少年商人、最初の“救助”と“誤解”
男を見つけたところまでは良かった。
問題は――
「……お、重い……!」
私は全力で男を背負いながら、よろよろと数歩だけ進んだ。
足が震え、膝が笑い、息がつまる。
十歳の身体で大剣持ちの大男を背負うなんて、最初から無茶だった。
「……やっぱり……む、無理……!」
すると背中で男が低く言った。
「……もういい。立てる」
「え?」
次の瞬間、男はふらつきながらもゆっくりと立ち上がった。
(動けるんだ……!)
そう思った、その時。
通路の奥で、ぷるん、と何かが揺れた。
「……スライム?」
気付くのが一瞬遅れた。
スライムは地面を這いながら進み、触れた草が――
じゅう、と溶けて消えた。
「ひぇ!!」
(この世界のスライム、怖すぎる!!)
しかし男は迷いなく走り出した。
「下がってろ」
傷だらけの身体なのに、動きは獣のように鋭い。
大剣が一閃。
スライムは一瞬で二つに割れ、霧のように消えた。
残されたのは――青白く輝く、小さな石。
「魔石だ。そこそこの値で売れる」
男はそれを拾い、当然のように私へ放ってきた。
「えっ、ちょっ……!」
慌てて受け止めると、男は低く言った。
「待ってろ。しばらく魔石を狩る」
「えぇ……!?」
(いやいやいやいや、傷だらけで何言ってるの!?)
「だ、ダメです! 取り合えずダンジョンを出ましょうよ!」
私は薬草を片手に、男の腕をぐいぐい引っ張った。
「まだ動ける」
「動けてません!」
「……む」
強い。とても強い。
でも、私は手を離さなかった。
「とにかく今は治療優先です!」
その辺に生えていた薬草を掴み、ダンジョンの出口へ引っ張るように歩く。
男は呆れたように息を吐き、それでもついてきた。
(……素直な人なのかな?)
崩れた神殿に戻ると、私は拾ってきた布を床に敷き、男を寝かせた。
「しばらくは要安静ですからね?」
「ガキに安静と言われるとはな……」
「言いますよ。だって傷だらけでしょう?」
男は何も言い返せなかった。
むしろその沈黙が正直だった。
―――
一息ついて、私は薬草を並べた。
・品質のいいもの
・効き目が薄いもの
・ただの草
薬師さん直伝の仕分けだ。
(この世界の人たち……多分、質とか知らないまま取引してる)
良品は男の治療用に。
雑な薬草だけを袋に詰める。
「じゃあちょっと行ってきます!」
「……お前、そんなに働く年齢か?」
「働きたいんです!」
村に戻り、質の悪い薬草をそっと渡した。
「これ……よかったら使ってください」
「う、うぅ……! あ、ありが……とう……!」
村人は泣いた。
いや、泣かなくても……雑草レベルですよ……?
「こ、こんな高級品を……タダで……!」
(高級じゃ……ないんだけど……!)
「これで……助かる……助かるよぉ……!」
泣き崩れる村人たちを見て、私は固まる。
(どれだけ世界が荒れてるの……? せめて“本物の薬草の値段”くらい、何とかしなきゃ)
その瞬間、私の胸の奥に“商人としての火”が静かに灯った。
「……よし。まずはこの世界の“物価と供給”を調べなきゃ」
金貨一枚と、少しの薬草と、輝く魔石。
そして傷だらけの謎の大剣使い。
(情報、仲間、資本……全部そろえていけばいい)
十歳でも、商人は商人だ。
私はゆっくりと拳を握った。




