荒れた商業都市と、ギルドの闇
国境を越えて十数日。
緑はいくらか広がったけれど、
遠くに見える灰色の街並みは、
どこか沈んだ空気をまとっていた。
「……ここが、一番近い“商業都市”だな」
「うーん……なんだか元気がないですね」
馬車を進めていくと、街の入り口に大きな看板があった。
“税金を滞納した者は処罰する”
思わず私は目を丸くした。
(……こんなに大きく書く必要ある?)
街に入ると、その意味がすぐにわかった。
通りには──
痩せこけた大人が転がり、力なく座り込む子どもたち。
その周辺には税金徴収の兵が睨みを利かせている。
そんな光景が広がっていた。
「……この街、食べ物がないんだな」
リオの声は低かった。
「税金が高すぎるんですよね?」
「多分な。町を見ればわかる」
商店も半分以上が閉まっている。
開いている店も、値段は法外。
売る側も買う側も滅びかけている。
(これじゃあ商業都市じゃなくて……“餓えの街”だよ……)
―――
「取りあえず、ギルドカード……作りましょう!」
「そうだな。支払いシステムが使えないと、土地ファンドが動かない」
ギルドの建物は外観こそ立派だが、人の出入りはやけに少ない。
扉を押すと、受付の女性がこちらを見て小さく会釈した。
「あの、ギルドカードを作りたいんですが……」
「……はい。申請ですね。では、こちらの用紙に──」
その時。
奥の部屋から怒声が響いた。
「おい受付!あの新人のマイレージ、今月も全部“徴収”しとけ!」
「!?!?」
私は思わずペンを落としそうになった。
受付の女性は一瞬だけ震え、すぐに顔を伏せた。
「……申し訳ありません。続けてください……」
(え、今なんかすごくヤバいこと言わなかった!?)
リオが眉をひそめ、受付に問うた。
「今のは……どういう意味だ?」
「……気にしないでください。申請を続けますので──」
「気にするなと言われてもな」
私も黙っていられなかった。
「あの、“新人のマイレージを徴収”って……どういう?」
受付は困ったように俯いた。
「……本来、マイレージは“本人の許可”がなければ動かせません。ですが……ここでは新人のマイレージを“ギルド上層部”が勝手に……」
「勝手に!?」
(ギルドカードって……そんな悪用の仕方できるの!?)
「皆さんは抗議しないんですか?」
「できません。抗議した者は……仕事を回されなくなるので……」
街の荒れ方。
ギルドの雰囲気。
謎の徴収。
(これ、完全に“内部の腐敗”だ……)
「受付さん、教えてください。新人さんの“誓約書”ってありますか?」
「……あります。皆さん、入会時に強制的に……」
「内容は?」
「“ギルドの管理のもとマイレージの調整を任せる”……という一文が入っています」
「それ、完全にブラック契約じゃないですか!!」
リオも険しい顔で頷いた。
「その内容なら……好き放題“搾取”できてしまうな」
「……はい」
(まずい……この街、想像以上に深刻だ)
「おい受付ぇぇ!! さっきの子どもどこに行った!?」
ギルドの奥から怒鳴り声がして、先ほどの男がこちらへ走ってきた。
「そいつだな!? カード申請なんてさせるな! うちの利益が減るだろうが!!」
(うわ……来た……)
私はゆっくり前に出た。
「あなたたち、新人のマイレージを勝手に徴収してますよね?」
「なんだガキィ!! 外の人間がでしゃばるんじゃねぇ!!」
「不正ですよ? 犯罪ですよ?」
「うるせぇ!!」
男が殴りかかろうとした瞬間、
「はっ!」
リオの足払いが閃き、男は地面に叩きつけられた。
「ぐべっ!!」
受付も通行人も固まった。
「……カイ。こいつ、どうする?」
「証拠を出してもらいましょう」
私は受付の女性へ微笑んだ。
「誓約書、見せてもらえますか?」
「……はい!」
契約書にはしっかり、
“ギルドはマイレージを調整する権利を持つ”
などと書かれていた。
(こんなの……完全に詐欺だよ)
そして、受付が涙を流しながら言った。
「ずっと……おかしいと思っていたんです。でも……誰も何も言えなくて……新人たちがどんどん搾り取られていって……」
「大丈夫です。仕組みを変えましょう」
「え……?」
「ギルドカードを作ったら、“正しいファンドの仕組み”を広めます。誰にも搾取されない仕組みです」
受付は微かに笑った。
「……お願いします……!」
―――
不正の責任者はリオににらまれるだけで青ざめ、一切反抗しなかった。
受付の女性は震える手で、新品のギルドカードを差し出してくる。
「こちらが……ギルドカードです。本来の“正しい機能”でお使いください」
「もちろんです!」
カードを受け取った瞬間、私は心の中でガッツポーズをした。
(これでファンドの完全自動化ができる! そして──この街の搾取構造も、変えられる!)
リオが隣で笑った。
「カイ、また一つ世界を変えたな」
「えへへ。まだまだこれからですよ!」
そして私たちはギルドを後にした。
灰色の街に、少しだけ希望の風が吹いた気がした。




