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第3話 善行を積んだ先にあるものは?

「なぁ、お前、またなんかやっただろ?」


 いつもとちょっと違う気分だったから、今日はラブリーホエールのカツサンドを出すお店のオープンテラスでのんびりと石畳の通路を眺めていたら、眉を怒らせたロゼがやってきた。


「なんかってなに? 私は生きてるから、飲み物を飲んだり、ご飯を食べたりするよ?」

「当たり前だろ!? そうじゃなくって、競馬でロゼって言う黒髪ロングの可愛らしい女の子が高額な商品を落札して亜人にプレゼントしたって噂になってんだよ!?」

「そこまで特定できているなら、『なんか』なんて表現をするのは酷い」

「へっ? えっ、いや。えっ?」


 『酷い』を強調しながら両手で顔を覆ってみたら慌て始めた。

 

「なっ、何が酷いんだよ!?」

「ロゼは私を責めに来たということだろう? 他の人に浮気をしてるんじゃないかとか?」

「ちっ、違う!?」


 亜人さんの性別を言っていないことを利用して、それっぽく話す。

 もちろん顔は覆ったまま。

 

「お客様。ここは多くの方が利用するカフェですので、そういった大声でのお話はお控えいただけないでしょうか?」


 もちろんロゼは店員さんに叱られた。

 彼の"紐"を満喫する身としては、一応庇っておかないとな。

 

「すみません、店員さん。私が悪いのです」


 立ち上がって丁寧に頭を下げる。


「そうだぜ。まったく……」

 

 恐らく周囲の目を理解していないロゼは『私が悪い』という部分に反応しているが、周囲のみなさんは私が浮気をしたのかどうかに意識が向いたはずである。


「親の形見を奪われ、それが競売にかかってしまい取り戻しに来られたお嬢さんでした。可哀そうに思い落札してお渡ししたのですが……」

「えっ?」


 目の前で驚くロゼだが、周囲で声を殺して聞いている方々も無言で目を見張っている。


「勝手な真似をして申し訳ございませんでした。私はロゼ様のお名前で競馬以上に入っていたので、それで……」

「あっ、あぁ、そういうことなら問題ないんだ。怒鳴って悪かった」


 ロゼが途端に誤りはじめ、それを見た周囲が『あっ、許すんだ』という雰囲気になる。

 あと一息ね。


「ありがとうございます。お金も、ロゼ様にご配慮頂いたものだと言うのに」


 換金を手伝ってもらったんだから嘘じゃないわよね?

 うんうん。


「えっ? いや、それは……」

「ありがとうございました。さすがはロゼ様ですわ」


 余計なことを言いそうになったロゼを制止して感謝を述べた私は、食べ終わった食器とお代を残してロゼの腕を取ってさっさと退店した。


 欲を言えばもう少しのんびりとした時間を味わいたかったのに……。

 まぁこれで周囲の方々はロゼが彼女に預けたお金で人助けをしたということだけ残るでしょう。

 むしろ『あれがあのロゼ様?』みたいな呟きも聞こえてきたし、しめしめ。



 このところ現れたと言う大魔王のせいで、王都の空気もあまり良くない。

 人々の心も荒んでいるのか、犯罪も増えた。


 それによって昨日のあの子のような話も増えているらしいから、善行を積んだロゼの噂はいろいろと尾ひれがついているようね。


 帰り道、市場を通ったら有名になっているロゼは肉や野菜を安く提示されていた。

 『あぁロゼかい。あんた今日も若い子連れて。でも良い行いをしたんだってね。これ買ってきな。安くしとくから』なんて、たくさん声をかけられていたので、全部私が買っておいた。



「おい、そこは孤児院だぞ? なにやってんだ?」

「気にしないで。たくさん安くしてもらったからお裾分けよ」

「俺の名前は書くなよ?」

「もう書いたわよ?」

「おい!」

「じゃあ、一昨日できなかったデートに行きましょう?」

「よし、案内するよ」

 

 ちょろい……。

 私は買ったものの一部を孤児院にロゼの名前で置いておく。完璧ね。

 きっとロゼの評判はうなぎのぼりだろう。




 ロゼは繁華街を通り越していかがわしい地区にある美味しいお店に行こうとしている。

 

「前から行ってみたかったんだけど、なかなか機会がなくてな~」

「どういう意味かしら? なぜ私とならいいの? ねぇ?」


 あたりは完全な歓楽街。

 見えるのはニヤニヤした男たちと、着飾った女たち。

 別に合意の上で楽しむなら全く問題はないが、私は遊女ではないのだけれど?

 

「ごめんごめん。怒るなって。でも、セリナは俺より強いから、問題は起きづらいだろ?」

「まぁ変なことしてきたら下半身にさようならだけども」

「こえぇぇぇぇ」


 そんな中、ロゼが入ったのは、扉だけじゃなく建物全体が蔦のような植物で覆われたお店。

 正直、周囲の雰囲気には全く合っていないが、扉を開けると別世界が広がっていた。


 そこは静寂とオレンジ色の柔らかな光に支配された空間。

 木目調の重厚感のあるテーブル。

 深々とお辞儀をする受付の壮年の男性。


 驚いた……。

 同時に、肉の油の甘く香ばしい香りが鼻腔から脳髄を突き抜けて行った。


 そこから先は至福の時間。


 運ばれて来る料理はどれも美味しかった。


 やるじゃないロゼ。


 そうして素晴らしい料理を堪能し、少しだけお酒も頂き、案外楽しいロゼとの会話を楽しみ、空間を味わい尽くして私たちはお店を出た……。



「探していたよ、セリナ」


 出たところにいたのはぶっきらぼうな表情をしたマーガス。


「来てもらうぞ、王城へ」

「はい!?」


 せっかく最高の気分だったのに最悪よ。

 しれっとロゼは他の騎士に追い払われてるし。


 この軟弱者!?


 私が紐ならあなたは飼い主でしょ!?

 しっかりしなさいよ!

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