第7話 エンディング
『ねぇねぇ、知ってる? 大魔王を"紐"っていうスキルで倒したのって、王国が召喚した勇者だったんだって』
『なにそれ凄い。でも禁呪でしょ? しかも魔王はさっさと倒されちゃって。それなのに世界を救ってくれたの?』
初夏の爽やかな日が差し込むおしゃれなお店の中で私はのんびりとコーヒーを飲んでいる。
一人で通りをぼんやり眺めていると、いろんな話が聞こえてくるが、決して魔道具で盗み聞きしているわけではない。
『そうそう、凄いよね。ロゼって人が説得したのかな? かっこいい人だったし』
『恋人なのかな? ステキね。大魔王を倒しに行く彼氏を助ける不運に負けない女の子』
聞いていて楽しそうな話もあれば、そうではない話もある。
まぁ、異世界から連れてこられた私には関係ないけどね……。
しれっと見えない"紐"を使いまくって髪型や表情などで印象を変えていた私は今も自由に王都で生活しているの。
何度も飲んでいるうちに竜の吐息で焙煎したコーヒーの味わいが気に入っていた。
大魔王の脅威が去った王都では、人々が明るく活気に満ちているから、眺めていて面白い。
そうそう。あの亜人の娘さん。
族長の子供だったんだって。
お手紙が届いて、今度ぜひ遊びに来て欲しいって言われた。
世界が平和になり、人間の犯罪も減ったから、折をみて行ってみようと思う。
王都とはまた違った料理や音楽を楽しめそうだ。
それもこれも、あの王子が即位して頑張っているおかげでもある。
彼はしばらく落ち込んでいたらしいけど、その間も政務はおろそかにしなかった。
見事に王国を復興させた。
その点については私は評価しているので、たまに相談に乗っている。
彼にはきちんと立場を鑑みて国王の手伝いができる女性を探すように助言しておいた。
なお、聖女イデアは猛アタックしたようだけど断られた結果、ずっと彼女を支えていた剣士と結婚したらしい。
カラン……。
ということで、めでたしめでたしでいいのに大柄な男が入ってきた。
はぁ……面倒ね……。
「こちらを確認もせずにすぅっと消えようとするなど、悪いことをしていると言っているようなものだぞ、セリナ。毎度のことだがな」
「怖い男に追いかけられているとしたら自然じゃないかしら、騎士マーガス殿?」
彼は正式に私の追っ手ではなく、『ロゼ』との伝言役になった。
そんなのでいいのかと疑問はあったが、彼曰く『平和な世界で楽な仕事をすることに異議はない。信義を汚すこともないしな』とのこと。
それならいっか。
まぁ私は『ロゼ』の女として、彼の意向を伝えてるってことにしてるしね。
『ロゼ』の名声はうなぎのぼりだ。
最近は王都に居ると声をかけられすぎて困るらしく、積極的にギルドの仕事で外に出ている。
つまり逃走している。
だが、彼はわかっているのかしら。
長期で外に出る仕事は危険が多く人気がないものが多い。それを積極的にこなしていることも名声獲得の一因になっているのだけども。
まぁ、私としては都合がいいから、聞かれるたびに『王都の人々のために頑張っています』とか、『みんなが幸せに暮らせるといいと思っています』とか答えている。
そろそろ『勇者ロゼ』に格上げするかもしれないわね。
しめしめ。
「俺にも彼女と同じものを」
「かしこまりました」
追っ手ではなくなったマーガスはコーヒーを注文して目の前に座る。
特に会話するでもなく、お互いのんびりと流れる時間を味わう。
やっぱり私はここでのんびり暮らすのが好き。
ロゼやマーガスやここの店長さんや市場の人々とたまに話しながらね。
それが守れたことで満足した。
さて、今日は劇場にでも行ってみようかしら。
ってそういえば、そもそもマーガスは何をしに来たんだろうか?
一応でも気を回してしまったのがまずかった……。
「今日はなにかあったのかしら?」
「どうも、隣の大陸に魔神が現れたらしくてな」
「……」
fin.




