シナリオ破りのエルフリーデ
「―― そのご決断で、いったい誰が救われるのでしょうか?」
よくある婚約破棄の風景。
王太子から公爵令嬢に向けられた。
◇
異世界転生である。それも「小説の中」の世界への。
前世で妹に無理やり勧められて読んだ「支離滅裂なラノベ」小説。そんな物語の中に、なぜか転生……いったいどんな冗談なの?
この世界が、あの作品の中だと気づくのに、かなりの時間がかかった。第一王子との婚約の話と、その時初めて聞かされた「この国の現状」。それでようやく思い出した。
そして、予定どおり<魅了>のスキルを持った男爵令嬢からのアプローチに、まんまと転ぶ第一王子。その女が<帝国のスパイ>とも知らずに……。
―― この後、私は婚約破棄の代替として「小国の王子」の元へと、嫁に出される。その後、私が「聖女」であることが判明し、小国は繁栄。代わりにこの国は、男爵令嬢の手引きで、まんまと帝国に蹂躙され、「滅亡」というシナリオ。
シナリオ?
ふざけるのも、いい加減にして!
転生して十八年。
私にも大事な、かけがえのない仲間たちが、たくさんできた。この王国内で! 私の数々の発明や改革に本気で喜び、感謝を伝えてくれた領民たちも、たくさんいる。そんな彼らを棄てて、私だけ暢気に小国でハッピーエンド? バカも休み休みに言いなさい、このおバカ原作者!
私は毎日、学園の裏庭で<未来>のむなしさを嘆いて、泣いた。そんな時、現れたのが、彼<オスカー>だった。
◇
「―― エルフリーデよ、お前には私の代わりに小国の王子ア……」
「お待ちください、兄上!であれば、この私オスカーめに、エルフリーデ嬢をお譲りいただけませぬか」―― 第二王子オスカーによる名乗り。
「いや、まぁ、それは……かまわぬが……エルフリーデは、その……少々面倒くさい女だぞ?」―― 王太子は、学業優秀、品行方正()な私に対し、強いコンプレックスを抱いていた。そこを男爵令嬢に付け込まれ、魅了もほぼ必要とせず、あっさりと篭絡されたのであった(怒)。
「兄上のお気持ち、ご理解いたします。しかし、公爵家との繋がりは我が王家としても非常に重要。小国の王子の元へなどは、さすがに……」
「……あい分かった。お前の好きにするが良い。たしかに取るに足りぬ小国へ送るより、王家との繋がりを強化した方が良いに決まっておる。だが、私はお前のことを思い、その話を提案出来なかったのだが……そうだな、国を思ってのお前の判断。褒めてつかわす」
ニコリと頷く、現王と王妃。
歯ぎしりしながら、その光景を見つめる帝国の女スパイ。
―― ここからは、シナリオにない「本当の第二の人生」の始まりだ。
私とオスカーはこの後、王太子を陥れ、廃嫡へと導くための準備を裏で着々と進めている。勝つか負けるか、勝敗は蓋を開けるまで分からない。だけど、これから私は「頭がお花畑な原作者」が産み落とした「記号としてしか扱われない人々」を救うため、絶対に負けられない戦いに挑むんだ。
幸いにもオスカーは兄に似ず、「非常に優秀な」モブの王子だった。原作では「名前すら付けられなかった」記号としての第二王子だった彼。そんな彼と共に、これからこの世界を描き直す。しかも、オスカーは超イケメン。かけがえのない人々のためとはいえ、こんなにワクワクすることも他にないよね♪
エルフリーデ先生とオスカーによる今後の作品の展開に、乞うご期待だからね!