薬草畑と、二人の商隊
翌朝、神殿の外に出ると、男――いや、リオンハルトが静かに立っていた。
「……昨日の話だが」
「はい?」
「お前なら……信じてもいいと思った。だから今日から仲間になる」
その言葉は、短いのにとても重かった。
「やった! よろしくお願いします、リオ!」
「リオ……? 縮めるのは早くないか?」
「長いので!」
「……そうか」
リオは少しだけ口元を緩めた。
―――
二人でダンジョンへ行き、昨日草を刈った場所を確認すると――
「……は?」
「えっ……もう生えてる……?」
そこには、昨日まで雑草だらけだった場所に青々とした薬草が一面に育っていた。
「この成長速度……魔力濃度の影響か」
(ダンジョン農法、正解だった……!)
「よし! これなら畑をもっと広げられます!」
「……十歳が言う言葉ではないな」
リオの突っ込みを受け流しつつ、私はせっせと雑草を刈り、薬草だけを選んで収穫した。
道中、スライムがぷるんと現れる。
「スッ……」
「やった! リオお願いします!」
「……任せろ」
大剣の軌跡が一閃し、スライムは一瞬で霧散。
残った魔石を私がちょこんと拾う。
(これ、すごく効率いいな……)
薬草はどんどん増え、スライムはどんどん消え、二人の作業は驚異的な速度で進んだ。
―――
「おう坊主、また来たぞ! 何か買うか? 何か売るか?」
行商人が軽い調子で声をかけてきた。
(よし、交渉のチャンス!)
「馬車、欲しいです」
「馬車だぁ? 金貨五枚は――」
「ポーションと交換でどうですか?」
「ぽ……!? ポーション!!?」
村人が聞いたら倒れるレベルの代物だ。
「質は低いですけど……飲めばちゃんと治りますよ」
小瓶を一本差し出すと、行商人は肩を震わせた。
「こ……これ……王都なら金貨二十枚の……!」
「じゃあ馬車一台と交換ですね?」
「い、いいとも!!」
行商人は大慌てで馬車を差し出した。
(これで移動手段は確保!)
―――
馬車を神殿に置き、今度はポーションの小瓶を持って村へ。
「こんにちはー! 簡単なポーション、一本銅貨五枚でーす!」
「……銅貨……ご、五枚……?」
村が静まり返る。
「そ、それは……原価割れでは……!? いや、そもそも本物なのか!?」
「本物です! 飲めば治ります!」
すると腰の悪い老人が試しに一口飲んだ。
「……ん? あれ……痛みが……?」
「治ってるぅぅぅう!!」
村が大爆発した。
「救世主だ!!」
「神童だ!!」
「神か!? 神の子か!?」
(……いやぁ……質の悪いポーションなんですけど……)
この世界の経済は、本当に歪みまくっている。
神殿へ帰る途中、リオが低く言った。
「……カイ。国に目をつけられるぞ」
「それくらいでいいんですよ」
「よくはないと思うが……」
呆れつつも、横で歩いてくれる。
神殿の古びた扉を開け、二人は今日も物資を並べ、作戦を練る。
(次は何を整える? 市場? 物流? 村の信用?)
やるべきことは山ほどある。
でも――
「リオ! 明日は薬草畑を三倍に広げましょう!」
「……お前は本当に十歳か?」
二人はそんなやり取りをしながら、また一歩、世界を変え始めていた。




