少年、荒れた世界に降り立つ
まぶしい光が引き、足元の感触が石へと変わった。
「……ここが、新しい世界……?」
私が最初に見たのは、ひび割れた床、崩れかけの柱――誰にも祈られなくなった古い神殿 だった。
手には、神様から手渡された 金貨一枚。
(また一から、だね)
胸の奥が不思議と温かい。
怖さよりも、わくわくの方が大きかった。
―――
崩れた神殿を出ると、そこは疲れ果てた村だった。
「お、お前……どこから……?」
「神殿なんて今は誰も使ってないのに……」
外に出たとたん、村人たちがざわつき始めた。
顔色は悪く、服は破れ、まるで今にも倒れそうな姿ばかり。
その手には、乾いた束になった薬草。
「これか……? 薬草、高いぞ……今は金貨三枚でも買い手がつく……」
「ダンジョンでしか採れない品だからな。命懸けだ……」
(薬草が……金貨? 世界、荒れすぎてるよ……)
―――
「坊や、まさか……ダンジョンへ行く気じゃないだろうな?」
「死ぬぞ! 大人でも戻れないんだ……!」
村人たちは必死に止めてくる。
けれど私は微笑んだ。
「薬草の“質”がわからないと、正しい値段をつけられませんから」
それだけ言って――小さな足で、ダンジョンの入口へ向かった。
(十歳でも……できることはある。何より、薬師さん直伝の目利きがあるから)
―――
ダンジョンに入ると、湿った空気と土の匂いが迎えてくれた。
「……こんなに?」
足元から壁まで、ありとあらゆる場所に草が生えていた。
薬草、毒草、ただの草。
種類も質もバラバラ。
(これ全部持って帰ったら……私が倒れるね)
私は一本一本を確かめながら歩いた。
「根の白さと葉の厚み……この環境なら、良い薬草はもっと奥に……」
薬師の目利きが役に立つ。
けれど、拾うだけでも一苦労だった。
そして――
「……今の、鳴き声?」
低い唸りが、奥へと響いた。
モンスターの声だ。
(怖いな……でも、行かなきゃ)
―――
唸り声の方向へ進むと、倒れた岩陰に“誰か”がいた。
黒いコートのような服は裂け、腕も脚も血まみれ。
なのに――
(大剣だけ、やけに綺麗……)
傷だらけの男は、呼吸も荒い。
ゆっくりと顔を上げて、私を見た。
「……ガキ……逃げろ……モンスターが……まだ近くに……」
声はかすれているのに、瞳だけは鋭かった。
(助けないと)
私は一切迷わず、持っていた薬草を取り出した。
「ちょっと失礼しますね」
「……なにを……?」
男の傷口に、薬草を丁寧に塗り込む。
薬師さんから習った練り込みと圧迫の手技を使いながら。
「し、しみる……っ!」
「効いてる証拠ですよ。あなた、かなり無茶したでしょう?」
男は驚いたように目を見開いた。
「……ガキ……何者だ……?」
「通りすがりの商人です」
十歳の少年が言うには、少しだけ背伸びした言葉だった。
ここから始まるのは――
腐敗した世界と少年商人の、新しい物語。




