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第1話 紐の勇者は婚約を破棄され、追放済み……でも、王都に居ます(笑)

『ねぇねぇ、知ってる? 魔王に対抗するために王国は召喚魔法に手を出して、"紐"っていうスキルを持った人を呼び出したんだって』

『なにそれウケる。魔王は聖女イデア様が倒してしまったのに?』


 春の穏やかな日が差し込むおしゃれなお店の中で私はのんびりとコーヒーを飲んでいる。

 一人で通りをぼんやり眺めていると、いろんな話が聞こえてくるが、決して魔道具で盗み聞きしているわけではない。


『そうそう、無意味だったみたいね。だから隠してるのかな?』

『そもそも召喚魔法自体が禁呪とされてるはずよ?』


 聞いていて楽しそうな話もあれば、そうではない話もある。

 まぁ、異世界から連れてこられた私には関係ないけどね……。


 


 

 『魔王は倒れ、お前は不要になった。婚約は破棄だ。そして悪いが死んでくれ』なんて言われて追手をかけられた私が王都でのんびりしてると知ったらあいつらは発狂するかな?

 どうでもいいけど。


 どうせ返る手段はわからない。最初こそ『魔王が倒れれば……』とか言っていたけど、倒れても変わらないじゃないの。


 それに、特に恋人はいなかったし、ブラックな職場に毎日20時間いるような生活に戻りたいとも思えない。


 ということで、こうして私はしれっと王都の中でのんびり暮らしているというわけ。


 召喚直後のまだ期待感マックスだった間に、私に色目を使ってきた王子様が身分証などは準備してくれていたおかげで冒険者として生計はたてられている。

 ちなみに、元の国みたいにその身分証をどこで使ったか、などを調べるような技術はないようだ。

 もしくは……。


 カラン……。


 大柄だが理性的な視線をこちらに固定した男が入ってくる。

 はぁ……面倒ね……。



「こちらを確認もせずにすぅっと消えようとするなど、悪いことをしていると言っているようなものだぞ、セリナ」

「怖い男に追いかけられているとしたら自然じゃないかしら、騎士マーガス殿?」


 ちなみに、先ほど話した王国の追っ手がこの騎士だ。


 なぜか泳がされている。


「こんな場所で騎士とか言うな。それに、どこか知らない場所に行かれるよりもこうして近くにいてくれた方が楽だしな」

「サボるのが?」

「当たり前だ。そもそも勝手に召喚しておいて不要になったから放出してさらに不正を隠すために殺すなど、騎士の仕事ではない」


 そのおかげで生きていられる私としてはありがたいけど、騎士とやらはそれは問題ないのだろうか?

 と疑問はあるが、彼は最初からこんな感じだ。


 私が召喚された時にも王子の傍に控えていた。私が猛獣だったら対処を命じられていたそうだ。

 こんな可愛らしい乙女を捕まえて失礼な話よね?


 まぁ、害はないんだし問題はないわね。


「今日はどうしたの?」

「これをやる」

「これは……」


 私の目の前に置かれたのは1枚の報告書。

 そこに書いてあったのはなんと……。


「えっ? 大魔王出現?」


 なにそれウケる。

 しかも聖女イデアとそのムカつく護衛であるランベルトは敗北?


 私がそれを読むのをマーガスは感情の籠らない冷静な目で見ている。

 うら若き乙女に対して、少しくらい見とれてもいいのよ?


 ……なんて、遊んでる場合じゃない。

 こんなものはこうだ。


「まっ、待て! ストップだ! 間違えた。こっちだ」

「えっ?」


 グシャ。


「あぁ!?」

「間違えるのが悪いわよね……間違えるのが。それで……あぁ、採取依頼なのね」

「くっ、お前の名誉回復のためにと思ったのに」

「興味ないわ」


 今さら私が大魔王を倒したとして、手のひらを返したように称賛するような国王とは思えない。

 むしろ、本当に役割が終わったと言って処刑しにきそう。


 関わりたくないわ。


 まぁ、採取の方は購入すれば高価だが、私であれば比較的楽に行ける場所によく生えている植物だった。


「気が向いたら行ってくるわ」

「一応、10日以内にはお願いしたいんだが」

「今日はもう何もしたくないし、明日は市場を食べ歩きするつもりだし、明後日からは魔道具の競売。その後は……」

「ちょっとくらい優先しろよ」

「報酬は?」

「……金貨5枚だ」


 とぼける私にあっさりと怒り始めた彼だが、平均的な平民の年収くらいの額をポンと提示した。

 ふむ……悪くないわね。

 そのお金があれば競売で狙っているアイテムを競り落とせるかもしれない。


「わかった」

「あれ? セリナだ。おーい!」

「明日行ってくるわ」

「あっ、お前は騎士だろ? なんでセリナに!?」

「助かる。では頼んだぞ」


 そう言うとマーガスはそそくさと去っていった。

 彼は今やって来た男とあまり仲が良くない。

 それを知っている私としては、このお気に入りのカフェの中で暴れるようなことをしたら許せないので、さっさと退席させた。


 そろそろ私も行こうと思ったので竜の吐息で焙煎したコーヒーを飲みほした。

 珍しいけど味はまぁまぁだったわね。

 なお、お代は"紐"で括りつけておいた。こうしておくと忙しくても他の客に盗られないし、あとでほどくのが楽しいと店長から言われているのよ。


 


「なぁ、セリナ~。明日の食べ歩きなんだけどさ~」


 代わりに入ってきたのは若くて、はっきりと言えばチャラい男。

 一応凄腕の冒険者で実績もあって、そこそこ有名だ。名前は……確かロゼ。

 対する私はあまり表に出ない仕事ばかりやっているので見た目は中位冒険者。


 ギルドの受付のお姉さんなんかは私のことを彼の"紐"だと思っているでしょうね。

 まぁ、それが私の能力でもあるんだけど。

 

「キャンセルね」

「あぁ、わかった。じゃあ、明日朝な……って、うぉおおぉい!?」


 わかりやすく大げさにのけぞるロゼ。

 なかなか良いノリツッコミだったわね。48点。


 でも申し訳ないけど予定が入ってしまったので、恨むならマーガスをどうぞ。

 

「大渓谷に行ってくるから」

「えぇえぇぇぇえぇえええぇぇぇえええ!?」


 

 ということで、私は自らの特殊スキル"紐"を駆使して、橋もかかっていない警告をいくつも超えて依頼された植物の採取に向かった。


 私の好みは王都暮らしだけど、たまにこうやって『あ~あぁあぁぁぁぁぁあああああ』とか叫ぶのも結構楽しいわよね。

 もちろんちゃんと服は着ているわよ?

 でも、たまにだからね?

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