第4話 救助要請……よね?
「まったく、王都にいたとは、貴様らは遊んでいたのか!?」
「……」
あぁ、こいつを殴りたい。
目の前で口汚く喋り、這いまわる豚を私の手で……。
「貴様も、舐めているのか!?」
「……」
お前なんか舐めたら舌と精神が死ぬ。
想像すらしたくない。
私の視界に入るな!
「無言でやり過ごせると思っているのか!? 処刑するぞ!?」
「陛下、お待ちを。今は危急の時ですので」
その豚をキラキラの王子様が止める。
爽やかな笑顔が似合う金髪の王子様が。
私、あの人と婚約させられて、1日で解消されたんだけどね。
彼は国王の言うことを全てきちんと聞くまるでお人形のような人物だ。
召喚された直後に親切に説明してくれたし、魔王を倒してほしいと頭を下げる姿は真摯だったし、無理を言ってすまないと謝りながら求婚する姿は誠実だった。
でも、それは1日だけ。
なにせ、私が召喚された翌日には魔王が倒れ、世界中に福音が鳴り響き、『魔王は倒れた』なんていう言葉が降り注いだのだから仕方がない。
倒した聖女イデアに罪はないし、王子にもないし、もちろん私にもない。
しいて言うなら……。
「ふん。気に入らん。とっとと大魔王を倒しに向かわせろ!」
この国王はギルティだと思う。
なにせ禁呪とされた召喚魔法を使うように指示したのもこいつだし、私をぞんざいに扱ったのもこいつ。
どうして自ら討伐の騎士を放っておいて、ピンチになったら呼び戻した挙句、罵倒なんてことができるのかしら?
つまりこれって救助要請よね?
頭の中まで豚さんなのかな?
それならいっそずっと『ぶーぶー』言っていてくれたら楽でいいのに、中途半端に人間の言葉を喋らないで欲しいわ。
「すまない、セリナ……いや、セリナ殿」
「お元気そうですね、殿下」
「君もな。いや、君はあの頃よりずっと顔色が良くなった」
「ありがとうございます。王都で楽しく過ごしておりましたので」
「そうだったのか」
こめかみをピクピクさせながらも、きちんと客人としての礼をとり続ける王子。
どうして彼があの豚から生まれたのかしら?
よっぽどできた王妃様だったのかしら?
だとしたらご愁傷さまです。あんな豚に嫁がされて。
「で? どうして私はここに連れてこられたのですか?」
「あっ、いや。さっき陛下が言ってしまいましたが……」
「大魔王を討伐せよと? 聖女たちは敗れたのですか? ……いえ、越権行為ですね。聞かなかったことにしてください。私の答えは『お断りします』なので」
「……そうか」
悲しそうな顔をする王子に少しだけ申し訳ない気分に……すみません、なりませんでした。
あなたたちから王城を追放されてから半年。私の心はだいぶ乾いてしまったようです。
むしろ、ここに来たのもロゼのためですしね。
あそこで逃げたらせっかく積み上げたロゼの名声がぱぁになってしまう。
こんな私のことを気にかけてくれて、なんだかんだ言いつつ好きにさせてくれて、寂しい時には気分を軽くしてくれる彼には感謝しているの。
だから早く戻らなくては。
「では、失礼します。また追っ手がかかるのでしょうか?」
私は王子に礼をした後、怖い顔のままのマーガスに視線を向けながら聞いた。
「それは……」
「願い下げだ、と言いたいが、他のやつが割り当てられるのも困るからな。追っ手はなくなるか、俺のままだ」
「では、引き続きよろしくお願いします」
そう言って私は王城を辞した。
大魔王が現れたといっても、王都からはかなり遠い場所。
隣国との国境近くではあるが、隣国側だ。
そこにある大森林の中に、巨大な城が再度出現したらしい。
前に魔王がいたのと同じ場所だ。
だからこそ迷うことなく聖女イデアたちは討伐に向かったのだろう。
そして恐らく敗れた。
まったく。
私のことを何だと思っているのかしら。
私は掃除屋さんではないのよ。
それに召喚目的は魔王討伐だったんだから、もう諦めて欲しい。
なぜ私が戦わないといけないのか。
「せっ、セリナ!? 無事だったのか……いてぇっ!?」
私がとぼとぼと王城から歩いていると、ロゼが駆け寄ってきて抱きしめようとしてきたので足を踏み抜いた。
別にそんな感動の場面じゃないでしょ?
これが絶体絶命のピンチから救助された私と助けたロゼ、なんていうシチュエーションだったらまだしも、私は歩いて自分で出てきたわけだしね。
「無事に決まってるでしょ? さぁ、帰りましょう」
「えっ? あぁ」
まぁ、私を助けてくれようとしたことは感謝しておくわ。心の中で。
だって言葉に出したらうぬぼれそうだからね。
ちなみに騎士に連行されたのにすぐ出てきた私を見て門番さんが驚いていたので『ロゼ様のお力です』とか言っておいたことは内緒にした方がいいかしら?
そうして私は帰ってきた。
まだまだ王都の生活を楽しむつもりだから。
それから7日後。
まさか……。
まさかこんなことになるだなんて、予想もしていなかった。
私の目に広がるのは……否。王都の住民の視界に広がるのは、崩れていく王城。
そして巨大な翼を広げ、王城に向かって延々と魔法弾を飛ばすモンスターの姿だった。




