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Angels  作者: 白蜘蛛
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Ⅴ-3(独日)タイプ“ゼロ”

いよいよ日本隊が到着する。

それを待ってイタリア隊も合流する手筈だ。


「いよいよか・・・13,000kmの距離を越えて・・・」

アンナは気持ちが高揚するのを感じた。

日本隊とイタリア隊が合流すれば9機、二個小隊を組める。

ドイツはスペイン内乱で活躍したヴェルナー・メルダースが考案したロッテ戦術を採用していた。


ロッテ戦術とは最小編隊構成を2機編隊のロッテ、ロッテ2組の4機編成をシュヴァルムと呼び一個小隊とするものだ。

この時代、世界の主流は3機編隊だった。

ドイツではケッテと呼ばれる3機編隊は、隊長の後方に僚機が2機ついて援護するスタイルだが、戦闘機の高速化に伴い、相互支援と編隊維持の困難さが目立つようになってきていた。

この時期を境に戦闘機の編隊構成はロッテ戦術が世界中の空軍で採用される事になる。


しかし、アンナはロッテをあえて採用せず、ケッテとも違う3機の戦闘編隊を考えていた。

日本もイタリアもケッテからロッテへは移行していないはずだ。

当面は各国3機ごとの構成となるだろう。

「さて、その後は・・・」

アンナは自分の頭脳がめまぐるしく回転しているのを感じていた。


◇*◇*◇*◇*◇


その回転をセーブするように、アンナは過去に想いを馳せる。


ドイツ特戦隊が5機のホーク75を撃墜した戦闘以来、予定されていたものも含め、マスコットガールとしての任務は中止された。

この報告を受けたアンナは、特戦隊の今後について、あえて説明を求めなかった。

上層部は悩み始めていたのだ。

アンナ達の能力は以前から一部では高く評価されていたが、先の実戦で証明された形となった。

それにしても、スピードを重視したBf109でホーク75相手に格闘戦を制するとは・・・単なる技量だけの問題なのだろうか。

アンナの高い指揮能力は様々なテストや任務で実証済みだ。状況を的確に判断して確実な戦い方をする。

だからこそ、なぜ相手に分がある格闘戦を挑んだのか。どうしても分らない。

結果を見る限り判断は正しかったのだろう。しかし・・・

違和感を感じながらも、戦術を含むフランスパイロットの質が低かったと判断するしかない。

釈然としないままレポートは提出された。


その後、特殊戦闘隊が所属するドイツ第3航空艦隊はパリに司令部を置いてイギリス機と戦闘を続けていたが、特殊戦闘隊は後方に置かれ、主な任務は哨戒と戦闘機空輸だった。

上層部がどのように評価しようと、女性パイロットの戦闘隊が受け入れられる訳はなかった。

そのような状況下、アンナは戦闘編隊構成についても様々な工夫を加え、特訓を繰り返す事で実力とチームワークを向上させていった。


そして、バトルオブブリテンでは、その力を遺憾なく発揮するが、ドイツがバトルオブブリテンに敗退、イギリス侵攻作戦が頓挫すると、第2航空艦隊は地中海へ転出。

第3航空艦隊の担当地区はフランス全土となった。イギリスへの大規模作戦が行われなくなると、ふたたび特戦隊は後方へ置かれてしまった。

アンナたち特戦隊は籍を第3航空艦隊に置きながらも、その特殊性から正規戦力として考えられてはいなかった。

空輸が主な任務だったが、誰もが嫌がる他航空艦隊への空輸も行い、時にはフランスのみならず地中海方面まで飛んだ。これによって、後に北アフリカ戦線に参加する事となる。


◇*◇*◇*◇*◇


日本隊はベルリンの西郊にあるガトウ飛行場に14:00に到着の予定だ。

アンナは上空で出迎えたいと申し出、許可が下りた。


14:00を15分ほど過ぎた頃、東の空に黒い点が見え、次第にはっきりと見えてきた。

その後方より白っぽい航空機が見える。

あの4機が日本の最新鋭機、タイプ“ゼロ”なのだろう。

アンナたちは一気に加速していった。アンナを上、エマとラルが下、正面から見ると三角形の編隊を組んでぐんぐん近づく。


Fw200は降下を始めた。

日本の4機はシュヴァルムの隊形を崩さず進んでくる。

相対速度であっという間に接近し、衝突直前のタイミングでアンナが上方へ、エマとラルが左右へ旋回して避けた。

アンナは日本機上空からスプリットSで今度は日本隊の下方から進行方向へ、エマとラルは日本機の後方から左右の位置を変えて横につける。

ちょっと驚かせた挨拶だったが、日本機は微動だにしない。エマとラルはそれぞれ、手を振っている。日本隊は敬礼で返す。


「新鋭機って話でしたよね?」ラルが聞くと、エマがすかさず答える。

「んー、増槽を二つもつけているわ。これで航続距離をのばしたのかしら。主脚も固定脚としては少々角度がおかしい感じです」

「二人ともそれくらいにしておけ、タイプ“ゼロ”は元々、引込脚の戦闘機だ。ロシアの地を13,000kmも飛んできたのだ。1週間かけて。何か理由があるのだろう」

「それにあの内1機はドイツ空軍が望んで取り寄せたのだ」

「主脚の間に燃料タンクがあるだろう。通常はアレを一つ装備して3,000km以上の飛行が可能らしい」

『3,000km!?』

「あくまで情報だ。格戦闘能力も高いらしい。中国での戦闘では相手がI-16ではあるが、負け知らずだそうだ」

「我々の歓迎はこれくらいにして、地上で出迎えよう。我らが先導するぞ」

『はいっ!!』

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