この世界、物価が色々おかしい
男を寝かせたその夜。
神殿の天井の隙間から入り込む風が冷たかったけれど、
私はすぐに眠りについた。
(とにかく、明日から動かなきゃ)
そして翌朝。
「おーい! 誰かいないかー!」
村の入り口に、荷車を押した行商人が現れた。
私はさっそく様子を見に行く。
「こんにちは! 何を売りに?」
「おう、薬草と生活用品だ。ほら見てみな」
品を覗いた瞬間、私は絶句した。
(質……悪すぎない?)
乾きすぎて効き目が飛んでそうな薬草。
亀裂の入った陶器。
すぐ壊れそうな道具類。
なのに――
「薬草は一束、金貨二枚だ」
「……高っ!!」
そして、逆に魔石はというと……
「魔石は銅貨一枚で買ってやるよ」
(安っ!!)
昨日拾った魔石を見せると、商人は鼻で笑った。
「そんなもん銅貨一枚以上の価値ねぇよ。腐るほど出回ってんだからな」
(世界、色々めちゃくちゃだ……!)
話を聞いていくと、さらに驚く情報が出てきた。
「この世界じゃ行商が普通だ。店を構えるなんて無理無理。王都の土地なんぞ、貴族でも二の足を踏む高さだ」
「だから、店はなく、全部行商で?」
「そういうこった。売れる土地は高すぎて買えねぇ。だから皆“流れの商売”しかできねぇのさ」
(固定の店がない……供給が安定しない……だから質も悪いまま高止まり……)
カイの中で、ゆっくり世界の構造が見えてくる。
(……つまり改革の余地だらけだね)
―――
商人が去ったあと。
私はすぐに準備をしてダンジョンへ向かった。
「坊や!? また行くのかい!?」
「死ぬぞ!」
村人の叫びを無視して、手を振る。
「大丈夫です、逃げが上手いんです!」
本当に“逃げる”しかやらない。
スライムを見たら即Uターン。
気配を感じたら即バック。
(戦えないなら、逃げればいい)
とにかく薬草だけを掻き集める。
品質はバラバラだが、量だけは確保できた。
―――
神殿に戻ると、あの大剣の男が普通に座っていた。
「……おかえり」
「え!? 歩けるんですか!?」
「……薬草、効きが異常に早い」
(えぇ……!)
見ると、昨日あれほどひどかった傷がほとんど塞がっていた。
(薬草、高い理由これじゃん……! ていうか性能バグってない?)
でも……
「せっかくなので、ポーションにしちゃいましょう」
「ぽー……しょん?」
「薬草を煎じて濃縮して、効果を飲みやすくしたものです!」
昨日集めた薬草を仕分けし、質のいいものを鍋に入れる。
男は目を丸くして見ていた。
「薬草を……煮るのか?」
「はい! それで抽出液を作ります!」
火を弱め、混ぜ、煮詰め、香りが立ってきたところで火を止める。
「小皿に少し……はい、これ」
男は受け取り、恐る恐る口に含む。
「……っ……! 体の……奥が温かく……」
(効いた! よかった!)
残ったポーションを瓶に入れ、篭に入れて村へ向かう。
「こんにちはー! 薬草、ちょっとポーションにしてみました!」
差し出すと――
「っっっ……!? ぽ……ポーション……!?」
村人はその場にへたり込んだ。
「こんな高級品……! わ、我々のような者が飲んでいい代物では……!」
「いや、質の悪い薬草から作ったので……」
「高級品じゃぁぁ……!!」
(やっぱりこの世界、物価の概念ぐちゃぐちゃ!)
私は頭を抱えた。
(まずは……“市場の正常化”からだね)
十歳の商人は、混乱した世界の仕組みをひとつずつ見つめ始めた。




