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第2話 競売を楽しもう

 渓谷から帰ってきた私はそのまま採取した植物を持ってマーガスのもとに向かい、換金してもらった。

 あとは襲ってきたので返り討ちにした後の食べ残しの中から売れるものはギルドで売り払った。


 私が持っているとおかしいものは、ロズに頼んで売ってもらった。

 

 報酬は合計で金貨8枚と銀貨7枚になった。


「セリナは早くランクを上げろよな~」

「面倒なのよ」


 今は臨時収入に浮かれたロズにたかっている。

 "紐"って便利よね?

 

 王都で人気の居酒屋で、ごった返していて正直よく店員が料理を持ってこれるなと感心するくらいに歩く場所がないし、騒がしい。


「だからって毎回俺が売ってるせいで、ギルドは俺の手柄にカウントしてしまってるんだぜ?」

「何か問題でもあるの?」

「はぁ~~~」


 大げさに手を広げながら、この世の終わりのような表情を作って話すロゼだが、私には何の感傷も浮かばない。

 予想していたのか大きなため息を吐かれたせいで空気が臭いじゃない。


 呼吸するのが嫌なので横を向くと、大柄な男たちが店員の女の子にしつこく絡んでいたので"紐"で足をもつれさせてロゼの方に倒しておいた。

 ロゼはそこそこ強いからワンパンで気絶させると、女の子が感謝を述べたあと、厨房に走っていった。


「可愛い子に感謝されて良かったじゃない」


 それに騒がしさの大きな理由の一つだったバカたちが気絶した男とロゼを見比べた後、そそくさと逃げて行ったので静かになった。


「またお前は……はぁ~~~」


 もう周囲に事件は起きてないから臭い息を吹きかけないで欲しいわ。

 

「あなたの名声が上がる。あなたの報酬が上がる。あなたは私に貢ぐ。私はのんびりと気楽に生きられる。最高じゃない」

「おい!?」

「うるさい」

「はい……」


 怒りかけても、睨むと止まるのは可愛いところだ。

 あれに"紐"かけて縛ってるだけなんだけどね。


 私の"紐"は案外便利だ。

 伸縮自在、硬さも太さも変えられる。

 鞭のように使うこともできれば、締めあげることもできる。


 ロゼは結構良い人で、私がはじめてギルドに登録して森に向かう時に声をかけてくれたの。

 心配してくれたんでしょうね。

 でも、それすら面倒だった私はゴブリンの首にひもを巻きつけ、そのまま首が転がり落ちるまで締め上げて見せたのよ。

 なぜか縮み上がってたわね。


 それからは頼んだらいろいろやってくれるから、私は"紐"を謳歌してるわけ。

 だからせめてもの恩返しに功績を貯める手伝いをしてるのよ。







『エントドールの首飾りです。金貨3枚から!』

「きっ、金貨4枚です!」

「私は金貨6枚よ!」

 

 翌日、私は予定通り競売に参加した。

 予定と違って懐が温かいから、余裕をもって見ている。

 スタートの倍の価格で場が温まる前に速攻落札する作戦ね。ふっふっふ。


 今日の目玉はかつて世界を席巻した魔王を倒した証である暗い魔力を湛えた玉。

 だから大金持ちさんたちはそちら目当てなので特に動きはない。


 魔王の玉を持っていれば大魔王に殺されない、なんて誰が言い出したのか知らないけど、信じてるのかしら?

 そんなものに興味がない私は欲しいものにベットしている。


 でも……。


「金貨7枚だ!」

「じゃあ金貨7枚と銀貨5枚」

「金貨10枚!」

「くっ……」


 刻んであげようと思ったのに、一蹴された。

 相手は……。



「なにをしてるのよ、マーガス」

「キミの方こそ正気か?」


 なによ。

 

「禁呪なはずの召喚魔法を使って不必要な人間を呼び出したどこかのバカと違って正気よ?」

「ちょっ!? しーーーー」

 

 慌てて口を抑えられたから、『きゃーーーー』とでも叫んで性犯罪者にしてやろうかと思ったけど、騎士の身分であれば恐らく私が怒られるから思いとどまった。


「競売なんて、落札者の記録が残るだろうが!?」

「良いのよ。どうせロゼの名前だし」

「あの軽薄な男か……本人がいないのだから意味がないのでは?」

「大丈夫よ。ロゼって女の子っぽい名前だから周囲は気にしないし、仮に何かあっても記録を見るのはここにはいない人たちよ」

「適当なのか、頭がきれるのかよくわからないな……」


 呆れた顔をしているが、もう半年もバレてないんだから問題ないし、バレても逃げるだけよ?

 

 私は何かあっても逃走したり戦ったりできるように、こうして魔道具を集めたりして準備しているのだから……。




 すみません、嘘つきました。

 ただ単に珍しくて面白くて綺麗だから見てるだけでした。

 ごめんなさい。



「これはやるよ」

「?」


 マーガスがプレゼントなんて明日は魔王でも降ってくるかもしれません。

 しかし、それを欲しがったのは私じゃないのよ。


「ありがとうございます。ではありがたく使わせていただきますわ」

「あぁ。可愛らしいキミには派手な赤はあまりに合わないようにも思う……ぐぅ……」

「余計なお世話ですわ。悪かったですわね、ぺったんこのちんちくりんで」

「そっ……そこまで言っていない……」


 うずくまるマーガスだが、これは半分冗談だ。

 彼は騎士なのだから私程度の軽い体重で足を踏んだからといってもそこまでのダメージはない……はず。


 それに言質は取ったわ。


「そこの方……これ、あげるわ」

「はぁ!?」

「えっ?」


 私の後ろの席で驚きに目を見張る綺麗な女性。

 耳は少し尖っていて、よく見ると額や腕にうっすらと紋様のようなものが描かれている彼女は亜人族だ。


 この競売で最初に金貨4枚を提示した娘でもある。


「あげるって言ったのよ。大事なのでしょう?」

「えっ、いえ。本当に? その……なんとお礼をしたらいいか……」

「いいのよ。結果的に私は金貨1枚も使ってないしね」

「はっ、はぁ……。すみません、お名前をお聞かせください。このご恩は一生忘れません」


 目に大粒の涙を浮かべるほど嬉しかったらしい。

 お母さんの形見ならそうよね。

 まったく、盗んだものを競売にかけるなんて、人間って酷いわよね。

 まぁ、盗んだなんて証拠は出せないだろうし、出て来て裁判をしても判事は人間だ。

 こういうところはこの世界の嫌いなところだけど……これも今は関係ないわね。

 

「マーガスよ」

「マーガス様」

「なんで俺の名前なんだよ!?」

「えっ?」


 ちっ……。

 お金を払ったのはあなたなんだから、納得して感謝されなさいよ。


「すみません。お支払いくださったことは感謝しますが、その……私はあなたに感謝したく……」

「わかったわ。ロゼよ」

「ロゼ様……」


 その娘は私の手を取って散々感謝し、身の上話までしてくれたからお菓子を持たせて帰らせたわ。

 今度はなくさないようにって思って、見えない"紐"で括りつけておいたから大丈夫だとは思うけど。






 

「お前……」

「黙ってね……」

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