少年商人、第一王子を雇う
ポーションを村に届けて神殿へ戻ると、例の大剣の男が、妙にじっとこちらを見ていた。
座ったまま、しかし視線は私を追い続ける。
「……あの。喋りたいなら喋ればいいのに」
「……話がある」
静かに切り出した男の声は、どこか決意を含んでいた。
「俺は……この国の第一王子だ」
「…………へ?」
一瞬、世界が止まった。
「第一……王子……?」
「そうだ」
「だ、第一王子!?」
想像してたより“だいぶ重い身分”が出てきた。
「裏帳簿を見つけた。王城の金が、どこかへ消えていた。それを調べていたところ――“処理”されそうになった」
「あぁ……(納得)」
この世界の荒れ具合からすれば、王子が粛清されるくらい普通にある。
「逃げ出す途中でダンジョンに落ちた。気づいたら、あの有様だ」
(裏帳簿、権力の腐敗、粛清……お手本みたいな腐った国家の図式……)
「えっと……行く場所、もうないんですか?」
「……ない。味方が誰なのかもわからん。城には戻れない」
(働き口が……ないと)
私は金貨一枚を握り、男をまっすぐ見る。
「じゃあ――金貨一枚で雇われません?」
「…………………………は?」
男は目を見開く。
「だって行く場所がないなら、働けばいいじゃないですか。いま、ここに“人手不足”の商人がいますし」
「……お前は……第一王子を金貨一枚で買おうとしているのか……?」
「“買う”じゃありません。“雇う”です!」
大剣の男は、完全に返事を失っていた。
(まぁ、驚くよね……)
「それに、まずはベッドを作らないと。神殿の床じゃ可哀想だし……」
「……ベッド……?」
「はい! じゃあ行ってきます!」
「どこへ!?」
「ダンジョンです!!」
―――
村人はもちろん叫んだ。
「坊やーーーッ!? まだ行くのか!? 今日二回目だぞ!?」
「草取りに行くだけですー!」
走ってダンジョンへ向かう。
今日は薬草は採らない。
むしろ――
(薬草を育てる“畑”を作るために、全部抜かなきゃ)
雑草を刈る。
毒草を刈る。
ただの草を刈る。
薬草以外をきれいに片付けていく。
「これで光と魔力の流れが整って……薬草が育ちやすくなるはず!」
前の世界で学んだ植物知識と、薬師さんの話を合わせて考えた“簡易ダンジョン農法”。
(ダンジョンは魔力が濃い。つまり農地としては最高!)
―――
草を抱えて神殿に戻ると、男は壁にもたれてこちらを見ていた。
「……帰ったか」
「はい! 雑草刈りは順調です!」
「雑草……」
男は自分でも理解できていない顔をしている。
「少しは寝てました? 安静って言いましたよね?」
「……ああ。だいぶ回復している」
本当に傷はほとんど塞がっていた。
「じゃあ――薬草、育てましょう!」
「育てる……?」
「この世界だと、薬草が“採れる場所に依存”していますよね。だから絶対に価格が安定しないんです」
私は雑草を処分した袋を横に置く。
「だから育てます。薬草の安定供給の第一歩です!」
男はしばらく沈黙していたが、やがて――
「……お前、本当に十歳なのか?」
「はい! 十歳の商人です!」
この世界の改革が、また一つ始まった。




