Ⅳ-2(伊)面接
列車はバーリを経由して時刻表どおりにブリンディシに到着した。
ナタリアは目を覚まし、目をこすりながら懐から時計を出して動きが止まる。
時計を見つめる目はこぼれんばかりに見開かれ、バタバタと降りていった。
エレナはその後から汽車を降りる。
ナタリアは荷物を持ったまま左右を見渡してた。バーリではでない事は確かだ。
「どうしよう、どうしよう」
声にならない気持ちが溢れる。
突然後ろから声を掛けられた。
「ここはブリンディシだよ」
ツーピースを着た赤毛の女性だ。ナタリアは迷子が母親に出会ったような心境だった。
この安心感に疑問をもつ間もなく、訴える。
「寝過ごしちゃったの!本当はバーリで乗り換えるはずだったのに・・・」
「面接に間に合わない、早くもどらなくちゃ!」
エレナは確信を得た。
「乗り換えるにしても、とにかくホームから出なきゃ。この辺りは詳しいから着いておいでよ」
何故かナタリアは全てこの人に委ねようと思った。他人に頼る事に慣れていないので余計におどおどしてしまう。
「そこのカフェでちょっと考えようか。喉も渇いたし」
ナタリアはそんなにのんびりしてられないと思ったが、何も言えなかった。
「ちょっと待って、電話するから」
声を掛けられて、ナタリアは自分も電話をしなければと思ったが、良く考えたら電話番号を聞いていない。
学校に電話して聞かなくちゃ。
でも、聞きづらいよね。さすがに。
もともと乗り気ではない面接だし・・・もうイイや。と半分やけになってきた。
赤毛の女性が電話機に話しかける。
「うん、そう。こちらは大丈夫。そちらは頼むよ。実はクラウディアは前に話をした事があるんだ。技術と人間性は保証するよ。あとは本人の気持ち次第ってところだろうけど、私がどうしても頼みたいって言ってると伝えてくれないか。うん、うん、駄目だったら私が出向くから」
ツーピースの女性は何やら話している。何気なく聞いていた。
時計を見ると、マルティーナ・フランカでの待ち合わせ時間をとうに過ぎていた。
もうすぐ11時、面接するはずだった時間だ。
ツーピースの上着の肩に引っ掛けた赤毛の女性が振り返る。
ナタリアは済まなそうに言う。
「ごめんなさい、行き先を教えてもらったり、今度は迷惑もかけちゃって」
「構わないよ、もう何も気にしなくていい。じたばたしてもしょうがないからね。カフェに入ろう」
席に着くとエレナはナタリアに聞いた「今日の予定は?」
ナタリアはまだ名乗っていない事に気付いた。
「名乗るのが遅れました、私はナタリア・パレッティ。今日は11時から面接だったんです」
「そうか・・・」
「もうどうしようも無いけど・・・」
時計が11時を指し、通りから鐘の音が聞こえた。
「ナタリア、時間だ。面接をおこなう」
「??」
「本日の面接を担当する、特別飛行隊隊長のエレナ・ジェルマーノ少尉だ。我が隊は優秀な搭乗員を求めている。よって、君を歓迎する」
もう、嫌も応もなくナタリアは飛行隊に入隊した。
ある意味、ナタリアはノックアウトされたのだ。
この短かすぎる面接の後、カプチーノが2つ運ばれてきた。
二人がブリンディシ特産のお菓子ペスキュエッテーレを食べ、カプチーノを飲み終える頃、話題はナタリアの両親がいるタラントへ遊びにいく事にかわっていた。