう」
「ありがとうございます!」
(これで資金、大きく増えた……! 商会の立ち上げが、また一歩進む!)
薬草を売り、重い金貨袋を受け取った瞬間、リオが低く囁いた。
「カイ……そろそろ本当に国が動くぞ?」
「動いてもらった方が早いですよ!」
「そういう問題か……?」
二人は笑いながら神殿へと戻っていった。




